第12話 ハプニングモーニング

コンコンとドアをノックする音で目を覚ます。


「二人とも朝だよ、ほら起きて朝ごは……ん……」


どうやら仁さんが起こしにきてくれたようだ。

なんか変な喋り方になってるというか絶句してる。

どうしたのだろうと思って目を開けるが、寝起きで視界がぼやけている。

ただ、何かよくわからないがゼロ距離に何かある。

ていうか柔らかいものに顔をうずめていた。

後頭部には明日香の手が交差しており、動けない。

ようやく頭が回ってきて事態の深刻さを理解する。


僕は今、明日香の胸に顔を埋めている。

そしてそれを仁さんに見られている。

うーん死刑ですねこれ。

とりあえず挨拶はしよう。


「ぼばようございますじんざん」


明日香の寝間着とゼロ距離にあるためうまく喋れない。

ていうか喋ろうとすると息が苦しい。


「あ、有村君」


「ごがいでず!ごがいなんでず!」


仁さんの声が震えている。

本当にやばいなこれ……


「やっぱり昨日のはプロポーズだったのかい!初夜だったってことかい!?」


完全に取り乱している仁さん。

意識が遠のいていく僕。

かすかに今、未来さんの声が聞こえた気がする。

明日香の胸の中で死ぬって……ありかなしでいったらあり、てか最高の死に方だなこれ。


なんてバカなことを考えていたら急に呼吸が楽になった。

どうやら未来さんが騒動に気づいて助けてくれたみたいだ。


「優君、明日香吸いマスターの私でもそれはレベル高いよ……」


「誤解です!起きたらこうなってて、自分からこのような状況にした訳じゃないんです」


「ほら、お父さんも正気に戻りなよ。明日香が寝相悪いこと知ってるでしょ。私も明日香と一緒にお昼寝してたらヘッドロック食らってたの忘れた?」


明日香と一緒に寝ると命に関わるかもしれない。

今回は未来さんがいたから助かったがこれからの生活に不安が残る。

死因が同居人の寝相ってなかなかのパワーワードだ。


「……そうだね。有村君があの状況に自分からしたとは思えないね。ごめん、有村君取り乱してしまって」


「こちらこそすみません。意図的ではなかったとはいえこういうことになってしまったのは事実なので俺も悪いです」


仁さんと和解したところで、ふわーっとあくびをして明日香が起きる。


「どうしたのみんな揃って」


お前のせいだぞお前の!

かわいい顔しやがって!


「明日香も起きたことだし朝ごはんにしようか、もうできてるから下においで」


「お父さん、私ご飯大盛りで!」


寝起きから元気だね……


はいはいと言いながら仁さんが部屋から出ていき、明日香もそれに続いた。


僕も出て行こうとしたとき未来さんに肩を捕まれた。


「どうだった?明日香吸い」


過去一良い顔してますぜ未来さん。

間髪かんはついれず僕も答える。


「最高っした……」


ふっと笑い手を挙げる未来さん。

それに答えるように僕も手を挙げハイタッチをした。


「これからよろしくMy brother」


そう言って未来さんは部屋を出ていった。

かっけぇっすあねさん


――朝食を食べ終え、一段落ついた。

時刻は午前9時丁度、暇だし、また明日香とゲームでもしようかと思ったが僕が言う前に明日香が口を開いた。


「優、今日はデート行かない?体動かしたいんでしょ」


確かに体動かすことが好きって言ったが明日香の体が心配だ。


「私の体は大丈夫。もし駄目そうだったら少し休めばいいし、それにアミューズメント施設って行ってみたかったんだ」


明日香が目をキラキラさせている。

僕も一度行ってみたかった。

ああいう施設は友達とかがいないと入りづらくて、友達ゼロだった僕には縁遠い場所だった。


「じゃあ行こうか、俺も行ってみたかったし」


「やった!じゃあ私、準備してくるね」


明日香が2階に行ってからとんでもないことに気づく、今、外に着ていける服、制服しかない。

今日は日曜日、僕だけ制服ってのも浮くだろうし、なにより動きやすい服装ではない。

買っていくにしても今の財布の中身は服を買ってしまうとほとんど無くなるので、アミューズメント施設で遊ぶお金がなくなってしまう。


明日香には申し訳ないけど今回は断る事にしよう、そう決心して立ち上がったのだが、キッチンにいた仁さんに有村君と呼ばれた。

そして、仁さんは財布を取り出しお札を3枚、僕に渡した。

え?諭吉!?

諭吉3人!?


裸銭はだかぜにで悪いけど受け取って貰えないかな」


「どうしたんですか仁さん。俺こんなに受け取れないですよ」


「今日から明日香を有村君の家でお世話になるわけだろう。敷金しききんって言う訳じゃないけど受け取ってくれると嬉しいな。そうすれば動きやすい服も買えるだろう?」


やだ仁さんマジイケメン。

気遣い出来る男っていいなぁ。


「ありがとうございます。助かります」


と言って財布に諭吉をしまう。


「もう少し、明日香のことでお話し良いかな」


まだ明日香は降りて来る様子が無さそうだし、問題ないだろう。

はいと頷いて仁さんの話を聞くことにした。


「有村君はこれから明日香と一緒に住むことになるからね。伝えておきたいことが3つあるんだ」


「1つ目は昨日も言った通り、明日香は中学の時は保健室に登校していたんだ。だから友達はいないと思われるんだ。そういう話を家で聞かないしね。そういうこともあって人との距離感が分かっていないんだ」


確かに明日香の距離の詰め方は異様ではあった。

再会して3日、既にゼロ距離で一緒に寝てる訳だし……


「だから有村君は明日香が学校や外で他の人と話すとき注意して見てて欲しいんだ。踏み込みすぎて行かないように」


「分かりました」


明日香のおかげで僕もラブちゃんと話せるようになったし、僕も明日香の交流関係を広げられるといいな。


「2つ目は心臓疾患のこと、本人も言ってたけど休めば大丈夫なことがほとんどなんだけどね。明日香は苦しくても頑張りすぎちゃうところがあるからもし苦しそうだったらいたわってあげて」


勿論そのつもりだ。

はいと頷く。


「3つ目、これが一番大事なんだけどね」


なんだろう、朝の事もあったしそういう関係だろうか……

頑張りますよ、耐えれるか心配だけど……


「明日香をよろしく頼むよ」


仁さんが頭を下げた。


突然のことで驚いたが気持ちはズシンと伝わってくる。

仁さんは未侑さんが亡くなってから1人で明日香と未来さんを育てたんだ。

特に明日香は未侑さんが亡くなってから、闘病生活を乗り越え今がある。

その愛情はとても深いだろう。


仁さんが僕の事を認めて、明日香を託してくれた。

その思いを無下むげにするわけにはいかない。


「任してください。大切にします」


決意を固めて、僕ははっきり答えた。

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