第3話 幼なじみの夏陽さん
「帰ってくるのは久しぶりだね。みんな元気だといいけど……」
そんなことをつぶやきながら歩いている男の人を不思議に思いながら僕、藤都はバイト先であるカフェに向かっていた。
僕は、昨日の夏陽さんの顔が忘れられなかった。バイト中も夏陽さんの言葉が頭の中で繰り返されて集中できずにいた。あのときの夏陽さんは、これ以上舞雨さんに関わるなと脅しているようだった。舞雨さんは幼なじみだと言っていたが、夏陽さんは舞雨さんのことが好きなのではないかと僕は思う。二人の間に何かあったのだろうか……?
「藤都くん、夏陽ついて知りたいの?」
「え……?」
「さっきからボソボソと夏陽がどうのって……」
どうやら心の声が出てしまっていたようだ。しかし夏陽について知りたいのは事実であるため、好都合である。
「夏陽さんがちょっとした気になって……」
「夏陽は隣の家に住んでて幼稚園からずっと一緒なの……私は中学卒業後に引っ越したんだけど……たまたま高校も一緒でね……」
「それは……すごいですね……」
「いつも相談にのってくれたり……本当に感謝してるの」
僕は少し夏陽さんを羨ましく思いながら、話に耳を傾け続けた。
バイトが終わり、家に帰ると僕は慈音に尋ねた。
「ねぇ、夏陽さんって舞雨さんのことが、好きなのかな?」
慈音はいきなり質問をされて驚いたようだがすぐに答えてくれた。
「そうよ、片想いだけどね……多分、今も好きなんだと思う……」
「そっか……舞雨さんモテモテだね……」
幼なじみの夏陽さんでさえ、片想いなのに僕なんかが相手にされるわけないかと自分を納得させようとしたがそう簡単に失恋の痛みは消えてくれない。
「しかも夏陽の親友が京馬だもんね……」
大きくため息をつきながらベッドに横になろうとしていた僕の耳には姉のひとりごとは入ってこなかった。
その頃、夏陽は一人部屋でメールを読んでいた。
(夏陽、そろそろ帰ってきなさい。真終たちもあなたの帰りを待っているのよ。あの子のことは忘れなさい。)
中学を卒業する頃に喧嘩をし、疎遠になっていた両親からだった。夏陽は、読み終わると同時にメッセージを削除し、ベッドに向かった。
眠り始めた夏陽のスマホには新着メッセージの通知が表示されていた。
今夜も雨が降った。
悪い夢でも見たかのようにうなされている舞雨の頭を隣にいる男がそっとなでる。舞雨よりも少し歳上の男は優しい目つきで舞雨のことをいつまでも見つめていた。
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