第6話 京馬さんと慈音
今、僕はとても気まずい思いをしている。
とりあえず慈恩に連絡をいれる。カフェをはやめに閉めることにした舞雨さんは、夏陽さんと共に京馬さんと話をしている。ほぼ関係のない僕は静かに飲み物の用意をすることにした。
しばらくして慈音が到着した。
「京馬……久しぶり……」
「やぁ、慈音……会えて嬉しいよ」
「会えて嬉しいのは舞雨にだけじゃなくて!もうニ度会わないって言ったのは京馬よ!どうして今さら……」
慈音の言葉にその場が静まりかえる。何があったのだろうか……事情の知らない僕はそんなことを考えながらお茶を机に運ぶ。
沈黙をやぶったのは京馬さんだった。
「俺だってもう二度と会わないつもりだったんだよ……でも会いたくなっちゃてさ」
「会いたくなった……京馬くん何かあったの?」
舞雨さんの質問に京馬さんは少し笑いながら答える。
「会いたいことに理由なんてないさ……じゃあ俺はそろそろ帰るね……夏陽、つきそい頼めるかい?」
夏陽さんは外の様子を確認する。もう雨が、やんでいる。
「わかった……藤都、舞雨と慈音を頼む」
「はい……」
僕は残された二人の心配をしながら洗い物をはじめた。
夏陽の車内……
「京馬……本当の理由は何なんだ」
「本当の理由って?」
「とぼけるな……会いたかったという理由じゃないはずだ」
「ほんと夏陽は俺のことをよく分かってるね……そういうところが本当に憎らしくて愛おしいよ……」
京馬の顔は夏陽への憎悪で満たされていた。
「でもね、会いたかったのは事実だよ……理由がなんであれね……実は……」
その頃のカフェでは舞雨さんはいつものように裏の掃除をおこないにいったため、僕は慈音と二人きりの状況になっていた。慈音はしばらく黙ったままだったが気持ちが落ちついたのか話し始めた。
「藤都には言ってなかったけど……あたし高校の頃、京馬のことが好きだったの……でも京馬は舞雨と付き合ってるって話を聞いて諦めたのよ……」
「そのことだけど二人は付き合ってなかったらしいよ……夏陽さんに聞いた」
慈音は驚いたように目を見開く。
「付き合ってなかった……あたしの勘違いだったのね……話の続きなんだけど……あたしは舞雨と親友で、京馬は夏陽と仲が良かったの……気づいていると思うけど夏陽は舞雨のことが好きだったからいつも見てて、それに気づいた京馬が舞雨に興味をもつようになった……そのうち京馬は舞雨のことが好きになって夏陽とは恋のライバルになってしまって……」
「恋のライバル……」
「そう……とくに焦ったのは京馬だった……あたしは舞雨と京馬が付き合っていると思っていたからどうしてそんなに焦っているのか理解できなかった……そして卒業式の日に京馬にいきなりもう二度と会わないって言われたの……」
「夏陽さんと京馬さんの不仲が原因?」
「……京馬はものとか人とかへの執着が強いの……夏陽との友情よりも舞雨への想いを選んだみたいで……詳しいことは夏陽にきいて……」
僕はこれ以上慈音に何かを聞くことができなかった。
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