第18話 恋と福田君

サッカーボールの蹴る音と笑い声や掛け声が飛び交うグラウンド。

僕達1-Cのクラスはウォーミングアップがてら男女に分かれて1対1でパス練習をしてた。


球技大会は1年生6クラスのトーナメント制で2クラスがシード、前半が女子で後半が男子の試合で、女子の試合のスコアが男子に引き継がれる。

つまり女子が3-0で勝ってくれれば男子は0-2で負けたとしても3-2で勝ちということになる。


それにしてもうちのクラスは結構強いかもしれない。

女子の方は運動部志望の女子が多いだけあって、基本的なパスやトラップがすぐ出来ていた子が多く、男子はサッカー部志望は福田君だけなのだが、その福田君が色んなところに回り、優しくアドバイスを送ってた。

福田君本当に良い人だなぁ……。


「おーい、エビデン行くぞ」


おっと、よそ見をしてる場合じゃない、僕も恋とパス練してるんだった。


恋の蹴ったボールは放物線を描き僕の足元に真っ直ぐ飛んできた。

優しいボールだ。

僕はそれを足の外側、アウトサイドでトラップして恋に蹴り返す。

すると恋もアウトサイドでトラップしてボールを止めた。


恋、上手くないか?

サッカーをあまりやらない人がアウトサイドでトラップなんてしないと思うんだけど、トラップの動作も綺麗だし。


「エビデン、うめぇな!もうちょっと強くするぞ」


いいよーと返事をすると、先程よりも低くライナー性のボールが来た。

今度は足の内側、インサイドでトラップして恋にライナー性のボールを返すと恋もインサイドで簡単そうにトラップしてみせた。


楽しい!

僕は友達とこういうことがしたかったんだ。

1人空き地でボールを蹴っていた頃に恋がいたらなぁ、なんてことを考えていると


「上手いね!有村君」


と声を掛けられた。

福田君だ。


「もしかしてサッカーやってたの?」


目をキラキラさせて聞いてくる。


「やってないよ。たまに1人でサッカーボール蹴っていたけど」


「そっかそっか、俺もちょっと混ぜてもらっていい?」


うんと頷くと、僕、恋、福田君で三角形を作り、福田君が口を開く、


「ラブちゃん良いボールちょうだい!」


「ラブちゃん言うなて」


恋は今まで一番強く鋭いボールを福田君に出した。

福田君はそのボールを見るや否や、脱力し、インサイドでトラップ。

ボールは吸い付くように足元に収まった。

これだけで分かる、めちゃくちゃ上手い。

ていうかやっぱり恋と福田君、知り合いだよね。

恋のことラブちゃんって呼んでたし、


「恋と福田君って知り合いなの?」


パスを回しながら質問してみる。


「別に、中学の時同じサッカー部だっただけ」


知り合いじゃん。

やっぱりサッカーやってたのか、


「ラブちゃん結構上手かったんだよ。大会でも得点王なってたし」


そんなにすごかったんだ。

あれ?

でも……。


「なんで恋は高校でサッカー部志望してないの?」


急に顔が曇る二人、言っちゃいけないことだったかな。


「まぁ色々あってな、俺はサッカー部辞めたんだよ。帰宅部最高だぜ、サッカーはたまにやるから面白いんだ」


「……サッカーやりたくなったら二人ともいつでも来ていいよ。歓迎するからさ」


何があったのかは気になるけど、流石に深掘りは出来なさそうだ。

あんま思い出したくないことって誰にでもあるもんね。


そのまま3人でしばらくパスを回してると、


「優、次何にする?」


と明日香が相談に来たのでパス練習を辞めて、試合をすることにした。

1-Cクラスは男子18人女子18人の36人編成。

男女共に9対9のミニゲームが出来る。


今日はパスやシュート練習だけでも良かったのだが、試合形式にすることでどんな感じになるのか見てみたかった。

みんな動き良かったしね。


そんな期待を持ってミニゲームをしたのだが――。


結果はあまり良くなかった。

男子はまだ試合として成り立ってはいたのだが、問題は女子。

一部の運動部志望の子達がボールを囲むように群がり、いわゆる団子サッカーとなってしまった。

そのためボールが一向にゴールへ進まない。

さらに問題なのはボールに触れられない子がいることだ。

男子にも触れられないというよりはボールを持っているのが嫌なのか、ボールが来たらすぐに蹴る人がいたが、女子はボールが来ても群がる子達の勢いに躊躇ちゅうちょして一歩退いて見てしまう子がちらほらいた。


これじゃあサッカーやってても面白くないし、何よりチームプレーとは言えない。

せっかくオリエンテーションを兼ねた球技大会なのにこれでは運動部とそれ以外で溝が出来てしまう。


どうしたものかと考えながら着替えていると


「どうしたエビデン?難しそうな顔して」


「有村君、悩みあるなら聞くよ」


恋と福田君が声を掛けてくれた。


「いや、球技大会のことなんだけどさ、あのままじゃみんなが楽しんでサッカーが出来ないし、仲良くなるとは思えなくて……どうしたらいいかなと」


「エビデン」

「有村君」

「お前良いやつ過ぎるだろ」

「良い人過ぎない?」


息ぴったりだね君達。


「分かった。俺も一緒に考えてやんよ。どうせ家帰っても暇だしな」


「俺も今日は部活休みらしいから一緒に考えるよ」


君ら二人の方がよっぽど良い人の気がするけどなぁ。


「でもどこで考えようか俺の家は20分くらいかかるしラブちゃんの家も同じくらいだったよね」


あれこの展開は我が家になるパターンでは……。


「エビデン、お前んちここから近い?」


「徒歩10分くらいかな」


「じゃあエビデンの家でもいいか?もしダメなら俺か福ちゃんの家でもいいけど」


二人がせっかく相談に乗ってくれているのだ。せめて場所くらいは提供したい。


「ちょっと待ってね確認してみる」


そう言ってメッセージアプリを開いた。


『(優)明日香、今日恋と福田君が家に来るかも』

『(明日香)いいんじゃない?』

『(優)同棲してるのバレるとあんまり良くない気がするんだけど』

『(明日香)そうかな?まぁ優が嫌なら私、先に家帰って部屋に隠れてるね』

『(優)ありがとう。靴も隠しておいてね』

『(明日香)ラジャー』


「大丈夫そう。じゃあうち来る?」


「「行く!」」


こうして恋と福田君が我が家に来ることになった。

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