第53話:花のヘアピン
歩きながら作った花のヘアピンを取り出し、眺めてみるが……
「やっぱ不安だな……」
雰囲気に飲まれて美雪が喜びそうな物が仕上がったと思ったけど、よく考えてみるとプレゼントに手作りってどうなんだ?
手抜きとは思われないかな?
俺の作った花のヘアピンを冷静に見てみると花びらが少し歪んでる気がするし、市販品に比べたら質が落ちる。これなら普通に買ったほうがよかったかもしれない。
やっぱりプレゼントは別の物にしようかな。まともなやつを買ったほうが喜びそうな気がする。
せっかく作ったんだから捨てるのも勿体無いし、これは晴子にでもあげようかな。
再びプレゼント品を探そうとして歩き出し――
「あっ……はるくんだ……」
「んなっ!? み、美雪!?」
まさかこんな所で美雪と遭遇するとは思わなかった。
「よ、よう。どうしたんだよこんな所で」
「ちょっと……欲しいものあって……」
なるほど。美雪も買い物でブラついてたわけか。
しかし本当に偶然だな。俺のいる場所は普段通らない道なのにな。
……そうだ。いっそのこと、ここでさっきの自作ヘアピン渡しちゃうか?
こんなタイミングで出会うなんて運命的なものを感じる。これはさっさとプレゼントしてしまえ! という神のお告げかもしれない。
ええい! ここは勇気を出して渡してしまおう。
「美雪、ちょっといいか?」
「……なに?」
「その……なんというかさ……」
「……?」
「こ、これ! プレゼント!」
手のひらに乗せた自作ヘアピンを素早く美雪の前に出した。
美雪はゆっくりと手に取ったあと、それをジーっと見つめている。
「……これは?」
「ヘアピンだよ。美雪に似合うと思ってさ」
「でも……どこで買ったの? こういうの……見たことないけど……」
「あー……そのー……」
やっぱり出来が悪いと思われてるのかな。
そうだよな。他の市販品と比べたら地味だし、微妙な仕上がりだもんな。
しょうがない。ここは正直に話そう。
「それは……なんというか……」
「……?」
「お、俺が作ったやつなんだよ」
「……! はるくんの……手作り……?」
「うん……」
けっこう驚いているな。俺はこういうの作るようなタイプじゃないしな。意外だったんだろう。
「ごめんな。そういうの初めて作ったからさ、いろいろ粗い仕上がりになっちゃったんだよな」
「…………」
「……やっぱそれなしで! 手作りとか嫌だよな? だからちゃんとした物買ってくるよ。だからそれ返して――」
「これがいい」
「えっ?」
「私、これがいい。はるくんが作ったのが欲しい」
あれ、どういうことだ?
なんで俺の作った地味な物を欲しがるんだ?
「で、でも……俺のやつは手作りだぞ? 店で売ってるちゃんとした物のがいいんじゃないか?」
「私は……はるくんの手作りがいいの。ダメ……かな?」
「俺は別にかまわないけど。本当にいいのか?」
「うん。これ……貰うね」
そんなに気に入ったのか?
どう見ても手作り感丸出しの微妙なヘアピンなんだけどなぁ。
「はるくん」
「ん?」
「――ありがとう!」
「お、おう」
美雪は微笑みながらヘアピンを大事そうに握り締めた。
そんな嬉しそうな表情を見ると作った甲斐があったと思えてくる。少し不安だったけどプレゼントしてよかった。本当によかった。
「じゃあ……私は帰るね……」
「あ、うん。またな」
心なしか上機嫌な美雪はそのまま離れていった。姿が見えなくなってから俺も自分の家に帰ることにした。
家に帰って部屋に入ると、俺に気付いた晴子が話しかけてきた。
「お、帰ってきたか。美雪のプレゼントは決まったのか?」
「まぁなんというか……もう渡してきたよ」
「ん? 美雪の家まで行ったのか?」
「いや、途中で偶然出会ったんだよ。だからついでに渡してきた」
「へぇ。タイミング良くてラッキーだったじゃんか」
マジでラッキーだと思う。
本来なら今日店で買って、明日に渡す予定だったんだよな。
「んでさ、何をプレゼントしたんだよ? どうせアクセサリーだと思うけど」
ぐっ……さすが晴子。す、鋭い!
「そんなところだ……」
「ふぅん? で、どうだった? 喜んでたか?」
「あ、うん。嬉しそうにしてたよ」
「だろ? 春日は昔からこういうことしてなかったからな。だから突然のプレゼントに驚いてたと思うぜ」
そこまで読まれてたのか……
「ま、まぁとにかく、これも晴子がアドバイスしてくれたお陰だよ」
「へへっ、いいってことよ」
そんな時、突然玄関チャイムが鳴り響いた。
「お? もしかして美雪か?」
「かもな。ちょっといってくる」
「オレも付いていくよ」
「いや、お前は来なくてもいいだろ」
「だって何をプレゼントしたのか気になるじゃん」
そんなに見たいのか。まぁいいけど。
結局2人で玄関まで迎えにいくことになった。
ドアを開けると、やはりそこには美雪が立っていた。
「よう、どうした? なんか用か?」
「今日……はるくんにプレゼントしてもらったから……そのお礼にと思って」
美雪は小さな袋を両手で持っていた。
どうやらいつものようにおかずを持ってきてくれたようだ。
「気にしなくていいのに。でもいつもありがとな」
「んで、美雪ちゃんは春日から何を貰ったんだ?」
こいつ……いきなり割り込んできやがった。
「頭につけてる……これ」
「ほぉ。ヘアピンだったのか」
というかもう付けてくれてたのか。
俺が作った物を身に付けている姿を見ると嬉しくなるな。
「んー……でもこんなの見たこと無いな」
「そりゃそうだろ。俺が作ったやつだからな」
「ふーん……………………………………は?」
晴子も驚いている。さすがに自作するとは思ってなかったみたいだな。
「春日の……手作り……? マジで……?」
「うん。そんなに意外かよ」
「…………」
そこへ美雪が晴子前まで歩いてきた。
「これはね……『私のために』はるくんが作ってくれたんだよ? 普段……こういうの作ったことのないのに、頑張ってくれたみたい……『私のために』ね。そしてこれは……お店では絶対に買うことの出来ない『世界でたった一つだけ』の贈り物……なんだよ?」
「んなっ!?」
あ、あれー?
この光景、前にも見たことあるぞー? それもつい最近。
「くっ……春日! オレの分は無いのかよ!?」
「はぁ? お前にはもうあげただろうが」
「ち、違っ…………そうじゃなくて……」
どうしたんだよこいつ。いきなり物欲しがるなんて。ヘアピンのがよかったのか?
ったく、欲張りなやつだ。そんなにヘアピンが気に入ったのなら最初に言えばよかったのに。
「ふふん……」
「……っ! ぐぬぬ……」
今度は前と違って美雪は勝ち誇ったような表情になっているのに対し、悔しそうにしている晴子という光景になっている。
「じゃあ……私はもう帰るね……」
「あ、うん。サンキューな」
美雪はゆっくりと背を向け、帰っていった。
ドアを閉めて部屋に戻ろうとした時、晴子がなぜかこっちを睨んでいた。
「な、なぁ……オレにもなんか作ってくれよぉ……」
「だから、前にもリボン付きのやつあげただろうが。つーかいきなりどうした? 美雪にプレゼントしてやれって言ったのは晴子じゃんか」
「だってぇ……まさか手作りにするとは思わなかったし……」
俺も最初は自作するなんて考えてなかったし、さすがに晴子でも予想外なんだろうな。
「それに……春日が作ったやつが欲しいんだよぉ……」
「カンベンしてくれよ。あれ作るの意外と面倒だったんだぞ。さすがにもう一個作る気にはなれないって」
「で、でも……」
同じような物を作るとなると専用の道具を揃える必要があるしな。かといってまた桜さんの所へ行くのも面倒だ。
「ならまた今度似たようなヘアピン買ってきてやるよ。晴子にはそれで十分だろ」
「……もういい! 春日のバカッ! バカ春日!」
「はぁ? なんだよいきなり」
「ふんっだ」
怒った表情をしながら早歩きで立ち去っていった。
なんでぇあいつ。いきなり怒鳴りやがって。
最近のあいつはよくわからん……
結局、今日一日ずっと不機嫌な晴子だった。
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