第3話過去

DNA確認終了……と一致……の再生体と断定

脳スキャン終了……欠損あり

妙な声が聞こえる……どこだここは?

そもそも自分は誰なんだ何も思い出せない。

記憶をダウンロード開始……

誰かの記憶が流れ込んでくる、白衣を着た男達が言い合っている。

「伊能先生!今こそ文明を捨て自然回帰するときです!」

若い男が初老の男性に必死に訴えかけている。

「何を言っているのだね?ようやくここまで来たのだよ、優れた科学により多くの病、貧困、戦争、犯罪の根絶、ようやく人間は理想郷を築けたのだ…」

「人間……いや、全ての生き物は理想郷では生きていけないのです、これを見て下さい」

魔法だろうか?男の言葉に反応し、何かのグラフが表示された。

「これはマウスによる実験データです、隔絶した広い空間に外敵もなく、食料も豊富な理想的な環境を再現しました、最初はマウスの数が増えますが、やがて異変が起きます……メスに興味を示さないオスが現れたのです」

「マウスの話だろ……」

伊能と呼ばれた男は何かを察したようだ。

「これは人間の少子化と同じなんです!文明により生命の危険もなく、飢餓の心配もない、その結果子を残そうという意識が低下してしまった!」

「だから自然に回帰しろと?そんなことをせずとも科学で乗り越える!優れた人物の不老化と繁殖に優れた人間を創り出す!!」

「先生!人間の改造なんて辞めてください!」

「君には失望したよ……化野君……」

化野?……アダシノと言ったのか?

……あああ

魔神アダシノは人間だった、悪人ではなく人間の幸福な未来を願い、科学者を志した善良な青年。

そうだ、自分は科学者だった、理想の世界を構築し、老いて普通に死ぬつもりだった。

だが、かつての仲間と恩師は道を間違えた、遺伝子工学の権威の伊能先生は人間を改造することにより滅びを回避しようとした。

私は先生の計画と人類の緩慢な自殺を止めようとしたのだ、仲間を集め、過激派と呼ばれた。

何度も生命を狙われ、力を蓄えた。

そして、機械工学とナノマシン技術を組み合わせた、兵器オートマータを作り上げた、私と同士はオートマータを使い科学文明を破壊した。

人類の滅亡を止めたのだ、文明を失い生命の危機に瀕した人間は生きる力を取り戻した。

その過程で人々は魔力という力に目覚め、科学ではなく魔法が発達し、私は魔神と呼ばれた。


「仲間達は科学に頼るのを辞め、集落を作り子を作り老いて死んでいった…」

自分もそうしたかったが、罪人である自分を許せなかった、目的は間違ってなかった、現に人間は生きる力を取り戻し数を増やしている。

問題は方法だ、結果老人、女子供、あらゆる人間が死んだ、私が殺したのだ。

意図しないナノマシンの効果で不老になった、自分はこれを罰だと受け取った、愛するものと歳をとり死ぬこともできない。

そうして千年間人間にストレスを与えている、生命の危機を感じさせ種を存続させるために……。

私は過去を思いだし、辺りを見回した。

魔神城の中枢、外界では失われた機械設備がそこにはあった、私は端末を操作し、過去の記憶映像を見る。

そこには爆殺された自分の姿が映された、映像を見ていくと経緯がわかった。

自分は奇襲を受け死んだが、ナノマシンに肉片から不完全ながらも再生されたらしい。

だから記憶の欠損があるのか、再生されてからの全ての記憶がない。

よほど大切な思い出だったのだろうか、大きな喪失感を感じていた。

「蘇った以上決着はつけないとな……」

魔神の周りに配下のオートマータが集結した。



人里離れた山奥にリジェネ教団の本部があった、地上には荘厳な神殿が建てられおり敬虔な信者が巡礼に訪れている。

その神殿地下深くに失われた科学研究所がある、そこには神官服をきた選ばれた者がいるが、神官というは表向き、教祖より教育を受けた科学者達だった。

「教祖様、パトリシア様の報告では数日の内に魔神城にたどり着くとの事です」

科学者の男が話しかけた先には水槽のような物があり、その中には老人の首が安置してあった。

「そうか……今度こそアダシノを倒し奴の研究を奪うのだ…」

教祖の名はイノー、かつての化野の師、遺伝子工学の権威、伊能教授だった。







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