第15話 同棲開始①

春の夕暮れに心地よい風が吹き、桜が舞う。

僕は近所の公園でランニングをしていた。


デートの後、明日香は一旦家に残り荷造りをすることになった。

明日香曰く、準備に少々時間がかかるとのことだったので、僕は仁さんの車に乗ったまま、先に我が家まで送って貰うことになった。


車に乗ってる間、僕は仁さんに初デートで起きたことを説明した。

流石にキスのことは伏せたが、それ以外の楽しかったことも危険な目に合わせたことも全て、もちろん怒られる覚悟で……。

すると仁さんは、


「明日香がそう言ったなら僕が言うことは何もないよ。むしろ、また有村君は明日香を助けてくれてるじゃないか。君になら明日香を任せられると改めて思ったよ」


と言ってくれた。

ありがたい限りだ。


我が家に到着し、家に入ると今日から本当に明日香と同棲するという現実が押し寄せて来る。


明日香と常に二人きり……

幸せなことも多いだろうがこれまで以上に自分自身と明日香を比べてしまうことも増えるだろう。

アミューズメント施設での決心は揺るがない。

明日香の隣にいても恥ずかしくないようにしたい。


そう考えると居ても立ってもいられなくなり、今こうしてランニングしている。


仁さんの筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの体まではいかないが少しは筋肉をつけて、明日香の隣にいても恥ずかしくないようにしたい。


公園の中を走っていると広いスペースのある芝生が見えてきた。

ここなら筋トレが出来そうだ――。


芝生の上で腹筋、背筋、腕立て伏せ等の筋トレをして、公園の時計を見ると17時丁度。

夕飯前には明日香が来る予定なのでそろそろ帰らねば、ランニングを再開し、我が家へと向かった。


――我が家に到着したがどうやらまだ明日香は着いていないようだ。

汗をかいたし、とりあえずシャワーを浴びることにした。


シャワーを浴びながら夕飯どうしようかな、結局ナンパ騒ぎでお昼食べなかったし、明日香はお腹空いてるだろうなと考え、早くていっぱい作れる中華料理にしようかなと考えがまとまったところで、風呂場のドアを開けた。


「きゃっ……」


ドアが開いた音に驚いたのか明日香が尻もちをついていた。


「明日香!大丈夫?」


急いで駆け寄り明日香に怪我はないか確認する。

明日香は片手で目を辺り覆い、もう片方の手をこちら側に広げた。

何してるんだろう。


「……てる」


「え?」


なんと言っているのだろう。

顔も赤くなってるし大丈夫なのだろうか。


「見えてる!見えてるんだよ……優のやつが」


明日香に言われて下を見る。

うん、丸出しだね。

……丸出しだねっ!?


慌ててバスタオルで隠す。


「お、お見苦しい物をお見せしまして……」


「い、いえ結構な物でして?」


「「…………」」


二人とも無言で明後日の方向を見る。


「あの……明日香さん?とりあえずこの部屋から出てって頂けます?」


「そ、そうだね。ごめんね。今出ていくね」


同棲生活のスタートからこれってどうなの……


――とりあえず部屋着を着て、リビングへ向かう。

そういえば何故明日香は家の中にいるのだろうか?

鍵渡してないんだけどな……


「明日香どうや……って」


ここまで言い掛けて、リビングに入ると明日香がエプロンを着て、台所に立っていた。

あら、かわいい……じゃなくて。


「明日香ご飯作れるの!?」


「結構ひどくない!?」


だって、明日香さん食べるイメージしかないし……


「私、たまーに家でご飯作ってるんだよ。今日はエビマヨにしようと思って、優はエビマヨ好き?」


「大好き!」


「もっかい言って」


「大好き!」


よしよしと頷き、満足そうな明日香。

エビデンってあだ名になってるしね。

エビならなんでも大好きです。


「作ってるとこ見てても良い?」


「いいよー」


許可を得たので台所に入り、まず目に入るエビの山。

ワオ!シュリンプフェスティバル!

ていうかよく見るとお米もたわらで置いてある。

俵!?


「……明日香さん?このエビと俵どうしたの?」


「優がエビ好きだからエビ料理作りたいって言ったらお父さんが買ってくれたの。お米もこれくらいあればしばらくもつでしょって」


仁さんまじ天使。

エビ結構高いのよ、お米も俵っていくらなのかしら。

もう仁さんの方向に足を向けて寝れないや。


「やっぱ下処理だけでも手伝うよ。エビの量すごいし」


「ありがと」


僕もエプロンを着て、明日香の隣に並ぶ。

エビの下処理は殻をいて、背わたを取って、片栗粉と塩で揉む。

割と面倒な作業だ。


黙々と作業していると、明日香が口を開く、


「なんか……夫婦みたいだね」


本当に恥ずかしいことをさらっと言っちゃうかなこの子は……。

でも言われてみれば初めての共同作業だ。

初の共同作業がエビの下処理て……。


山になってたエビがみるみる下処理されていく。

すると、エビの影からオレンジが出てきた。


「明日香、このオレンジは?」


「エビマヨに使うんだよ」


オレンジをエビマヨに?


「私のポリシーなんだけど、料理するとき、1つアレンジしたくなるんだよね。だからお父さん達からギャンブル料理って言われてるんだ。味はお楽しみだよ」


ギャンブル料理……。

チャレンジ精神は嫌いじゃないけど合うかなぁ。


「下処理も終わったし、後は私に任せて!大丈夫大体50%で成功するから」


頼むぜ明日香シェフ、1/2を勝ち取っておくれよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る