第四章 僕と遊んで

 僕はりんごを食べた瞬間、美味しい味と共に全身の力が入らなくなった。

 僕は倒れた。動かない。動けない……。

 「な、なに、これは……」

 「アハハハハハ〜」

 死神は僕を面白そうに笑っていた。

 「君〜!この世界に安全なりんごがあると思う〜?」

 「な、なんだよ、お前……」

 「君は騙されやすいね〜!君の騙され方について実験をしてました〜」

 「は……?何を言ってるんだ……。僕はどうなるんだよ」

 「実験結果ね〜!君は好きな事を前にすると好きな事を貫きすぎて、なーんにも判断が出来なくなる!でした~。」

 「……」

 振り返ってみると、好きな事への欲望はどんな事でも貫いていた気がする。多分……。

 うぅ……。辛い過去を思い出してしまう。

 「人間だから過去の記憶を思い出しちゃうかもだけど。まぁ、元気だしなって」

 「え……?いや、この状態で元気だせって無理なこと言うな!」

 僕の体は力が抜けた状態のままだった。

 ぐったりと地面に倒れている。

 「あぁ、ごめんごめん!今戻すね〜。ちょっと待ってね〜」

 すると僕の前にいた死神から強い光が放たれた。

 急な事で何が起こったのかが分からない。

 「よいしょ〜。今から君に魔法をかけてあげるね〜」

 「え?待て、お前……。死神じゃないのか?」

 僕の目の前にいた死神は魔法使いの姿に変身していた。

 そして魔女は僕に魔法をかけ、体に力が入るようになった。

 「え、今の魔法か。てかなんで魔女に……?さっきまで死神だったじゃん」

 「私は魔女ですよ〜!驚いた?」

 (どういう原理だよ……。魔法なんて存在するのか……)

 「どういう原理だよってー?この世界は現実ではないの。かといってあの世でもないけどね〜。その一つ手前みたいな感じ〜!」

 「ん?今……」

 「あ、気づいた?君の心の声を読み取りました~」

 「おい!僕の心の声を読むな!怖いぞ……!」

 (勝手に心の声を読まれるなんて、たまったもんじゃない。考えてる事が全てこの魔女に筒抜けじゃないか。ということは今考えている事も……?)

 「ふっふっふっふ」

 魔女がめっちゃこっちを見て笑っている……。

 「こっち見んな!」

 「あ!ねぇねぇ、遊ぼ遊ぼ!悪魔君〜」

 「ん?遊ぶ?何を?そんな事よりもさ……」

 「幸せ奪い合いごっこだよ!」

 「……え?なにそれ。なんだよその最悪な遊びは」

 名前からして酷い遊びなのは予想していた。

 「文字通り、幸せを奪い合う遊びだよ。君、人から幸せを奪うの得意なんでしょ〜?」

 「は?知らねーよ、そんな事!」

 「とぼけないでよ〜。いろんな人の幸せを壊したくせに?」

 この魔女にも罵られている。嫌な気持ちになる。

 「悪魔君?幸せを奪う悪魔君?どうしたんだよ〜。幸せを壊しちゃう悪魔君〜!恋人に振られた悪魔君〜」

 ……!

 (やばい……。こいつやばい……やつ……。なんでそんな事まで……)

 魔女は僕の心を壊しに来ていた。

 「待ってよ……。もうやめて……。なんで苦しんで死んだのに、ここでもそう苦しめる訳?」

 「今は幸せ奪い合いごっこの時間だよ?悪魔君」

 何が幸せ奪い合いだ。僕を壊しているだけじゃないか。

 「もう、何も言わないで!僕に付きまとわないで!お前なんか、もう何も信用できないよ。このクソ野郎が!」

 「ゆう君……?」

 「お前の何を信用すればいいんだ。お前なんか大嫌いだ」

 騙され続けるなんてもう嫌だ。最後ぐらいは何事もなく、あの世へ行きたかった。

 ずっとこの死神と居るのはもううんざりだ。

 僕は死神に背を向け、その場を離れようとした。

 「待って!ゆう君……。ごめんね。僕ね、えっと……」

 「なんだよ……。悪い話ならもう」

 「僕の人生もね、ゆう君と似てたの」

 「似ていた?人生が?お前に僕の何がわかるんだよ」

 「さっき君の事ずっと見てたって言ったでしょ……?」

 「……」

 そうだった。この死神に全部見られてた事を思い出した。

 「確かにゆう君の人生は良い事も悪い事もいっぱいあったけど。人間は時間をかければ何にだって変われるの」

 「でも僕は死んだじゃないか。生まれ変わる時間を待つなんて出来なかった」

 「それは僕もだよ」

 「……え?」

 死神から発した言葉に僕は疑問を感じた。

 もしかして、この死神って……。

 「僕もね、自殺した人間だったの。君と同じように人を悲しませたり、傷つけたりしちゃったんだ。人間って生きるの難しいよね」

 なんだか僕に似た人……のような。この死神は一体どんな人生を送ったのか、僕には分からないが、何となくそんな気がした。

 「気がついたら、孤独になっちゃったよ。だーれも僕の事信じてくれなくなったよ。僕は、この先も孤独な世界で生きなきゃいけないみたい……だね」

 「死神!それなら僕といれば、孤独じゃなくなるよ」

 「え……?だーめ。君は行かなきゃだよ」

 「孤独なんて、嫌だろ……?」

 「お、君も孤独が怖いか?まぁ知ってたけどね。僕に似た君がここに来たから、ちょっと調子乗っちゃったみたい。ごめんね……」

 死神は僕に幸せ奪い合いごっこの事を謝った。死神は悲しそうな顔をしていた。

 またやらかしてしまったことに対する後悔の顔のように見えた。

 「死神……。大丈夫だよ。僕に似た人がいて、僕の事分かってくれる人が居てくれて、嬉しいから」

 「おぉ。えへへ〜。そう言ってくれて嬉しいよ」

 死神はあっという間に元気になっていた。

 死神の優しい笑顔が見れた。

 何となく僕も笑顔になれた。誰かの笑顔を見るのは嬉しい気持ちになる。

 でも……。

 僕はこれからどうすればいいのだろうか。

 死んでしまったらからには何も出来ないし。

 「お、悩んじゃってるね?君〜?」

 「……?」

 「そんな君に良い事を教えてやろう〜」

 良い事?僕からはこの死神の考えていることが全く分からないから、何をするつもりなのか……。

 少し心配ではあるがその話を聞いてみる事にした。

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