名も無き銀月のテーア

古芭白 あきら

神話


――神々の黄金期【クリセオン】


神代の時代、数多の神々と彼らへの信仰で世界は溢れ、潤沢なマナが大気に満ち大いなる魔術が人々に恩恵を与えていた。


ああ、麗しき幻想なるかなクリセオン。


それは一篇の詩なれば


神は美酒ソーマに酔いしれ

妖精の歌声を愉しみ

幻獣の戯れを慈しむ


衣食住が常に満ち足り

人々は労働を知らず

飢えを知らず


争いなど生まれず平和で誰もが豊穣の恩恵を受けた時代。人間は神より大いなる叡智、魔術を授かりいよいよ繁栄を極めた。


だが、神も人も万能感から一番驕り昂っていた時代でもある。


その驕りが黄金時代に翳を齎す。



――神々の凋落期【ラグナレク】


神々の間に軋轢が生じ、それは神を信仰する人の間にも飛び火した。やがて神と神による争いが始まり、地上の生物全てを巻き込む大きな戦争へと発展していった。


熾烈を極めた神々の戦争がやっと終息した時には、神も人もその数を十分の一以下にまで減じていた。


神々の力は衰え、多くの魔術師を喪い、人々に奇跡の恩恵が行き渡らなくなっていった。人間達が困窮するようになった。


そんな人間達を憐れみ魔術の神ヘカテスが魔導工学を人々に伝授した。


これが人の手で大発展を遂げ、しだいに人々は神への感謝を忘れ、信仰を失い、神々の存在を危機を招くとは予言の能力を持ち合わせていないヘカテスには想像もできなかった。



――魔導工学最盛期【シデロスジェーノ】


世界から信仰が無くなり神々は消え去った。


しかし、それからもしばらくは人類の間で魔導工学は隆盛を誇った。人々は星の海をも渡り、月さえも人が住める場所へと変えるほどの隆盛を極めた。


その人が居住する月面世界をミナスと呼んだ。


しかし、神を失った影響で黒い魔力マナが急速に増加。それと共に魔獣が発生するようになった。その中で数々の魔導兵器が生まれたが、人々の衰退は免れようがなかった。



――衰退期〜現代


魔導工学と人類の衰退が皮肉にも黒い魔力の発生を減少させた。


だが、現代は神も魔術も失われ、より所の魔導工学さえも衰退し世界はただゆっくりと滅びへと向かって進んでいる。


この流れを止めることは誰にもできない。


そう……もう世界に神はいないのだから……

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