貴方に愛を伝え続けてきましたが、もう限界です
@txt-aoi
本編
第1話 溢れた愛
「あのクロウ様…、」
「クロウ様ぁ~!私と一緒にランチに行きましょう?」
学園の廊下にて彼に話しかけようする私を横から突き飛ばすかのように、彼女は割り込む。彼女はシェリー様。最近のクロウ様のお気に入りの方のよう。
「…すまないイアリス。今日のお昼は彼女と共にする。君とはまた明日にしよう」
シェリーのさんの肩を抱き、クロウ様は私の前から立ち去ってゆく。抱かれているシェリーさんは、ああなんて光悦そうな表情。まるで私に嫉妬して欲しくてこの様な行動をしているのかと見えるほど、彼女は口元を緩めながら。
そう言えば昔の私もシェリー様ように、クロウ様とお昼を一緒に過ごしましょう、と何度もお願いしに行ったわね。腕も勝手にだけれど、組んだりもした。あーん、だってやらせてみせた。
でも、もうそんな事できない。限界よ。
…私の中で何かひらり、と落ちてゆく心地がする。
立派な枯れ木にて、ずっと耐えていた一枚の葉が力をなくし、舞いながら落ちる感覚が。
ああ私は、何故彼にアレほど執着していたのだろう。
私へ愛を向けられることなど、ある訳ないのに。
幼い頃から愛をたっぷりともらった彼に、どれだけの愛情を注いでも溢れていくばかり。溢れていった私の愛と時間と労力は何かになった?
…まあ彼の自信にはなったわね。
今や学園で、最もモテる男はクロウ様だと小耳に挟んだ。彼は私の婚約者であるにも関わらず、沢山の女性へ手を出す。一人の女性とそのまま恋愛に発展すること無く、三週間程恋人ごっこを楽しめばまた次の女性へと変えてゆく。
あまり若くしてこの様な遊びにハマるなど、お義母様が知れば激怒してしまうかも。何度も私は止めるべきだとも言った。
全く聞いてはくれなかったけれど。
クロウ様だけを思い、クロウ様とのこれからの未来の為に働いた。
彼に遊ばれた女性のケアも姿見せる事なくしたこともあった。
私はベンチに座っているクロウ様とシェリー様のを一瞬だけ、みた。そして見るべきでは無かったと後悔した。
全く…無意味なことを私はし続けていたのね。
もう、二度と彼と幸せになろうなど思わないでおこう。
愛のない婚約でいいの。
学園の昼休憩が終わった後、私はクロウ様と目が合う。
すぐさま彼に微笑み、彼の背後にいた私の友人の元へ先を急いだ。
「…?」
彼は私に手を振ろうとしていたのが、横目にてうっすらと見えた。
昔ならば私はしっかり挨拶をしていたはず。…でももう、今の私にとってクロウ様より、友人のカナタの方が大切よ。
「イアリス様、次の授業は移動ですよ」
「あら…、用意をするのを忘れていたわ。少し、時間がかかるので先行っててくださる?」
「…ふふ、そんな事言わず、待たせてください」
「宜しいの?」
そう問うと彼女は、満面の笑みで頷いてくれた。ああ本当に太陽のような子。アポロンの守護を受けていると、思わせてしまうほどの暖かさや熱意が彼女からは感じられる。
彼女を待たせてはバチが当たる。
私は急ぎでノートや教科書を鞄から取り出せば、彼女と先程居た場所へ戻る。
「お待たせしました」
「さ、行きましょう!」
別教室へ移動している間、クロウ様との話になった。
「イアリス様…クロウ様の事なのですが、」
「ええ、シェリー様と最近仲の良いようで」
大体は予想が付く。カナタさんはご友人も多く、かなりの噂話を持っているでしょう。ならばシェリーさんとの事も友人と交流をして聞いているはず。
「宜しいのですか?…クロウ様は一度失敗を経験しないと、学ばない様な男と思われます」
「カナタ様、ここでそんな事口にしてはいけませんわ」
こそり、と話した彼女だったがカナタ様よりクロウ様の方が地位が高い。
いつクロウ様のご友人がこの話を聞いているか分からない。私のせいで、カナタ様が罰せられる、その様な事あってはなりません。
「…すみません、軽率でした」
「いえ、私が神経質なだけですのでお気になさらないで…」
「イアリス様。」
そうこうしてるまに教室へは着いていて、私は黒板へ近い前列へ座った。どうやらカナタ様も隣に座ってくれるようです。
__授業が終わり、チャイムが鳴る。今日は、早く帰らなくては。
そう思った矢先、クロウ様が私の目の前に立つ。一人で、なんて珍しい。彼はいつでもどこで人と居るというのに。そして、何故私の前にいるのでしょう…?
「イアリス…今日は一緒に帰らないか?」
どういうつもりなの。散々私が一緒に帰ろうと誘っても、無視して他の女性と過ごすばかりだったのにいきなりそんなことを言うだなんて。クロウ様は人の扱い方が余りにも、下手だ。これならば私の飼う猫の方が上かもしれないわ。…まさか今日私がクロウ様に手を振り返さなかったから、ご立腹なのだろうか。
「いえ今日は急ぎのようがあるので」
「それは何だ」
「教えられませんわ」
「…婚約者である私にもか」
「ええ」
どの口がいいますか、と危うく口にしてしまいそうになる。…彼にも、婚約者の自覚はあったのか。しかし、自覚があるなら女遊びも控えて欲しいものだ。
「…もしかしてイアリス、今日君の誘いを断ったから嫉妬しているのか?全く…そんな事で拗ねるな。明日は共にしよう。それで良いだろう?」
「…」
「まだ何か不満があるのか?…君は俺の事が好き過ぎるだろう。愛の重い女はあまり俺の好みでは無い」
「あいにくながらクロウ様、私明日は別の方との約束がありますので、一緒には出来ません…では、急いでいるので」
カツカツと靴の音を鳴らしながら私はクロウ様に背を向ける。そして涙を流しそうになった。まさかクロウ様は今までの私をただの重い女だと、挨拶は嫉妬だと思っていたとは…。ああ、これほど惨めな気持ちになったのは初めて。胸が痛いわ。
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