第6話変化

気がつくと私はベットに寝かされていた、意識ははっきりしてるが体が全く動かない。

眼球を動かし周囲を確認する、知らない部屋だ、魔神戦のあと信者が助けてくれたのだろうか?

「気がついたか…」

「――」

声がでないこの男は誰なのだろう?

「アリシア…無理して喋るな傷にさわる…」 

私の名を知っていると言うことはお父様の部下かしら?

「御父上は亡くなり神殿は壊滅した、何とか君の命は助かったが能力は消失した」

彼が嘘を言ってないのは理解出来た、聖女として調整された私は洞察力を鍛えられていた。

聖女が真実を見通せないとか格好がつかないからね。

名前を聞こうと口を動かすが声がでない、魚の様に口がパクパクするだけだった。

「私の名前か?」

何と男は私の口の動きから言葉を読み取った、私は頷く。

「真人だ……御父上は世話になった、ゆっくりと休むと良い…」


再生時にバグがあったのか、最近らしくない…アリシアを殺せなかった、止めを刺そうとした時「人を助ける様に生きなさい…」

誰かの言葉を思いだした、母親?いや母は自分が生まれる前に死んだはず。

胸が苦しい、そもそも自分は本当に化野真人なのか?

二十年程前教団の刺客に襲われ、脳を含めたほぼ全身が消失し、肉片から再生された自分は本当に人なのか?

疑問に答えは出なかった、それでも進むしか無い。



勇者一行は魔神城を目指し荒野を歩いていた、遠くに異形の城が見える。

「あれが魔神城……」

「怖気づいたかリン?」

勇者カラが笑みを浮かべ訪ねてきた。

「いや、ようやくここまで来たと思ってな…」

故郷を後にし長い旅だった、マヒトと別れたのは寂しかったが魔神を倒せばまた会える。

「止まって!勇者様……何か居ます!」

パトリシアが皆を制した、私には何も視えないが……いや何か居る。

耳を澄ますと機械人形特有の起動音が僅かにきこえる。

「よくわかったな…」

男の声が聞こえる、それと同時に魔獣形の機械人形複数と見たことのない剣士の様な奴がいた。

そして黒騎士の様な男……マスクを被っているので顔は解らない。

「魔神アダシノ!」

パトリシアが男を見て叫ぶ、アダシノが城から態々出向いて来たというの?

私達のは武器を構え戦闘に備える。

「聖女パトリシア、このまま帰ってくれないか?」

私は耳を疑った、人々を長年苦しめて来た魔神が帰ってくれとは…

「魔神ともあろうものが臆したのですか?」

パトリシアは引く気は無いようだ、確かにここまで苦労して来たのだ。

戦いもせず逃げることはできない、私もどう意見だ。

「教祖伊能は既に殺した……これで終わりにしよう」

「お父様を?」

パトリシアが怒りに震えている、父親を殺したと言われたのだ。

「落ち着けパトリシア!」

カラがパトリシアを庇う様に前にでる。

「ザンキ……勇者の生死は問わない、女は殺すな…」

アダシノが剣士形の機械人形に命令を下す。

「ぐっ!」

ザンキと呼ばれた機械人形に斬りかかられ勇者と聖女が分断される。

カラは体制を立て直すが魔獣形も襲いかかる。

「マーシャは俺を援護してくれ!リンはパトリシアを頼む!!」

私達は勇者の支持に従う、私はパトリシアの前に立つ。

アダシノはマーシャが勇者の方に向かうの確認すると瓶の様な物を投げた。

瓶が空中で割れると強い光を放ち、次の瞬間炎の壁が筒状に私達を囲んだ。

「パトリシア、戦闘に特化した聖女アリシアですら私に勝てなかった、諦めて帰れば見逃そう…」

「アリシア…ですって?」

パトリシアの顔が怒りで歪んだ、私を押しのけアダシノの前にでる。

「あのイノー姓を名乗る事を許されなかった、出来損ないが何だというの!?」

パトリシアの両手が光輝く、何なんだこの殺気は聖女が放って良いものじゃない。

「私が、私こそが聖女の完成形!プロトタイプを倒したぐらいでいい気にならないで!」

パトリシアは両手から光線を放つ!

アダシノは剣で光線を拡散させる、これが聖女の力なのか?だが感情的になり過ぎるのは危ない。

「パトリシア落ち着いて!二人で力を合わせよう!」

パトリシアは私の声を無視してアダシノに襲いかかる、出来損ないと呼んだアリシアと比べられたのが余程屈辱だったのか、完全に冷静さを失っていた。

『凄い体術だ…』

パトリシアは全身を魔力で強化して魔神と互角に闘っている、体術は専門では無いがそれでも凄さはわかった。

加勢したいがタイミングが掴めない、魔神の方は剣の腕は並と言ったところだが力とスピードで補っている。

「パトリシア!」

やがてパトリシアはアダシノに吹っ飛ばされた、私は彼女を救うべく魔神に斬りかかる。

私の事は眼中に無かったのか奇襲は成功し、魔神のマスクを割った。

絶好の機会、すぐにでも二撃目を放つべきだったが、私は剣を振れなかった。

「マ、マヒト……」

魔神の素顔が私の愛した男そのものだったから……

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