第17話 クラス委員の初仕事

キーンコーンカーンコーン


昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。


ようやく午前の授業が終わり、自分の席に着いて、机に突っ伏す。

体が痛い。

完全に筋肉痛だ。

どれだけ運動してなかったのだろう。

ここまで酷いのは初めてである。


朝なんて痛みでベッドから起き上がるのに10分くらい掛かった。

明日香に至っては


「私の体おかしいよ。優、私こんなの知らない」


ってひっくり返った亀みたいになりながら言ってた。

病気のせいで体を動かすこと自体ほとんど出来なかっただろうし、筋肉痛も初めてなんだろう。

そのうち治るからとは言っておいたが……。

明日香の方を見ると明日香も机に突っ伏しながらおにぎりを食べていた。

こらやめなさい明日香、みんなからマナー悪いと思われるでしょ。

ていうか、相当きつそうなのに食欲が勝つんだ……。


「エビデン、一緒に飯食おうぜ」


恋が焼きそばパンとイチゴオレを持って話しかけてきた。

そうだった僕もご飯食べなきゃ。

鞄からエビマヨおにぎりを取り出して食べ始める。


「土日はどうだった?高憧となんかあったか」


「まぁ、それなりには……」


とりあえず恋に土日起きたことを簡単に説明した。


「ふんふん。高憧の家族に挨拶して、高憧の家に泊まって、一緒に寝て、デートして、ナンパしてきたやつ追い払ったねぇ……」


同棲のことは一応伏せておこう。

周りに知れると面倒なことになりそうだし。

てか恋、そんな確かめるように言わないで……。

言われてみるととんでもないことしてるの分からせられちゃう。


「エビデンと高憧まだ付き合ってないんだよな?」


うんと頷く。


「恋人通り越して、もはや夫婦だろこれ」


いやもうおっしゃる通りで、ぐうの音も出ないド正論でございます。


「でもやるじゃんエビデン、ナンパしてきた奴らを追い払うなんて」


まぁ、仁さんが追い払ったみたいなもんなんだけどね。


「俺の力で追い払った訳じゃないよ。運が良かっただけ」


「運も実力のうちって言うだろ。結果的に追い払ってるなら、エビデンの功績だろ」


紙パックのイチゴオレを飲みながら恋はそう言う。

恋、良い奴だよなぁ……。


「恋は土日何してたの?」


「まぁ、俺も似たようなもんだよ。舞と一緒にいる時間が多かったな」


金曜日から思ってたけどもしかして……


「弦本さんと恋って付き合ってんの」


言った瞬間に、恋はゲホッゲホッとえずいてイチゴオレを吹き出しそうになっていた。


「バカ、付き合ってねぇよ。幼馴染みってだけ。家が隣だから仕方なく一緒にいる時間が多いんだよ」


怪しい……。

もうこの反応、好きって言ってるようなもんでしょ。


「……へぇー」


にやにやしながらそう言うと、恋は顔を少し赤くして、違えってのと否定する。

青春ってこんな感じなんだろうか。


小学校、中学校と人とあまり話さず黙々と給食やお弁当を食べていたから、こんな感じに同級生とわいわい話しながら食べるのは初めてで新鮮な感じがする。


「そういや次の体育、球技大会の練習らしいな」


球技大会?

入学して早々に?


「いきなりそんなのあるの」


「なんかオリエンテーションみたいな感じらしいぜ。友達作りのためにやるんじゃね」


友達作り、僕と明日香にぴったりじゃないか。

なんとかクラスメイトと打ち解けられればいいんだけど……


「1年生はサッカーで上位の成績から順に文化祭でやる出し物を優先的に決めれるらしい」


「ふーん」


サッカーとはなんてタイムリーな……。


「うちのクラスは有利だよな、女子は運動部入る予定の奴が多いし、男は福ちゃんいるしな」


「福ちゃん?」


「福田康太、小、中とここら辺じゃ有名だったぜ。ボランチで攻守の要、顔も性格もイケメンで非の打ち所がねぇ奴だよ。ほらそこにいんだろ」


恋が目線で方向を示す。

ていうか、なんかやたら詳しくない?

知り合いなのかな。


とりあえず恋の示す先を目で追う。

いたわ、めっちゃイケメン。

しかも、明日香の隣の席だ。

今まで全然気づかなかった。

どんだけ明日香しか見てなかったんだ僕……。


その福田君は心配そうに明日香を見ていた。

福田君、明日香にその体勢で食べるのはマナーが悪いって注意してあげてくれないかな。


そんなことを思っていると本当に福田君が明日香に声を掛けた。


なにやら盛り上がっている。

そういえば明日香がクラスメイトと喋るところなんて初めて見た。

明日香にとって良い事だ。

でも何故だろうモヤモヤした気分になる。


すると急に福田君がこちらを見た。

目が合うと微笑んでこちらに手を振ってきたのでこちらも手を軽く振り返す。

すると嬉しそうに手をさらに振ってくる。


なにこの人、犬っぽい。

犬系男子ってこういう感じの人を言うんだろうか。


「まぁあいつ、悪い奴ではないから安心しろ。高憧取られたりしねぇよ」


にやにやしながら恋が言う。


「そんなこと考えてないよ」


「エビデーン。嘘は良くないぞ、福ちゃんが高憧と喋ってたとき、すげぇ微妙な顔してたぜ」  


んなわけないと否定した。

ほれほれ本心はどうなんだとか恋が言ってくるが否定し続けた。


そんなに分かりやすく顔に出てたかな僕。

やっぱこれヤキモチ妬いてるってことだよな……。

明日香を取られたくは無いけど、友達は作って欲しい。

一体僕は明日香にどうして欲しいんだか――。  


ご飯を食べ終わり、ジャージに着替える。

ジャージのジッパーを上に引っ張り上げたところで恋がそういやと喋り出した。


「球技大会って係なかったんだよな。もしかしたらクラス委員が担当することになるかもな」


「まさかそんなわけ、クラス委員なんてスポーツと何も関係ないじゃん」


「だよな」


二人でハハハと笑い、グラウンドに出る――。


「球技大会はクラス委員に仕切ってもらう。各クラス頑張って優勝目指せよ!」


見事なまでのフラグ回収。

グラウンドに着いた瞬間、体育教師から告げられた。

クラス委員の初仕事。


先生どういうことだよ!

クラス委員あんまり仕事無いんじゃなかったのかよ!

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