第4話 舞台
カフェでまったり出来た所で、早速舞台へ向かう。クロウ様が言うには舞台とは、眠気を誘うものでつまらないらしい。女も男も感情移入が出来ない、とその舞台に怒っていた。また、平民が横に座ってきて屈辱だと言っていた。
全く…今思えば彼は誰と見に行ったのだろう。男の友人なら何も言えまいが。
しかし、カナタ様は凄く面白い、絶対に見に行った方が良い!と目を煌めかせながら、興奮して言っていた。どっちを信じればいいか。…迷う事なくそんなの決まってる。カナタ様よね。それに舞台は沢山の種類の劇があるだろうし、本当にクロウ様の見たストーリーはつまらないものだったかも知れない。
…彼だったら、何でもつまらないと言いそうだけど。
「ところで…舞台というのはチケットか何かいるんですの?」
「…いるよ。でもイアリス、これは何でしょう!」
ケイリー様は紙を二枚顔の前に出し、ふふと笑った。
私の先程の質問から、多分これは舞台の買われたチケットか招待のチケットか、どっちかだろう。どちらもチケットではあるのは変わらない。
「まあ…、チケット!」
「丁度友人から2枚分貰ってね、クオリティは保証するよ」
ああ、くださったのは友人の方でしたか。
魔法使いとのことだけあって、やはり顔が広いのだろうか。
そう言われると凄く楽しみになる。
ケイリー様は、行こう、と言って舞台の中に入っていく。話したり、街を見渡していたため、もう舞台劇場についている事に気が付かなかった。
…ケイリー様は、受付の人にウインクをした。私の場所からではそれがが確かかは分からなかったけど、そのしたように見えた。ただ、受付の人が驚いた目をした後、それに返事をするようにこくり、と頷いたのには気がついた。
ケイリー様のご友人の紹介とだけあって、素晴らしい席だ。一階の真ん中という最高の席…。
でも、こんな良い席で質素な格好をしている私たちが座っていいのだろうか。貴族達に白い目で見るのでは。私はそれが不安だった。
「私達…変な目で見られませんこと?」
「え?ああ、格好の事。大丈夫だよ、変装して舞台に来る貴族は多いんだ。皆分かってくれてるよ」
「そうなんですの…」
そういうものなのか。…では、屈辱だと言っていたクロウ様は物凄く世間知らずだったのでは。
確かに、私達が座っていてもじろりと見てくる人達は居ない。…私はもうクロウ様の言葉を真剣に聞かない方が良いかもしれないわね
悶々と考えていれば、パチパチパチという拍手と共に幕が上がる。
わあ…楽しみだわ。
舞台の内容は簡単に言えば、古代ギリシャを背景に姫様が隣国の有力者の男に浮気され、捨てられた後、幼馴染の騎士と幸せになる話。
姫様は凄く憐れに見え、有力者の男は凄く憎たらしく見える。
すごい、凄い。演技というのはこんなに私に感情移入させてくれるのか。
姫様が有力者の男と奴隷の浮気シーンを見つけるところには、胸がギュッと締められたわね。あの愛犬や妹を亡くしたかのような悲しみと動揺の表情は経験してないと出来ないぐらいクオリティが高かった。そして、姫様は泣きながら幼馴染の騎士へ向かう。実は彼等は両思いだったらしい。まあ、ドロドロね。
有力者の男は騎士を殺そうと向かうが、返り討ちにされ死亡。
騎士は実は王子だったらしく、彼等は幸せに暮らしたとのこと。
姫様や騎士、奴隷、有力者の男達がお辞儀をしながら去っていく。
私は今までにしたことの無いほどの大きい拍手で彼等を送った。ああ、涙が止まらない。最後の姫様ったら本当に幸せそうな顔をして。キスをして花びらが舞うシーンは本当に良かった。
ずっと、幸せで居て欲しい。
…カナタ様、舞台というのは貴女の言う通り、本当に素晴らしいものでしたわ。
そして姫様には共感できる事が多かった。私にも、いつか騎士様の様な方が現れてくれるだろうか。…私は何を考えているんだ。そんな事、願っていては悲しくなるだけだというのに。
…やけに、隣が静かだ。私はふと、横を見る
ああ、貴方にも刺さりましたか。
隣にいたケイリー様も、静かに一筋の涙をすうー…と流していた。
「どうだった?…内容がいろいろ君には辛いものかもだったかも知れないけど」
涙を流してなどいなかったかのように、ケイリー様が聞く。切り替えが早いって羨ましい。私にも優秀な切り替えスイッチが欲しい。
内容…ああそうか、ケイリー様も知っていたのか。クロウ様は公爵家のものだもの。そりゃ私の名前も、悪い噂も広まるだろう。…はあ、やはり噂話は得意では無い。嘘か、誠か。それを保証するものがない噂が広まるのは嫌いだ。長い長いドミノが倒れるように、悪い噂であれば流された人の積み上げたものが全て崩れる。
友人の中でも趣味は噂話が好きな人も多いけれど。やっぱり話していて疲れることが多い。
「素敵でした。…最後なんて、泣いてしまいましたもの」
「僕もだよ。彼女には、ずっと幸せでいて欲しい」
彼は、ぎゅと拳を握り何か考えている顔をした。
彼も、あの舞台に何か思うところがあるのだろうか。
「ええ、本当に」
驚きだ。彼も、私と全く同じ事を考えていたとは。
気が合いますね、とふふと笑いそうになった。
「良ければご友人に、私からの感謝を伝えてくれませんか?凄く面白かったです、と」
「ああ伝えておくよ。きっと喜んでくれるだろうね。よしっ…そろそろ帰ろう」
「そうですわね」
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