第2話追放後

翌日俺はリンに置き手紙をして、早朝早くに宿を出た、故郷の村に帰るために、もう、家族は居ないが母の墓がある。

自分には5年前より昔の記憶がなかった、最初に浮かぶのは心配そうな顔の母、川岸に倒れてる所を助けてくれたそうだ。

自分の名はマヒトそれ以外何も思い出せなかった、子供の居なかった母は自分を引き取り育ててくれた。

そんな何処の馬の骨か解らない自分にリンは対等の友人として接してくれた。

彼女は剣の稽古でよく怪我をしていたので、傷薬を付けてあげた。

思えば薬師を目指した切っ掛けだったのかもしれない、彼女は剣士になり機械人形から村人を守りたいと言っていた、天才と言われる程の才はあった、だが、それだけではない努力したのだ。

そんな彼女に自分は尊敬……好意を持っていた、自分の過去が不明だからだろうか?自分は彼女を幸せに出来ない、相応しくないという思いに悩まされていた。

「ぐっ、また頭痛か……」

山道を歩いてるさなか持病の頭痛に襲われる、鞄から鎮痛剤を取り出そうとした時、体に衝撃が走った。

「………」

声は出せなかった、体が触手の様な物に貫かれていた。

薄れゆく意識の中で触手の元を見る。

『機械人形……』

運悪くアダシノの機械人形に襲われたのだった。




勇者である俺はマヒトを追放し、リンを物にするつもりだったがリンの奴は拒絶しやがった。

「剣士としては最期まで共にする……マヒトの頼みだからな、だがお前の女にはならない」

これからゆっくりと口説くつもりが先手を打たれた。

取り敢えずはパトリシアとマーシャの二人で我慢しよう、魔神打倒まではな……。

「パトリシア教団からの支援金はいつ来る?」

「明日にはきますわ」

聖女パトリシア、リジェネ教団から遣わされた女、彼女に聖剣を勇者に選ばれ、証として聖剣を授かった。

今回の魔神討伐は教団の全面支援により成り立っている、教団は炊き出しや奉仕作業で昔から村に来ていたので知っていた。

あとから合流したマーシャも教団の依頼を受けての事、魔神を倒して名声を入れたいのか、本当に世界を救済したいのかはどうでもいい。

教団は優れた回復呪文の使い手集団であり、医療、薬学においても他の追随を許さない、その為多額の資金を有している。

魔神討伐が達成されればかなりの見返りが期待できる。

「教団からの支援金を受け取ったら次の街に向かう、みんな今日はゆっくりしてくれ」

「そうか、私は剣の鍛錬をする…」

「リン、たまには茶でもどうだ?」

マーシャは鍛錬に行こうとしたリンに声を掛ける。

「そうだな行こう」

「パトリシアはどうする?」

「私は勇者様のお世話がありますので、お二人で楽しんで下さい」

私とマーシャでお茶を飲む事になった、二人で店に入る、彼女の勧めで花茶と言う物を頼んだ。

「いい香りだな」

「マヒトの事は残念だったな、好きだったのだろ?」

「え?」

「丸わかりだったわ?」

「そ、そうだったのか…」

自分では態度に出して無いつもりだったが、丸わかりとは恥ずかしい。

「思ったより元気そうね」

「心配してくれたの?」

「そうよ、二人で逃げるかと思ったわ」

「マヒトに言われたんだ、魔神の為に苦しんでいる人がいる、力を貸してやってくれとね」

「その志しは尊敬するが大変だな、リンとしては攫ってくれても良かったのだろ?」

「そうだな、だけどそんな彼だからこそ好きになった……」

彼は他者を思いやる優しさを持っていた、だけど心配になることがあった、彼には自身を思いやる心がないのでは無いか?

自分を引き取り育ててくれた母親への献身ぶり、それ一つ取っても過剰に思えた、実の子であっても彼処までできるものはそうはいないだろう。

「しかしマーシャがお茶とはね、最近禁酒してると聞いたが何処か悪いのか?」

「実は子が出来てね、父親はカラだ」

私は絶句した、パトリシアと付き合ってるのにマーシャを妊娠させたとは!

「そんな顔はするな納得しているし、別に勇者と結婚したいわけじゃない」

「しかし一人で子を育てるとなると…」

「大丈夫だ、魔神討伐の報奨金が入れば子育てに集中できるし、人を雇う事もできる」

マーシャは花茶を飲み干し、ゆっくりと息を吐く。

「落ち着いたら生涯添い遂げる相手を探すさ、案外連れ子が居ても相手は居るものだ、子を産んだ実績があるからな、もし、出来なくとも家名を継がせる事はできる」

この時代に置いて子を産むというは女の使命だった、皮肉にもアダシノが人々を恐怖で苦しめる事で、男も女も次世代…子を残す事に積極的になった。

人にもよるが処女よりも、出産実績のある女性を好む男性も少なくない。

マーシャほどの美人であれは結婚も可能だろう。

「そうか、お互い生き残って結婚しないとな!」

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