第5話聖女
俺は聖女と呼ばれたアリシアを見て呆れた、これが聖女?性女の間違いだろ?
侮辱したわけではない、ナノマシンによりアリシアを測定した結果性フェロモンが異常な数値を叩き出していた。
自分はマスクとナノマシンにより常に平常値の保つようになっているが、そうでなければ涎を垂れ流し地に這いつくばっていただろう。
なるほど安全性を無視して、性能のみを追求したプロトタイプ、力をのみならパトリシアを凌駕しているだろう。
「人形、フェロモンを含めた状態異常は無効だ…」
人形とあえて煽った、怒りにより判断ミスを狙うが、アリシアは微笑んだ。
「安い挑発ですね、魔神と言えども脳の再生は時間を要しますよね?」
アリシアは一気に距離を詰めた、俺の襲撃に待機していたオートマータ三体が姿を表し聖女に襲いかかる。
「はっ!」
一体目は聖女の拳で粉砕される、続いて2体は蹴りで撃墜!
「バースト!」
三体目は魔法で爆裂する。
「残念ですよ、これほどの技術を正しい事に使えないなんて…」
先生の遺伝子組み換え技術は凄い、だからこそ慢心してしまったのだろう、次世代を担う超人を造るなどと。
「鏖殺者のお前に言われる筋合いはない!」
先生の言葉に死んだはずの心が疼く、だから自分の幸福など考えてはいけない。
彼女と共に生きるなど……彼女?今の一瞬美しい女剣士姿が浮かんだ。
『彼女は……誰なんだ…』
思考が歪む、駄目だ、今は眼の前の的に集中しないと。
腰に刺してあった剣を抜いた、人を救うために人を殺す方法を学び、世界を救うために世界を壊す方法を作り出した。
自分の最大の矛盾だ、先生の方法でも世界は救われたのかもしれない、女性に興味を示さなくなった男共に眼の前のデザインヒューマンを出せば当座は凌げただろう。
何も知らないものが見れば、目の前の女は絶世の美女であり、能力抜きにしても大抵の男が抱きたいと思うだろう。
「気に入らない…」
先生のやり方を否定的したのは単に自分のエゴだった、結果のみを追求し、先生と手を取り合えば犠牲は少なかったのかもしれない。
「先生……千年も生きれないば充分でしょう?」
私はアリシアを無視して伊能の水槽を狙う、剣を振るうと真空の刃が発生する。
刃は水槽に届かなかった。
アリシアが防いだのだ、彼女が掌を突き出すとバリアが張れ刃を弾いたのだ。
「お父様は殺らせませんよ…」
お父様か…親子の情で縛っているのか、先生は本気で愛情を注いで目的の為には対象を使い潰せる。
『本気で父親と慕っているのだろうな…』
アリシアが猛然と殴りかかってくる、紙一重で交わすが、猛攻は続いた。
自分の体もノーマルな人間とは言えないが、彼女も常人のスペックではない。
並の人間であれば初撃で死んでる、何回か剣で傷を与えたが瞬く間に再生している。
ここまできたら人の形をしたキメラだ。
『長引けば不利だな……』
剣にエネルギーを集中させる、剣が紅く光り熱を帯びる。
「壊れろ!人形!」
両手持ちでアリシアに斬りかかる。
アリシアは笑み浮かべ拳に魔力を込めた、拳が眩い光に包まれる。
そうだろうよ、聖女を名乗るお前なら受けると思っていたよ。
激突する剣と拳、紅と白の光が反発する。
「がっ、は」
私は力負けし吹っ飛ばされた、床に仰向けに倒れる。
「アリシア!頭を砕き全身を消滅させるのだ!」
伊能が興奮気味にアリシアに指示をだす。
「お、お父様……」
突然アリシアは吐血した、腹を押さえ苦しみ出した、見ると下腹が溶解し血と肉が混じり合ったものが垂れていた。
「さっきの攻撃は囮だ……本命は極小のオートマータによる攻撃だ、麻酔成分を投与しながら肉を溶かした……」
「うぐっ」
アリシアの腹部から蛭の様な小型のオートマータが何体と出てくる。
「痛みを抑えるから与えるに変えた、激痛で動けないだろ?」
私は立ち上がると剣を拾う。
伊能の安置されている水槽に近づく。
「お…父様…に手を……」
アリシアは父を守ろうと立ち上がろうとするが、体が動かない。
「じっとしてろ……子が親より先に死ぬなど悲しい事だ…」
私は水槽を剣で叩き割った、中の液体と共に伊能の首が転げ落ちる。
「パトリシアが…必ず…」
「おさらばです…先生…」
別れを告げると先生に止めをさした。
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