第10話切り札
魔人との交戦中轟音が響いた。
聖女は驚く、デザインされたパトリシアは正確に起こった事を認識したのだ。
『この威力はシステマ・ペリメトル……ここまでするはずわ……』
私は困惑した、彼女がアダシノと縁のある酒々井の末裔であることは知っていたが、彼女は身籠っているこんな大呪文を使うとは想定外だ。
『リンが魔人城に入り込んだ?マーシャを置いて?』
パトリシアはパーティー全員に小型の発信機を取り付けていた、いざという時邪魔をされないためにだ。
「さっさと死ねや!!」
勇者が聖剣を振るう、既に多くの機械人形が切り捨てられている。
『戦いはこちらが押している、リンが合流すれば切札を使わずとも勝てるでしょうけど…』
パトリシアは迷っていたリンが勇者に加勢すれば魔神は倒せる、だがその後の仕事がしにくくなる。
疑問が浮かぶ、なぜマーシャは妊娠中にもかかわらず、あれだけの大呪文を使いリンを向かわせたのか……
「もらった!!」
勇者の一撃が魔神のマスクを斬る、マスクが割れ姿が晒せる。
「てめぇは……!?」
「マヒト!?」
私は驚いた、魔神アダシノの素顔が追放されたマヒトにうり二つだった。
「……今更だな、先生から聞いて居たのだろう……アダシノマヒト…私の本名を?」
経緯は解らないが魔神アダシノはマヒト自身で、私達と旅した記憶を失っている。
アダシノとの交戦後、リンの様子がおかしがった、こういう事か、リンはマヒトの事を愛していた、マーシャは二人を会わせる為にリンをむかわせたというの?。
『不味い、アダシノがリンの事を思い出したら…』
マヒトはお人好しだ、記憶を取り戻せば戦いは終わるが…、もし、アダシノの権限をそのまま使えるとしたらすべてを破棄しかねない。
あの男は欲がない、世界を自由出来る力を持ちながら憎まれ役をやっていただけだ。
パーティーでもそうだった、あれ程の薬を作れるなら雑用までして尽くす必要は無かった。
幼馴染みの事を思って?私はマヒトの欲のない所が嫌いだった、欲を制御出来ない者は獣ですが。
『お父様は言っていた…欲もまた人の原動力であると…』
性欲が無くなり人口が減少したなら刺激すれば済むことだったはず、なのにアダシノは自然回帰だと言い、人類の叡智の殆どを無に返した。
私は決意する、勇者を使い潰してでもこの男を殺し、人類の叡智を手に入れると!
ドローンにより目的の場所は既に特定出来た、私はお父様から託された聖典を手に取る。
「聖典解放!対象は勇者カラ!!」
聖典が開き、緑の光が勇者を貫く。
「パトリシア何を!?」
「私と私達の子の為に魔神を倒して下さい」
聖典とは対象の遺伝子を操作し、爆発的に身体能力を上げるアイテム、使えば対象は死ぬが、もう用はない、次世代の超人たる子は孕んだ。
「これが最期の加護です……後は頼みました…」
体調が優れないふりをして後方にさがる。
「すげぇ、力が!力がみなぎる!!」
勇者の体が膨張する、目は血走り、口元は獣のように歪んだ。
「パトリシア!逃げる気か!」
私は叫んだ、パトリシアは返事をせずに姿を消した、光学迷彩か、魔法かは解らないが居なくなった。
「パトリシアには使命があんだよ!それになマヒト!気安く俺の女を呼ぶんじゃねぇ!」
勇者が聖剣を打ち込んできた、オートマータザンキが私をかばうが、紙切れのように切り裂かれる。
「うっ」
私は聖剣の余波で壁に体を打ち付ける、すると上書きされた魔神の記憶のそこにあった、記憶が蘇ってくる。
「……思い出した……カラ聖剣を収めてくれ!」
「はっ、魔神が命乞いか?てめぇがマヒトだろうと俺の栄光の為に死ね!」
「違う、お前は教団に利用されてるんだ!」
俺は教団本部を襲った時に勇者計画をみた、それは炊き出しの食事に特殊な薬剤を混ぜ、適性者を探すと云うものだった。
炊き出しは俺達の村でも行われていた、表向きは慈善事業……本来の目的はアダシノを倒す勇者役探し、しかも使い捨ての……
「お前の出ていく前にリンを女にしたよな?彼奴も憐れな女だ魔神に純潔を捧げるなんてな!」
「こんな過去思い出したく無かった!!」
俺達は怒りに任せ勇者に斬りかかる、俺が身に着けている鎧はただの防具ではない、強化外骨格、太古の科学技術で作られたパワードスーツ並の人間では相手にならない。
『出力を全開にしても止められた!』
「ようやく殺る気になったか!」
二人は戦いは続く、だが両者は気が付かなかった勇者カラの皮膚が僅かに崩れ始めていたのを……
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