第5話 舞雨さんの過去
「実は……事故があったんだ」
「事故って……何があったんですか?」
「舞雨には、中学の頃に付き合っていた人がいたんだ……」
舞雨さんの元彼……。一瞬、舞雨さんの元彼の京馬という人が頭をよぎったがそれは違う。慈音の話では高校の頃に付き合っていたはずだ。
「それって……京馬っていう人の前に付き合っていた人ってことですか?」
僕の質問に夏陽さんは少し不思議そうな顔をした。
「京馬?舞雨と京馬は付き合ってたことはないけど……」
え……?
「じゃあ舞雨さんの大切な人って……その中学の頃に付き合っていた人……?」
「多分……そうだよ、舞雨は今もその人のことを引きずっているんだ」
僕は、静かに夏陽さんの話に耳をかたむける。
「二人ともお互いのことがとても好きで、オレから見ても悔しいほどお似合いだった……そんなとき事故が起きたんだ」
「事故……」
「そう……舞雨の家庭はかなり複雑で……ずっと母親と二人で暮らしていたんだけど……中学3年生の頃亡くなってしまったんだ……大切な母親を失ってしまった舞雨は彼氏であるその人に助けを求めた、でもその人は舞雨の家に向かう途中、車にひかれてしまった……雨が降っていて前が見えづらかったことでおきてしまった事故だ」
舞雨さんが雨を恐れているのはその事故が原因なんだ……。
「そして、舞雨はその人の家族に責められ、本人の意思関係なく別れさせられてしまった……舞雨はそのまま彼氏に会えずに知り合いの家に引き取られた……舞雨は元々精神的に不安定だったから……」
舞雨さん……。夏陽さんの話を聞いた僕は考える。どうしたら僕は舞雨さんの力になれるのだろうか。舞雨さんに幸せになってほしい、その隣にいるのが僕じゃないとしても……。
「藤都くん、カフェについたよ、入ろっか」
「はい……」
とりあえず今はバイトに集中しないと!
僕が夏陽さんと一緒にカフェに入ったとき舞雨さんは知らない男の人に話しかけられていた。夏陽さんと同い年くらいのかっこいい人だった。
知り合いなのだろうか。男の人の舞雨さんを見つめる瞳は少し熱を持っているような気がした。それに対して舞雨さんは戸惑いが隠せないように固まったまま男の人を見つめている。しかし戸惑っているのは舞雨さんだけではなかったようだ……隣にいる夏陽さんも男の人を見て固まっている。
一体、この男の人は誰なのだろうか?
しばらくして男の人は夏陽さんに気がついたようだ。
「久しぶりだね……夏陽…」
「…京馬、どうして……?」
「ひどいなぁー、僕はたまたま仕事関係でこの街に来ただけだよ!みんな再会に喜んでくれるかと思ってたのに……」
「別に喜んでないわけじゃない……だけど…」
「そっか……僕は夏陽に会えて嬉しいよ…とても……ね」
この人が京馬さん……。僕は二人の会話に入るわけにはいかないので静かに様子を見守っていたが……京馬さんと目があってしまった……。
「えーっと……君は?」
「あ……僕はカフェのバイトの藤都です……」
「ふーん……舞雨のカフェのね……」
意味深につぶやく京馬さんに僕は少し恐怖を感じた。
「俺は舞雨と夏陽の元同級生で美容師の京馬」
「京馬さん……姉から少し話は聞いてます」
「姉?」
「はい、僕は慈音の弟で……」
「へぇー、慈音の弟か……じゃあ慈音の紹介で舞雨のカフェでバイトしてるってことねー」
さっきは少し怖い人だと思ったが悪い人ではないらしい……。
そのときの僕は気付けなかった。
京馬さんの目は全く笑っていないことに……。
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