第2話 涙で濡れたスカート②

「あー、やっぱりなぁ。絶対気づいてないと思った」


彼女はつんと口を尖らせ、不機嫌さをアピールしている。


「知らない異性だったなら、家に易々やすやすと上げるのはどうかと思うけどな」


ごもっともである。


「でも君が強引に乗り込んで来たんじゃ……」


「できたてほやほやの彼女にそういうこと言うかな?酷いなぁ」


「僕、告白に同意した覚えないんだけど」


「え?告白したとき、はいって言ってくれた……よね?」


「あれは聞き直す意味はい?で承諾のはいじゃなかったんだけどな」


あからさまにしょぼんとする彼女。

すごくかわいい顔をしてる。


「私、優と前に会ってるんだよ」


え?と思わず声が出て起き上がった。

人の顔を憶えることは得意では無いがさすがにここまで目立つ人なら嫌でも憶えそうなものだが全く憶えがない。


「これ被れば思い出すかな」


そういうと彼女は学校指定のかばんからニット帽のようなものを取り出した。


「あ……」


これは僕も知っている。

抗がん剤治療をしていた母が治療を始めてからしばらくして買った医療用の帽子と同じだ。


彼女は髪の毛を全て入れるようにしてその帽子を被った。


「君は……」


「どう?思い出した?」


間違いなく見たことがある顔だった。

――5年前くらいだろうか、母のお見舞いに病院を訪れた際、病院の中庭で今の僕のように生気がない顔をしてベンチに座り込む少女がいた。


僕はその少女に何回か声を掛けたことがあった。

そしてある時を最後に見なくなった。

僕はてっきり亡くなってしまったのだと思っていたのだが、


「生きていたんだね。よかった」


「ありがとう」


確か彼女は白血病をわずらっており、僕の母同様の癌治療を専門とした病院に入院していた。

白血病は血液の癌で免疫力が著しく低下する期間がある。

恐らく僕と会っていた時はその期間ではなかったのだろう。


「あの時もりんごジュースくれたね」


そうだったねと答える。

あの頃の僕は特にりんごジュースが好きで病院に行く度に自販機に売っている紙パックのりんごジュースを買って母と飲んでいた。


その時は母にりんごジュースを渡した後、ベンチの女の子に渡すために自分の分を我慢して持っていったっけな。

懐かしい記憶である。


彼女の正体が分かったところで改めて質問をぶつけてみた。


「君は何で僕に告白したの?」


「言ったでしょ、一目惚れだって」


あれ本当だったのか。

僕は特別、顔が整ってる訳でもないし、最近に関しては顔色も悪かったのにそれでも一目惚れとはなかなかに変わっていると思っていると、


「まぁ、嘘だけどね。流石に顔色悪すぎて、一瞬別人かと思って焦ったよ」


だから教室でじっと見られていたのか。

では一体本当の理由はなんなのだろうか。


「まぁ本当の理由は"まだ"言えないけど、5年前に君の内面には惚れていたよ」


平然と言ってのけた彼女に対して僕は顔が真っ赤になる。


赤くなりすぎでしょと彼女は笑うが、女の子どころから同年代の同性ともまともに喋ったこと無い僕からしてみれば刺激が強い。


「じゃ、じゃあなんで母さんのこと知ってるの?」


戸惑いながらも僕はもう1つの疑問をぶつけてみた。


「それはね。君が家に帰った後、恵美さんとよく喋っていたからだよ」

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