第13話 初デート

とりあえず一旦、制服に着替えて明日香を待つ。

それにしても、着替えにしてはやけに時間が掛かっている。

女の子は準備に時間が掛かるのよって母さんも言ってたけど本当なんだなぁ。


「優、お待たせ」


ようやく明日香が降りてきた。


私服姿の明日香も良い。

しかし、注目すべきは私服よりも髪型だった。

未来さんの髪型と同じく上の方で編み込んでいる。


「これお姉ちゃんにやって貰ったの、良いでしょ」


あねさん、一生ついていきます。


「すごく似合ってるよ」


「うんうん、素直に誉めれて偉いぞ優、女の子は誉めて伸ばさないとね」


明日香はそう言って頭を撫でてくる。

膝枕の時も思ったが僕は撫でられることが結構好きみたいだ。

なんか甘えん坊って感じがして嫌だが、男は変態で甘えん坊がデフォルトなんだきっと……


「そういえば優、着替え持ってきてなかったね。制服のまま行く?それとも行くのやめる……?」


あからさまにしゅんとする明日香。

僕のために体が動かせる施設を選んでくれて、なおかつ髪型を変えるくらい気合い入れて準備をしてくれた。

ここまでして貰ったなら男として行くしかないでしょう。


「いや、洋服店で買って着替えてから行くよ。流石に日曜日に制服だと浮きそうだしね」


「じゃあ、アミューズメント施設近くの洋服店まで送ろうか、服を買ったら制服は邪魔になるだろうから車に置いていくといいよ」


仁さん……本当にあなたって人は……


こうして僕らは仁さんの提案を受け入れ、車で洋服店に向かった。


日曜日の午前中ってこともあり、道がいている。

大人達は日々の疲れを取るために寝ている人が多いのかな、母さんもそうだったしな、なんてことを考えていると、あっという間に洋服店に到着した。


「優、これとこれとこれでどうかな」


明日香がジャケットだのインナーだの色々見繕ってくれている。

僕は基本的にパーカー大好き人間なので自分でこういうお店に来てもパーカーとそれに合う感じのボトムスをいつも買うことになる。

正直体を動かすだけなら今回もそれで良いのだが……

せっかく明日香が時間をかけて身支度を整えてくれたのだ。

こっちも明日香が納得する格好をしたい。


試着を繰り返し、結局ジャケットとインナー、ストレートパンツを購入することにした。

試着室で着てそのまま着て出ていくってなんかRPGの武器屋みたいだなと思ってたら、会計中に明日香が、


「ここで着ていくかい(イケボ)」


なんて言うもんだから吹き出しそうになった。

そういうRPGも守備範囲なのね……


店を出て、制服を仁さんの車に置く。


「終わったら連絡してね。また迎えに来るから」


仁さんはそう言って家に戻っていった。

ありがとうございます、仁さん。


「それじゃあ体動かしに行こっか」


そうだねと返して二人で歩き出す。

数歩歩いたところで、明日香が立ち止まった。


「言い忘れてた」


「仁さんに?」


「いや、優に」


何をだろう?


「その服似合ってるよ。かっこいい、流石は私の未来の彼氏」


この子は本当にずるい。

頬が熱を帯びているのが自分でも分かった。

不意にそんなこと言われたら誰だって照れるだろ……


なにか僕も仕返ししてやりたくて、明日香の手を取った。

急の出来事に明日香は少し驚いていたが、


「デート……だもんね」


そう呟き、僕の手を握り返した。

照れるというよりはむしろ満足そうに見える。

仕返しにはならなかったが、そんな顔を見せられたらね……。

やれやれと息をつき、二人で手を繋いだままアミューズメント施設を目指した――。


「着いたー!」


5分位で目的地に到着。

中は思ったよりも広く、色々なジャンルのスポーツやゲームがあった。


「優、早く遊ぼ!」


「明日香、急ぐと危ないって」


まるではしゃぐ子供とそれを制止する大人のような掛け合いをしながら、僕らは色々なスポーツを遊んだ。


卓球、バスケ、テニス、バレーボール、バッティングにローラースケート。

勿論、休憩を挟んで明日香の身体への負担を考慮しながらやっていたのだが、一つ気づいたことがある。


明日香はめちゃくちゃ運動神経が良い。

しかも、半端じゃないレベルで。


他の人がやってるのを一度見ただけで真似できる。

スマッシュ、レイアップにスパイク、バッティングに関しては球速120kmの変化球をセンター方向に綺麗に打ち返していた。

しかもどれも初めて……


加えて、身体の使い方がとても上手い。

体重の乗せ方と抜き方が抜群で強烈なスマッシュやスパイクを打ったかと思いきや、次はそれを意識させてフェイントをかける軟打。

バスケでは急加速からの急減速してロールターン。

びっくりするくらい翻弄されまくった。


これで本当に小さい頃から運動が出来ない身体だったのだろうか?

疑いたくなるレベルだった。


こうなってくると僕自身も明日香に技や技術を吸収させたくなってくる。


そうだ、サッカーなら明日香に教えられるかもしれない!

そう思い明日香の手を引いてフットサルコートに向かった。


母さんのお見舞いから帰ってきて、時間があれば家の近くにある空き地でよくサッカーボールに触れていた。

1人でボールを蹴っている時間は結構楽しかったが、複数人でやれればもっと楽しいんだろうなと考えていたことを思い出す。


もし明日香がサッカーを好きになってくれたら……


そんな淡い期待を抱いて明日香をコートに連れてきた。


「そういえば優はサッカーが好きなんだよね」


あれ?言ったことあったっけ。


「5年前に優が言ってたんだ。やるのも見るのも好きって、なんでサッカーが好きなの?」


「母さんがサッカー観戦大好きでね。その影響で僕も……まぁやるって言っても1人でボール蹴ってただけなんだけどね」


そう言いながら僕は軽くリフティングをしてボールをトラップした。


良かった、久々にボールを触ったけどそんなに衰えて無さそうだ。


「明日香、真ん中に立って俺からボールを取る動きをしてくれる」


明日香がうんと頷き、僕は明日香に向かってドリブルを始めた。

そして明日香にぶつかる手前でマルセイユルーレットで交わし、ゴールにシュートして見せた。


「優、上手だね!」


素直に誉められると照れる……。


「今のクルって回るやつ私もやってみて良い?」


「ありがとう。じゃあ今度は俺が真ん中に立つね」


「なにかコツとかあるかな?」


「自分の抜きたい方向と逆にドリブルをして、足裏でちゃんとボールを引くことかな」


「……わかった。とりあえずやってみるね」


そうして明日香は僕の方へドリブルを始めた。

僕の目の前まで明日香が来て、ボールに足裏を乗せたときだった。

明日香の足がもつれた。

バランスを崩す明日香、僕は咄嗟に手を伸ばし明日香を正面から抱き締めるように受け止めると、そのまま倒れ込んだ。


「……っ明日香大丈夫?」


目を開け確認すると明日香の顔が目の前にあった。

このまま少しでも動けば唇同士が当たりそうな距離感。

明日香も目を開け、目と目が合う。

意識してしまった。

顔が赤くなり、心臓の鼓動が早くなる。


「こんなところで大胆だなぁ、あのカップル」


「あんなかわいい子と俺も付き合いてぇ」


男子学生らしき集団の声がコート外から聞こえ、我に返る。


「と……とりあえず立とうか」  


うんと頷く明日香。

なんかいつもよりしおらしい。


「……ありがとね、優。怪我しないように守ってくれて、疲れが出ちゃったのかな足が言うこと聞かなかったや」


「胸の辺りがちょっと苦しいから休憩するね。少しの間1人にしてくれるかな」


そう言うと明日香はコートを出てフロア端にある休憩スペースに入っていった。


やってしまった。

仁さんに明日香のことを聞かされていたのに……

保健室に登校していたということは体育とかもしたこと無いわけで、そんな人がいきなり今日みたいなスポーツを色々したら、休憩を入れてたとしても疲れるに決まっている。

加えて疾患のある心臓に負担までかけてしまった。


そもそもなんでマルセイユルーレットなんてやったんだ。

身体の使い方の上手さが出やすい技だが明日香は初心者だ。

そんな技を真っ先に覚える必要なんてない。

もし教えるなら、パス、トラップ、ドリブル、シュートといった基本的な技術だけで良かったはずなのに……


理由は分かっている。

明日香にかっこつけたかった。

かっこいいと思って欲しかった。

だから初心者でも分かるようなみてくれの良い技をした。


「最低だ……」


自分勝手な考えが結果として明日香に辛い思いをさせてしまった。

明日香は僕が体を動かすことが好きって言ったからこの施設を初デートの場所に選んでくれたのに……


ちゃんと謝ろう

そう決心して、コートを出た。


※※


椅子に座り、深呼吸する。

まだ心臓がどきどきしてる。


本当に優はずるい。

私のわがままでデートになったのに、文句一つ無く、しかも私の身体を考えて休憩を多めに取ってくれてる。

さっきだって私のことを身をていして守ってくれた。


「とっくに誇れる彼氏なのにね」


そう呟いて天を仰ぐ。


多分、優は5年前の事をほとんど覚えていない。

これまでの会話からそれは分かっていた。

話したことは覚えてるけど内容までは覚えていない、という感じだろう。


そうだよね……だってあの時、

そんなに大したことは話してない。


話した内容はほとんど日常会話みたいなもので記憶に残っている方がおかしい。


でも私は覚えている。

最初に会ったときに優が言ってくれたから


「僕が一緒にいてあげる」


家族を困らせるから打ち明けられずにいた、病気の辛さやママがいなくなることの不安。

1人で抱え込んで、どうにかなりそうだった私を優のその一言が助けてくれた。


あの時から私は君に恋していたんだ。

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