第1話 ありし日の神殿の想い出
「この女の人はだーれ?」
こてんと首を傾げる愛らしい少女。
「すごく優しそう……それにとってもキレイ」
まだ10才にも満たない幼い少女は、自分の10倍以上も大きな女性の像を見上げながら薄茶の瞳をキラキラと輝かせた。
「これは
少し年上の少年が少女の隣に立ち、濃い青色の髪を掻き上げ一緒に像を見上げた。
「ここは大昔、神殿だったからね……もう信仰も
ここは神々を
まだ信仰が盛んな時代には信者が大勢やって来ただろう立派な神殿も今では朽ちかけた遺跡であった。
少女が見つめていたのは、そこに並ぶ神の偶像の1つ。数千年の刻を経てほとんどの神像が欠け、壊れている。だがその中にあって女神像だけは奇跡的に美しさを保っていた。
「【てーあ】ってなに?」
「女の神様のことさ」
「かみさま?」
信仰が廃れて久しい今の時代に神の存在など幼い子供が知るはずもない。そんな幼子にものを教えるのはとても難しい。
「遥か昔、人間に魔術や魔導工学を授けてくれた超越存在さ」
「むぅ、わかんなーい!」
「ははは、ごめんごめん、リーナには難しかったね」
少年は柔らかく笑うとリナの蜂蜜色の頭を撫でた。
「神様っていうのは……そうだなぁ……」
少年は幼い少女にどう理解してもらおうか考え込む。その思案する彼の横顔は年齢より大人びて見えた。だから少女には少年が誰よりも頼もしく、全幅の信頼を寄せているのだ。
「人間のお願いを叶えてくれるとっても偉くて凄い方々なのさ」
「お願いを聞いてくれるの!?」
少年を見る目を期待に輝かせた。
「ああ、そうだよ」
「リーナは何かお願い事がある?」
「えーとね、えーとね……」
無理にお願いを考える少女の柔らかい髪を少年は愛しげに撫でた。
「別に無理してお願い事をしなくてもいいんだ」
「でも、それじゃお祈りできない」
どうしても少女は少年に教えられたお祈りをしたくて堪らないのだ。
「うーん、そうだなぁ」
そんな少女の純心に少年は優しく微笑む。いつも少年は少女の願いを叶えてくれる。だから少女は期待の目で少年を見上げた。
「感謝なんてどうかな?」
「感謝?」
「うん、お花を供えてさ、女神様に感謝していたらきっと良い事があるよ」
そう言われても少女には良く理解できない。
「今日1日の無事を感謝して明日も無事に過ごせますようにって祈るのさ」
少年の言葉は幼い少女にとって絶対であり、それから少女は名も知らぬ女神に祈るのが日課となったのだった。
それは毎日、毎日、毎日……
「てーあ様、今日もありがとうございます。明日もみんなが幸せでありますよーに」
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