第5話 エビデン
「よぉ、エビデン!」
振り向くと、1人の男子生徒がそう呼んでいた。
エビデン???
誰の事だろうか。
周りを見渡すが反応してる人はいない、人差し指を自分に向け、俺の事と聞いてみると、そうだよと男は笑いながら言っている。
「自己紹介の時、名前がエビです、だったからもじってエビデンス、5文字だと長いからエビデンってことになったぜ」
人生初のあだ名がエビデン。
あだ名ってこういうものなのだろうか。
普通名字とか名前からなのに好きな食べ物からって……
「良いじゃねぇかエビデン。海外のヒップホッパーみたいで格好いいし。俺なんて昔から
どうやらこの男は愛久澤恋というクラスメイトのようだ。
整った顔立ちに金髪で左右非対称な髪型、口には棒付きキャンディーを
「それでラブちゃん、このあだ名は誰が付けたの?」
「ラブちゃん言うなて、出来れば普通に
悪くはないけどそこまで良いかって言われたらなにも言えないレベルである。
機嫌を損ねてラブちゃんみたいなあだ名になるのも嫌なのでうんと頷いておく。
「それよかエビデンよ、高憧とまじで付き合ってんの?後ろの男共がよ、どうしても気になるんだと」
恋はそう言って親指を立てて後ろに向けた。
後ろを見てみるとクラス中の男達の視線が集まっていた。
「恋、なんであんなに俺見られてるの」
「そりゃおまえ、高憧が超絶美少女だからだろ。高校入学初日の浮わついた気持ちで自分のクラスに来たらあんな美少女いて、超ラッキーってところにいきなり高憧からエビデンに一目惚れって言って告白したんだぜ。あいつら膝から崩れ落ちててめっちゃ面白かったぜ」
それは悪いことをした、主に明日香が……
そもそもこっちは告白された側なのになんであいつのせいでみたいな視線を浴びることになってるの……
「で、どうなん。付き合ってんの?」
変に
そう決めて口を開いた。
「"まだ"付き合ってはいない」
嘘は言っていない。
実際まだ付き合ってはいない。
恋は不思議そうな顔をしている。
「まだ?それはどういうこと」
「明日香が俺を好きなのは……多分本当だと思う。でも今の俺は明日香に見合う男じゃない」
「でもそのうち明日香の隣にいても恥ずかしくない……明日香が自慢の彼氏だと誇れるような存在になれたら俺から告白する」
その瞬間、恋は咥えていたキャンディを噛み砕き、指を鳴らした。
「いいね、かっけぇじゃんエビデン」
そう言うと恋は後ろの男達に向かって歩く。
「残念。お前らの負けだ。諦めて散った散った」
ずっと見ていた男達ががっくり肩を落とし、自分の席に戻っていく。
これでいつまでもクラスの男達から変な視線を浴びることはなくなっただろう。
恋には感謝しないと。
恋はふいーと息をつき、おもむろにスマホを取り出した。
「なあエビデンこれ登録しといてくれ」
恋のスマホにはメッセージアプリのQRコードが映し出されていた。
自分のスマホでそれを読み取り、同級生では2人目の連絡先がスマホに登録された。
『(恋) よろしくなエビデン』
『(優) よろしくラブちゃん』
『(恋) だからラブちゃんやめろし(笑)』
そんなやり取りをしていたら始業のチャイムが鳴り響いた。
担当教師が来て、朝礼をする。
朝からかなり疲れた。
今日も授業はなく、午前中だけなので特に何もないだろう。
そう思った瞬間、強烈な睡魔が襲った――。
「起きろー、エビデン。学校終わったぞー」
恋に揺り動かされて、目を覚ます。
寝ぼけ
明日香と恋、そして見知らぬ女子。
青みがかったロングヘアーでかなり小柄な身体、小動物のようなかわいさがある子だ。
「こいつは
「よ、よろしくお願いします。有村さん」
おどおどして挨拶する弦本さん。
なんか体育祭の実行委員に向いてなさそうな気がするけど大丈夫なんだろうか。
とりあえず、よろしくと挨拶を返す。
ん?体育祭の実行委員?
黒板を見てみると色々な委員会が書いてあり、その下に名前が記されていた。
「エビデン、また嵌められたな」
恋が笑いながら黒板の端の方を指を差す。
『クラス委員 男 有村優』
『クラス委員 女 高憧明日香』
寝て起きたら、なんかクラス委員になってるんですけど……
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