第12話 重なる想い
黒いマナはミューズだけではなく
――世界の終焉
その言葉が頭をよぎる陰鬱な光景である。
ミューズから一頭の馬が廃墟の大神殿へ向けて疾走していた。時折、魔獣が襲ってきたが、馬上の男が剣を振るってあっさり屠っていく。
アベルとリーナを乗せた馬だ。
「もう、時間があまり無さそうだ」
馬を走らせている途中でも黒いマナが途切れる場所はどこにも無かった。このままでは
「惑星環境改変機関はどれくらい保つかしら?」
「たぶん既に内部バッテリーに切り替わっているだろうから数時間と保たないんじゃないかな」
あまり明るい情報ではなかったがリーナは努めて笑った。
「それだけあれば神殿までは余裕ね」
「ふふ、そうだね」
アベルも釣られて笑う。
想いを通わせた恋人と一瞬なのだ。もうアベルに恐れるものは何もなかった。
「ところで、神々は去ったのに神殿にはどうして女神がいるんだ?」
「彼女は新たに生まれた女神よ」
「新たに?」
「そう、私がずっとお祈りしていた……その信仰が生んだ小さな神様」
ここにきてリーナにもだんだんテーアの存在が理解できてきた。
「私、分かったの……神は信仰によってその存在を得ていたのよ。だから1万年前この世界から信仰が失われた時に彼らは別の世界へと旅立ったんだわ」
「信仰が神を形作る……それじゃあ!」
「ええ、逆に言えば信仰によって神は生まれるの」
幼き日より祈ってきた想いが結実したのが、あの夢に現れた白き女神。リーナの祈りに芽吹いた神だから、彼女はリーナと強く結びついている。
「だけどそれなら女神の力で既に黒いマナが浄化されていたんじゃ?」
「いいえ、彼女に世界に干渉する力が無いの」
「どうして?」
「今まで私は
だから、直接彼女に会って名を与える必要がある。
「それなら名前を呼びながら祈れば……」
「たぶんそれではダメだと思う」
十年も祈り続けて芽吹いた存在。きっと名前を与えるのにも相応の時間を必要としてしまう。今は時間がないのだ。
「彼女に直接伝えなきゃ」
「了解、必ず巫女様を女神様の元へお届けしますよ」
「もう、茶化さないで!」
「ははは、飛ばすからしっかり捕まって」
馬を更に急がせ天より降り落ちる黒いマナを突っ切って進む。もう、どこを見ても黒と灰色の空間であった。
その光景は息づく生き物はいないのではないかと錯覚しそうな死の世界を思わせる。ただ、魔獣だけは散発的に襲ってきた。すべてアベルが軽くあしらったが。
やがて、想い出の大神殿も間近となった時、アベルは異変に気がついた。
「あれは!?」
神殿が視界に入ると、灰色の世界に光が灯った。
「やっぱり夢と同じ……」
神殿が夢と同じように光り輝いていたのだ。
「本当だったんだね」
「疑ってたの?」
「それりゃあ完全には信じられない話だからね」
「ふふ、そうね。それでも一緒に来てくれてありがとう」
リーナはアベルの首に手を回して頬にキスをした。
「最後になるかもしれないのにリーナから離れるわけないだろ」
「うん、私も最後までアベルと一緒がいい」
「ずっと一緒さ」
神殿の前で馬から降りるとアベルはリーナの腰に左腕を回し、彼女の顎を右手でクイッと持ち上げた。
アベルの新緑の瞳を見るリーナの茶色の瞳が潤む。
「これからずっと……今日も明日も……明後日も」
「うん、死が2人を分つまでずっと……」
引かれ合うように2人は唇を重ねた。
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