第14話 デートのお礼
明日香が休憩スペースに行ってから約10分が経った。
そろそろ行ってもいいだろうか。
メッセージアプリで明日香に確認を取ってみる。
『(優) 明日香大丈夫?そっち行ってもいい?』
『(明日香) 大丈夫だよ』
これはどっちの意味の大丈夫なのだろうか……
しかし、明日香の状態が気になるし、さっきのことを早く謝りたい。
とりあえず行ってみることにしよう。
そう思って休憩スペースに向かった。
休憩スペースには割と多くの人がいて、学生の集団やカップル、家族連れの人達が楽しそうに話しながら疲れを取っていた。
明日香はどこだろうと思っていると、端の方から聞き覚えのある話し声が聞こえる。
明日香と……3人組の男達?
「えー!お昼ご飯おごってくれるんですか」
「いいよいいよ、連れの子が来たら行こう」
これ大丈夫じゃないねぇ。
すっごい嫌な予感しかしない。
そんなことを考えていると明日香が僕に気づいて、手を振っていた。
「優ー!ここだよー!」
「この人達がご飯おごってくれるって」
振り向いた瞬間、うわって感じの顔をする3人組。
ごめんなさいね。
優"ちゃん"じゃなくて。
明日香の隣に座って口を開く。
「ごめんお待たせ明日香。この人達は?」
「左から、たくまさん、ひろさん、たかしさん、私見てたらご飯おごりたくなったんだって」
3人とも顔をひきつってるなぁ。
多分あちらは僕のことを完全に彼氏だと思っている。
一芝居打ってみますか。
「そうなんですね。おごってくださるんですか。俺達結構食べるんですけど大丈夫ですか?」
え?……と3人組がハモる。
「明日香、朝ごはん何食べたっけ」
「えーと、ご飯6杯とお味噌汁4杯、鮭の塩焼き5つと卵焼き3つにお漬け物かな」
こういうことを女の子に言うのはあれだけど、熊かな?
ちなみに卵焼き3つは3切れってことではなく、丸々の状態を3つである。
流石に隣で見てて震えた。
すると3人組が相談を焦るように始めた。
「だからあんなかわいい子、辞めようって言ったんだ。彼氏いるに決まってるだろ」
「なんだよ
「でも本当にあれだけ食べるなら俺らの財布大丈夫かな」
丸聞こえなんだけど……
後もう一押しで帰ってくれそうなんだけどなぁ……。
あ、いいこと思い付いた。
明日香に耳打ちして、メッセージアプリで写真を送って貰った。
それを確認し、僕は3人組の元に寄る。
「ちょっといいですか。お話しておきたいことがあって」
明らかに身構える3人組。
そりゃそうだよね。
ナンパしようとした女の子の彼氏みたいなやつから話しかけられるんだもの。
「……な、なんだよ」
「皆さん、もう既に分かってるとは思いますが俺はあの子の彼氏です。ナンパするのはちょっと遠慮してほしいというのと、もし本当にこのままご飯を食べに行くなら食べ放題をおすすめします。普通のお店なら間違いなく財布の中身全部無くなります。覚悟しておいてください」
「後、これが一番言いたかったんですけど、これがあの子のお父さんです」
そう言って僕はスマホの画面を見せた。
そこにはサングラスを掛け、黒塗りの高級車の前で立つ仁さんの写真が映っている。
明日香……なんでこんな写真あるの。
仁さんの写真ある?って聞いたけどこれは流石に予想外だった。
おかげ助かったけども……
「ここで遊んだ後、お父さんが迎えに来る予定なんですが……大丈夫ですか?」
「「「すみませんでした!!!」」」
3人組が逃げるようにこの場を後にした。
話が分かる人達で良かった。
「あの人達なんでいなくなっちゃったの?」
そう言って首をかしげる明日香。
やっぱり明日香は仁さんが言った通り、人との距離感が異様に近い。
これまで高憧家の皆さんや病院の人達と言った優しい人達としか関係がなかったせいだろう。
悪い人がいるっていう考えが無さすぎる。
友達がいない僕が言えた義理ではないが明日香ももっと周りとコミュニケーションを
とりあえず明日香にはちょっとお説教しなきゃ。
「明日香、なんであの人達の話断らなかったの?危なかったんだよ明日香は」
僕は明日香の肩を掴んで注意する。
「あの人達は明日香をナンパしてたの。もし、ついていってたらご飯だけじゃなくて……いやらしい事とか無理やりされてたかもしれないってこと」
「明日香はかわいいんだからそういうことにはもっと注意しなきゃダメ!わかった?」
「……うん、ごめんね優」
流石にしょぼんとしてる明日香。
ちょっと言い過ぎたかもれない。
「俺もごめん。助けに来るの遅くなって……後、身体に負担かかるようなことをさせてごめん」
「なんで優が謝るの?私が勝手にやった事だよ。優に責任は無いし、それに優は守ってくれたじゃん」
「見て、私の身体なんともなってないでしょ。無事だよ。優が守ってくれたからだよ」
「無事だけど、俺がいなかったらそんなことに……」
ここまで言ったところで明日香に抱き締められた。
耳元で明日香が
「確かに優がいなかったらこんな事は起こらなかったよ」
「でも、優がいなかったら楽しかった事も起こらなかったでしょ。私は今日、すっごく楽しかった。初めてのデートで初めてこういうところで遊べて、初めてまともに体を動かせて……。しかも大好きな人と一緒に」
「優は1人で背負いすぎだよ。そもそも私がデートしようなんて言わなかったらこんなこと起きてないでしょ」
「だけど……」
「だけどじゃない。こういうときは俺も明日香といれて楽しかったって言えば良いの。道徳の教科書に書いてあったでしょ」
そう言って離れる明日香。
どうも僕と明日香の道徳の教科書は違うらしい。
有能すぎるだろ道徳の教科書。
女の子を知るためのバイブルにした方が良い。
でも……仁さんに明日香のことをよろしく頼むまで言って貰って、人との距離感、心臓疾患どちらでも問題を起こしてしまったのは事実だ。
明日香もだが仁さんにも申し訳ない。
自分自身が情けなく感じる。
その様子を見ていた明日香がため息をつく、
「もう!優は言葉で言っても伝わらないんだから……」
そう言うと明日香は僕の頬にキスをした。
「……」
時が止まったような感覚。
急な出来事に言葉を失う。
「……今日のデートのお礼。それだけ優に感謝してるってことだからね」
キスされた頬が熱くなる。
ようやく感情が追い付いてきた。
そして、周りの人達の視線に今さら気づく。
本当にこの子はメンタルどうなってんだか……。
嬉しさと恥ずかしさが一気に押し寄せ、情けなさを吹き飛ばす。
「……明日香」
「なぁに」
「俺も明日香といれて楽しかった」
自然と口角が上がり、自然と言葉が出た。
一瞬の
「優はやっぱり笑顔が似合うよ。これからもその調子で頼むぞ、私の未来の彼氏さん」
……未来の彼氏さん、ね。
釣り合ってる釣り合ってない、誇れる存在になれるなれない、悩むのはもう辞めた。
僕は明日香の隣に居たい。
明日香の彼氏になりたい。
誰にも明日香を渡したくない。
明日香と釣り合う男に、明日香が誇れる存在になるんだ。
そう決心した。
「明日香、行こっか」
明日香に手を差し出す。
「うん!」
明日香は差し出された僕の手を握り、二人で歩を進め出す。
こうして僕と明日香の初デートは幕を閉じた。
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