第52話:プレゼント作製

 俺はいま街中を歩き回っている。なぜかって? それは美雪へのプレゼントを探すためだ。

 これは晴子の提案で、「いつも美雪には世話になっているんだから、何かプレゼントでもしてやれ」と言われたからだ。なのでプレゼントを探すために街中をブラついている。


 とはいったものの、何をプレゼントしたらいいのか思いつかない。美雪には何をあげれば喜ばれるんだろうな。

 ひたすら店を眺めつつ歩き続けているが、未だに何もいいアイディアが思い浮かばない。


 普段使う文房具とかどうだろう?

 ……いや、さすがにショボイな。


 食べ物は?

 ……料理が上手な美雪相手だとハードルが高い気がする。


 バッグとかは?

 ……安すぎると嫌がるかもしれないし、あまり高いやつだと受け取ってくれなさそう。


 う~ん、いざ考えてみるとプレゼントって難しいなぁ。晴子みたいに気軽に話せるやつならすぐ決まるのになー。

 というかどいういう物なら喜んでくれるんだろうか。女の子ってどんな物を貰ったら嬉しいんだろう?

 いっそ家に戻って晴子に聞いてみるか?

 ……いや駄目だな。晴子は元男だったんだからアテにならん。こればかりは女性・・に聞かないと参考にならないだろうな。


 う~ん……あとは……


 …………


 ……そうだ。アクセサリーとかはどうだろう。

 手頃な値段で買えるし、気軽に使えそうだしな。


 思い立ったが吉日、さっそくアクセサリーショップへと向かった。

 店内へと入り、様々なアクセサリーを眺めるが……


「うへぇ……」


 あまりにも数が多く、品揃えに圧倒されてしまった。この中から探すのは骨が折れそうだ。

 予想はしていたけど周りには女性客が多く、なんとなく居心地が悪い。でもここは気にしてはいられない。プレゼントを選ばなければ。


 しかしこうして眺めていると色々な種類があるんだな。値段もピンキリで、千円で買える物もあれば数万円もする物もある。高いやつはさすがに予算的に厳しいので手頃なのがいいな。

 さーてどれにしようかな。


 指輪――は無いな。

 イヤリング――も無しだ。美雪が着けているところを見たことがない。

 ネックレス――は大げさな気がする。


 うーむ。なかなか決まらない。

 一通り見て回ったが結局見つからず、店から出ることにした。


 本当にどうしよう。アクセサリーはいいアイディアだと思ったんだけどな。種類が多すぎて逆に決め辛い。


 何かいい物はないかな……

 プレゼントに適した物はなんだろうな……

 う~ん……


 …………


 歩き続けていると、ふと建物の看板が目に入った。


「ハンドメイド体験教室……?」


 そうだ。手作りのアクセサリーはどうだろう。これならいちいち悩むこともないし、自分で作れるから納得のいく物が出来上がる。さらに低予算で手に入るから一石二鳥だ。

 さっそく看板がある建物の中へと入って行った。


「すいませーん」

「あら、いらっしゃーい」


 中に入ると女の人が出迎えてくれた。30代くらいでなかなか美人さんだ。


「えっと、表の看板を見たんですけど、ここでアクセサリーとか作れるんですか?」

「もちろんよ。自分で作るのってけっこう楽しいわよ?」

「でも俺はこういうの初めてなんですけど……」

「大丈夫よ。誰でも簡単に出来るし、慣れれば30分くらいで出来るわよ?」


 へぇ。そんなに簡単に作れるのか。

 なら俺にでも出来そうかな?


「なら……1つ作ってみたいんですけど」

「歓迎よ! 男の人は珍しいからサービスしちゃうわよ~!」


 あ、やっぱり基本的に女性ばっかりなのね。


「それに、こんなに若い子が興味もってくれるなんて私嬉しいわ!」

「ははは……」


 興味もったというか、偶然思いついただけなんだけどね。でもここは言わないでおこう。


「そういえば名前聞いてなかったわね。私は桜っていうのよ。あなたは?」

「俺は出久保って言います」

「出久保ちゃんね。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」


 そのまま奥へと案内され、作業場っぽい部屋へと移動した。意外と本格的な感じで、見たこともないような機器がいくつかあった。

 壁には様々なアクセサリーが展示していて、どれも店では見かけないような模様をしている。


「出久保ちゃんはどういうのを作りたいの?」

「んーと、実はプレゼント用に作ってみたいんですけど……」

「まぁ! もしかして彼女にプレゼントする気かしら!?」

「……そんな感じです」

「やっぱり! 若いっていいわね~」


 ちょっぴり見栄を張ってみたけど……これくらいならいいよな?

 もしかしたらマジで彼女になってくれるかもしれないし!


「じゃあどういうタイプを作ってみる? キーホルダー? 腕輪? ヘアピン?」

「えっと……」


 まだ決めてなかったんだよな。どういうのがいいんだろう?


 キーホルダー……前にあげたからダブっちゃうな。

 腕輪……美雪のサイズ知らないや。

 ヘアピン……はいいかも。

 うん。ヘアピンにしよう。決まりだ!


「ならヘアピンでお願いします」

「わかったわ。じゃあちょっと待っててね」


 桜さんは部屋のあちこちから道具を取り出し、机の上に並べていった。


「こんなのとかどうかしら?」


 見せてくれたのは、透明な琥珀こはくのような物に花が閉じ込められているキーホルダーだ。水晶みたいでなかなかオシャレだ。


「これはレジンっていう透明な樹脂で作っているのよ。やり方も簡単で初めてでもすぐ出来ると思うんだけど、どうかしら?」

「あ、これいいかも」

「でしょ? じゃあさっそく準備するわね」


 椅子に座ると、机の上に次々と道具が置かれていった。


「まずはシリコン型選びからね。どれにする?」

「型? それは何ですか?」

「この型にレジン液を流し込むのよ。それに色々な物を入れてから硬化させれば完成よ」


 へぇ~。ああいうのはどうやって物を閉じ込めるのか気になってたけど、レジン液とやらの中に入れて硬化させてたのか。

 ちょっと面白いかも。


「なら、この丸い型で」

「じゃあ作る前に……手袋とマスクつけてね」

「へ? つけなきゃダメなんです?」

「レジン液って皮膚についちゃうと痒くなったりしちゃうのよ」

「なるほど……」


 渡されたビニール手袋とマスクを装着。これで準備完了だ。

 なんか職人って気分になってきた。


「それから中にはどんな物を入れる? オススメはこのドライフラワーなんだけど」


 ほほう、花か。いいじゃないか。


「ならこの花を使います」


 選んだのは花びらがピンク色のドライフラワーだ。親指くらいの小さいサイズで見た目もかわいい。


「さっそく作ってみましょう。これがレジン液よ。まずは花につけて硬化させるのよ」


 レジン液の入った容器を手渡され、ピンセットで持った花の上に少しだけ垂らした。なんか水あめみたいな液体だな。


「つけるのはほんの少しだけでいいからね? あとは爪楊枝つまようじで伸ばして全体に塗っていく感じね」

「は、はい」


 爪楊枝でレジン液を薄く伸ばしていく。

 ……よし、こんなもんだろ。


「じゃあさっそく硬化するわね」


 桜さんが取り出したのは小さな箱型の機器だ。横から物が入れられそうな空洞がある。


「これはUVライトといって、この紫外線を当てるとレジン液が固まるのよ」

「へぇー。なんか面白いですね」

「でしょでしょ?」


 理科の実験みたいでちょっと楽しいかも。


 さっき作った花をUVライトの中に入れてスイッチを入れる。すると青い光が照射された。

 20秒ほど照射し続けて取り出した。


「こんなに早く固まるんですね」

「まだ下準備だからね~。完全に硬化させるのは最後にやるのよ」

「なるほど~」


 次にシリコン型にレジン液を慎重に流し込む。その中に今作った花を入れ、沈めていく。


「あっ、少し気泡きほうが混じっちゃったわね。見た目が悪くなるから爪楊枝で取り除きましょう」


 よく見ると、すごく小さな気泡が混じっている。まさかこれを手作業で取り除くのか?

 爪楊枝で気泡をすくって取り除こうとするが……


「くっ……」

「大丈夫?」

「な、なんとか……」


 まさかこんな細かい作業をするとは思わなかった。正直俺はそこまで器用ってわけじゃないからな。

 気泡は1ミリも満たないぐらい小さく、これを手作業で取り除くのは予想上に神経を使う。


「よ、よし。これでいいですか?」

「……うん。これなら大丈夫ね。その上からまたレジン液を足していくのよ。型からはみ出さないように注意してね?」

「分かりました」


 言われた通りにレジン液を足していく。この状態から再びUVライトを当てて仮どめをするみたいだ。


「あとはヘアピンをつけて完成ね。レジン液を少しつけてから乗せて硬化させるのよ。接着剤代わりにする感じね」

「……こ、こうですか?」

「うん。あとは手で固定しながらUVライトを当てていくわね」


 ヘアピンを型の上に乗せて手で固定し、その上からUVライトを照射する。

 すると――


「おお、ヘアピンの先端に俺の作ったやつがくっ付いた」

「あとは全体に万遍なくUVライトを当てて完成よ!」


 ヘアピンを動かしながら全体的に照射し、完全に硬化させていく。


「で、できた!」

「ね? 簡単でしょ?」

「は、はい」


 まさかこんなあっさり作れるとは思わなかった。桜さんの教え方がうまかったのもあり、30分もかからずに完成してしまった。

 ヘアピンの先端には透明な樹脂の中に花が入っていて、なかなか見た目も悪くないと思う。


「ありがとうございます。これでプレゼントすることができます」

「出久保ちゃんが作った物だもの。きっと彼女さんも喜ぶと思うわ」

「そ、そうでしょうか?」

「間違いなく喜ぶわよ!」


 これなら美雪は喜んでくれるかな……?

 よし、あとは袋に入れて渡すだけだ。


 桜さんに再びお礼を言い、建物から出ることにした。

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