第2話 紹介
この学園では身分関係なく、王族から貴族、そして平民まで入れる事が長所である。しかし、マナーや行儀を重んじる貴族と、行儀作法を学んでいない平民とはあまり気が合わない。
貴族は平民を疎み避け、平民は貴族を羨み近づく。
このような状況がずっと続いてるのを私は知っているわ。だから平民でも男でも女でも誰これ構わずハーレムにしてみせるクロウ様は、ある意味尊敬できる。ああ、これがもし悪い方向に進んでいなければ…と何度思ったことか。
「昼食は、どこで食べますか?」
「そうね…今日は天気が良いので暖かい場所で食べたいわ」
「あっ…なら、ここのガーデンパラソルの付いた…可愛いお机にいたしません?」
最初に私に声をかけてきたのは男のアルツ様、次に可憐な声で机を選んだ子はシュナ様。今日は彼らと一緒に食べるつもりである。
「ええ、そこにしましょう」
私はドレスが地につかないよう配慮しながら座る。前までは、クロウの瞳の色のものを着ていたり、なんてしていたけど…もう良いわよね。私の好きな色のドレスを身につけたって。
シュナ様が手を叩くと、執事らしい人が現れてバスケットからティーカップやサンドイッチを取り出し机の上に置いてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ…。皆さんと食べるのも…久しぶりですわねぇ」
シュナ様が嬉しそうに言う。確かに、私はしばらく彼等と一緒にしていなかった。最後に共にしたのはクロウが三人目の女性に手を出した時かしら。クロウ様とご一緒した方が良いのでは?とシュナ様が申すものだから、頑張ってみようとし始めたのだっけ。…もしかしたら、私はクロウ様が取られる、と焦っていたのかもしれないと、今になって思う。
「本当に…!久々に幼馴染みの君たちと食べることが出来て嬉しいです。…ところでイアリス様、何処か疲れた顔をしているように見えます。もしかして…」
もしかして、クロウ様の事?
アルツ様が口パクパクさせて、言葉を付け足す。
「いえ、クロウ様の事はもう良いのです…彼の好きにさせるべきだと私は気づきましたわ」
私が俯き、そう言い終わるとアルツ様が柔らかく微笑む。
「そうですか。イアリス様、もし何かあれば俺達にいってくださいね。何事も抱え込んではいけません」
「アルツ様…」
「ならっ…!ストレス発散という事でどこか遊びに行っては如何?」
シュナ様が人差し指を出し、思いついたように言う。こうやって明るくお話ししてくださるだけでとても助かるのに、私の心配までしてくれるとは。私は本当にいい友達を持ったものね。
「それは良いですね。でも、出かけるとなればクロウ様も着いてくる、という可能性もあります」
「確かに…」
「俺の友達に魔法使いの男が居ます。…彼ならば貴方に認識阻害の魔法を上手くかける事が出来るかもしれません」
アルツ様は紅茶を一口飲んだ。この紅茶は一口飲むたびに華やかな香りが広がって、とても美味しい。ゴクゴクのむことは出来ないけれど、もう一杯、と言ってしまいそうになる。
「良いのですか?」
「ええ、俺から言っておきます。もしイアリス様が行きたい、となったら俺に連絡をください」
確かに、しばらく遊びに行っておらず勉強ばかりしていたから疲れていた。けれど良いのだろうか。私が遊びに行っても。…色んな不安はあるけれど、行ってみたかった。
結局私はアルツ様へお手紙を出すことにした。クロウ様が怒るかも、という心配よりこれっきりでも良いから外であそびたいという気持ちが勝ったのだ。
手紙には“昨日の提案をお受けしたい“貴方のご友人の力を借りたい“という事を記載した。少し、ワクワクした。きっと今日もクロウ様は女性と遊ぶはず。彼は学園内だけでなく、お店や色んなところで隠れて女性と遊んでいるそうだ。その時のクロウ様は楽しそうだったとカナタ様にお聞きしました。
なら、私だって遊ぶ事が許されるのではないか。時には、息抜きも必要だとシュナ様も言ってくださったもの。
アルツ様から手紙が返ってきた。
まあ、なんて綺麗な字。文字は書く人の性格によって形が変わるから面白いのよね。アルツ様の字は完璧だけれど、力まれていて、努力されてこんな綺麗な字を書いているのだと分かってしまう。
手紙には、“土曜日俺の家に来てください“と書かれていた。つまり、オッケーとの事なのだろう。さて、そうと決まったらお化粧などの準備をしなくてはならないわ。メイドのランに明日は貴女のお気に入りの服にしてくれないかしら、と頼んだ。認識阻害の魔法をかけてもらうならおめかしなんてする必要もないけれど、アルツ様の家に行くならばある程度整わせて置かなければならない。
土曜日を迎えた。楽しみで寝不足になってしまっている。魔法使いの方とは、どの様な方なのでしょう。きっとお忙しいのに私のために時間を割いてくれる優しい方だ。
「お嬢様、本日も一つでお括りに?」
「…いいえ、おろしてちょうだい」
「…!はい」
メイドのランが驚く様に言う。まあ、驚いてしまうのも仕方ない。
クロウ様の好みはポニーテール。けれど、私は顔の形が出てしまうからあまり好きでは無かったの。これからは自分の好きな格好をしようと決めたのだから、今更彼の好みに縛られる必要は無い。
「出来ました、お嬢様」
「まあ…すごい、」
鏡にはふわふわに巻かれた私が写っていた。ポニーテールの私より今の方が好きかもしれないわ。
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