第2話 夢の中の白い女神


 ――誰かが私を呼んでいる……


女神様テーア……』


 ――てーあ?


 その思考は消えそうなほど儚く、空間に揺蕩う想いは心許無く、意識は微睡むようにはっきりしない。


 だけど、その声はいつもはっきり聞こえる。


『今日も1日ありがとうございます』


 それは、何度も、何度も、何度も、何度も……


 ――あなたは誰?


『今日も見守ってくださりありがとうございます』


 ここは何も無い意志だけの虚無の世界。

 だから、彼女の問いに答える者はない。


 ただ毎日彼女へ温かい祈りが捧げられるだけ。


 ――私は誰?


女神様テーア……』


 ――私はテーア……なの?


 しだいにソレの意識は自我を持ち始める。


『明日もまた女神の加護がありますように』


 ――私の加護?


『それから……アベルが無事に帰ってきますように』


 その祈りは今まで以上に温かく、心地良く、そして安らぐ祈り。


 ――アベル……あなたにとって、とても大切な人なのですね。


 その想いいのりが意識を強く揺さぶった。


 だからだろうか?

 しだいに意思に自我が芽生えていく。


 ――私は人々に恩恵を与え、人々の幸福を守る者。


 やがて意識は自我となり、自我は姿かたちとなった。


女神テーア


 そして思考は声となり、凛として美しい音色が瑞々しい唇の間より発せられる。


「私は女神」


 その瞬間、何もなかった世界に色と形が与えられた。

 

 そこはありし日の想い出の大神殿。

 そこは少年と神像を見上げた広間。


 テーアはその中で1人ぽつんと佇む。

 神像を見上げる横顔がどこか寂しい。


 彼女はとても美しかった。しかし、色が無かった。


 白く長い髪、抜けるような白い肌、全身を白いローブで包み、何もかもが白い。


 突然、テーアはこちら・・・を振り返った。


「きっと……いつか……あなたに……リーナ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る