第5話 再会
いつもの学校、いつもの教室、いつもの授業……
同じ教師、同じ級友、同じように過ぎていく……
変わらぬ日常。
それは若人にはとても退屈で、リーナは欠伸を噛み殺しながら平和な時間が通り過ぎるのを忍耐強く待った。
しかし、リーナには分かっていなかった。
そのありがたみは失って初めて気がつくものだと――
「ねぇ、噴水広場に新しくできた……」
「帰りに寄って……」
2限目の授業が終わり休み時間に生徒達が集まって他愛も無い雑談に興じている。頬杖をついてリーナはそんな光景を眺めた。
「早くお昼に行きましょ」
「うん……」
級友のネムが誘いに来たのだが、リーナは生返事を返しただけで反応が薄い。
「ずいぶんアンニュイなのね」
「平和だなぁって」
「良い事じゃない」
物憂げなリーナにネムの悪戯心が湧く。
「これもリーナが毎日
「むぅ、イジワル……私だってもう神様なんていないって分かっているわよ」
リーナは揶揄われて口を尖らせた。
「だけどちっちゃい時にアベルから習って習慣になってるのよ」
「まあ良いじゃない」
ネムはくすくすと笑うが、そこには悪意が感じられない。それはリーナにも理解できているから特に怒る気にもなれないのだ。
「私はけっこう素敵な思い出だって思うけど?」
「そうかなぁ」
子供の頃は神様の存在を純粋に信じていた。リーナにとって絶対のアベルが教えてくれたことに間違いはないと。
「幼い子供に対する方便だったのよね」
けっしてアベルも悪気があったわけじゃない。子供相手にできる説明なら微笑ましい嘘である。
「あら、私は神様っていると思うわよ」
「えっ、意外!」
現実主義的なネムが神の存在を肯定するとは思っていなかっただけに、リーナはかなり驚いた。
「今はともかく太古の昔にはいたんじゃないかって考えてるわ」
「でも通説では……」
「説は説よ。神話は作り話じゃなく実話だったって私は信じてるの」
「じゃあ、なんで私のお祈りを笑うのよ」
リーナはこれまで友人達から馬鹿にされてきた。ネムにしても揶揄ったりする。
「だって今はもういないじゃない」
「信仰を失った地より別の世界へと去ったって神話にはあるわね」
「そこら辺の研究をアベルさんはしてるんでしょ?」
「アベル……」
その名を口にしてリーナは再び物憂げになった。
「あらあら、お姫様は王子様に会えなくて寂しいと見える」
「もう、怒るよ」
「ごめんごめん――って、噂をすればね」
少し騒がしいなと窓の外を見たネムの視界に青髪の美青年が入った。目敏く見つけた女子達が騒いでいる。
「ア、アベル!?」
校門の前に立つアベルの存在に気がつきリーナもガタッと席を立った。
「ほら、行ってこい」
「う、うん、ありがとう!」
リーナは教室を飛び出し躊躇なく全力疾走。時折、スカートの裾が捲れ上がるのを手で押さえて校門まで走り切る。
「アベル、お帰り!」
「ただいま、リーナ」
飛び込んできたリーナをよろめきもせずアベルは受け止めた。
「元気そうだね」
「うん、それだけが取り柄だもん」
アベルは甘い匂いがしそうな蜂蜜色の髪を優しく撫でて、愛しい幼馴染みの存在をしっかり確かめる。その愛撫にリーナは心地良さそうに身を預けた。
そんな2人の様子を教室の窓から眺めていたネムはふぅっと息を吐く。
「あれだけ甘い空気出しといて付き合ってないって言うんだからなぁ」
あれ以上アベルにどうしろと言うのか。このままだとリーナが微妙な関係を継続しそうでネムは少し心配だ。
「私も神様に祈ってみようかしら」
親友の幸せを願い神に祈るのも悪くないか――ネムはそんなふうに思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます