第五章 夢を作る

 「ねぇ、君は死ぬ前にどんな言葉を残した?」

 「死ぬ前……?もう覚えてないよ」

 生前の記憶が次第に消えているのだろうか。それか自分がただ忘れっぽいだけなのだろうか。

 「人間は何のために生きているのか。それは自分の幸せのため。幸せを探し、幸せを見つけ、そして幸せを感じること。でしょ?」

 「そういえばそう言った……な。てかすごい覚えてるじゃん」

 「いや〜、たまたまだよ。君と同じように忘れっぽい僕だけどね」

 「んん……!?」

 「なーんでもなーい〜」

 (僕をからかっているのか)

 「いや〜、からかってはないよ〜。それより!君が生きる糧にしていたのは幸せ、だよね?」

 「ま、まぁそうだが」

 幸せの話だろうか。もう僕は幸せになりたくないのに。幸せなんて嫌いなんだけど……。

 「本当は欲しいよね?」

 「え……?何が」

 「君が願う幸せなもの」

 「僕には幸せが何かなんてわかんないよ」

 「分からないのも当然だよ〜。だって君が見た世界はつまらなくて、狭くて、暗い世界だったからね。だから、自分から幸せで広い、明るい世界に飛び出しちゃえばいいんだよ〜!」

 「……。じゃあどうすればいいの。明るい世界に飛び出すなんて。僕にはよくわかんないんだけど……?」

 「僕みたいに、夢を作っちゃえばいい!ってこと。幸せもね」

 夢を作る……?さっきも言っていたが夢を叶えるではなく、夢を作る……。

 どういうことだろうか。何も分からない。

 「確かに夢を叶えるのも重要だよ。でもね、夢をすぐに叶えるなんて無理だよ。幸せをすぐに掴む事が無理なのも一緒」

 「……確かに?」

 「夢は、もう作っちゃえば良いんだよ。僕は死神になれたし、人を騙す事だって出来た。現実世界でも一緒だよ。今存在しない夢、存在しない幸せは自分で作っちゃえばいいの」

 「自分で作る……か」

 そんな事自分に出来るとはこの時、思えなかった。 

 「仮に、この世界ならなんでも出来る!この場所を練習にしていくといいよ」

 「練習?ここで?一体何ができるの」

 「君は歌うのが好きなんだよね」

 すると聴いたことのある曲が流れてきた。

 僕の好きなボカロだ。

 「一緒に歌お?」

 「え?一緒に??」

 僕は死神と一緒に僕の好きな曲を歌った。何故かは分からないがいくら歌っても疲れない。

 いっぱい歌った。これまでにない歌う楽しさを感じた。

 「この世界なら、君の苦手なダンスだってできちゃう!」

 「え、待って。そんな力も技術もないって」

 「大丈夫!この世界なら体力も技術も無制限!」

 「な、なにそれ……!」

 「さぁ、踊るよ〜」

 「え、ちょっ……」

 死神が僕の手を掴んで一緒に踊った。

 体が勝手に動き、不思議と軽々と踊れる。しかも僕の好きな曲で。

 僕がいっぱい遊んでいたゲームのダンスが簡単に出来ちゃうなんて。

 まるでこの世界はチートが使える世界……なのか。

 「そう!ここならなーんでもできるよ〜!身長だって変えれるし、好きな物もいっぱい食べれるよ!」

 「え!?目線がめっちゃ高いんだけど、どうなってるの?」

 「驚いた?君の今の身長は2メートル!」

 「た、たけぇ!ってあれ?すごい低くなったんだけど」

 死神の腰よりも低い身長になってしまった。

 「可愛いでちゅね〜。赤ちゃんみたいでちゅね〜」

 「や、やめろぉ!って……なんでこんな所にカレーがあるの!?」

 「食べていいよー?」

 あ、これもしかしてまた僕を騙すためのものじゃないのか。

 この死神なら僕がカレー好きなのを知っているはずだ。

 「もう騙されないぞ」

 「これは〜大丈夫!ほんと!今回ばかりは騙しはしないって」

 「ほんと?」

 「ほんと!君の好きなアニメ見ながら、食べよ〜!」

 「え?アニメ?」

 すると目の前にはアニメが放送されている大きなテレビが、いつの間にかあった。

 まるで夢でも見てるような世界だ。

 ん?夢……を見てるのか?

 さっきから展開がおかしすぎるし、この世界はもしかして……。

 !?

 「死神!!!」

 僕が死神の方を振り向いた瞬間、死神は僕にハグをしていた。

 「死神!なんで急にハグなんか……」

 そう言いながら、死神の顔を見ると……。

 死神は泣いていた。

 「ねぇ、ゆう君」

 「死神……?」

 「君は生きなきゃダメだよ。自分で夢も幸せも作っちゃえばいっぱい楽しい事があるのに、簡単に死んじゃうなんてダメだよ。」

 「急にどうしたの。死神……」

 死神は泣きながら、そして抱きしめながら僕に生きてほしいことを言っていた。

 「でも、死神は死んだんでしょ?死んでここで死神として。それならなんで死神は生きる事をしなかったんだ……?」

 「僕はね、もう現実には戻れないんだ」

 「な、なんで?」

 「へへっ……。なんでだろうね」

 「なにそれ……。僕だけ、生きるようにって、そんな。死神、あなたは一体何者なの……?」

 「僕は死神詐欺師。あなただけの世界で生きる者だよ」

 僕だけの世界……。それならこの場所は……。この世界は……。

 「もう君だけの世界、作れたじゃん?それに幸せそうにしてたもんね。僕ね、嬉しいよ。君の幸せそうな笑顔を見れて」

 「待て!死神……さん。質問してもいい?」

 「なーに?」

 「この場所は、この世界は一体なんだ?」

 「ふふっ。なんでしょーね〜」

 とぼけたような答えが返ってきた。

 「だって僕はあの時、首を吊ったじゃないか……」

 「ゆう君は死んでないよ。だからこれからは生きて」

 「え、死神?」

 「生きろ。生きろ。生きろ。君は生きろ」

 「嫌だよ……。せっかく、あなたと幸せになれたのに」

 「幸せって楽しいよね。僕ね、君と出会えて嬉しかった。またどこかで会えたらいいね。ありがとう、ゆう君!僕も幸せだよ」

 「待って。終わりたくない。待ってよ。死神!」

 死神は僕を強く抱きしめて、最後の言葉を残した。 

 「生きろ。生きろ。君の鼓動」

 僕の視界は急に真っ暗になった。

 死神との世界が終わったのだろうか。

 最後は僕も涙を流していたような気がする。

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