第51話:赤いリボン

 学校も終わり、下校途中のことだった。

 寄り道せず真っ直ぐ家に帰るつもりだったんだけど、途中にある店でセールをやってるのを発見して足が止まってしまう。どうやらワゴンセールをしているみたいで、店の外に大きな入れ物を設置していて乱雑に商品が置かれている。

 何となく気になって覗いてみると、そこにはアクセサリーなどが置いてあった。


「ふーむ……」


 しかしどれも女性用といった感じだ。さすがに男には似合わない。


 ……いや、待てよ?

 もしかしたら晴子なら似合うかもしれない。どれもお手頃価格になってるし、1つ買ってみようかな。


 ワゴンの中から良さそうなのを選び、買ってみることにした。




 帰宅後、買ったやつを入れた袋を晴子に渡した。


「それ晴子にやるよ。さっき買ってきたんだよ」

「ん? 何だよこれ」

「いいから開けてみな」


 晴子は袋を開けて中身を手に取り、それを見つめている。


「これは……?」

「晴子に似合うと思ったんだよ。どうだ?」


 帰り道に買った物、それは赤いリボンの付いた髪留めだ。

 晴子はこういうのを身に着けてないからな。だから似合うかもしれないと思ったんだ。

 どうせ安物だし、気に入らなようなら捨てればいい。つまりただの気まぐれだ。


「…………」

「気に入らないなら別に捨てても構わないぞ」

「…………」

「おい? 晴子?」


 髪留めをジーっと見つめたままだ。

 やはりリボン付きはダメだったかな。さすがに子供っぽいか。


「こ、これ……本当に貰っていいのか?」

「えっ? あ、ああ。いいけど……」


 あれ? なんか思ってた反応と違う。


「あ、ありがとう! 大切にするよ!」

「お、おう」

「さっそく付けていいか!?」

「い、いいけど……」


 なんかやたら嬉しそうだな。そんなに気に入ったのか?

 てっきり子供っぽくて嫌がると思ったんだけど……


「ど、どうだ?」


 晴子を見ると、ポニーテールの根元部分に赤いリボンがついていた。


「…………」

「な、何か言えよ……」

「えっと……に、似合ってるぞ」

「そ、そうか!? へへっ」


 思わず見惚れてしまった。

 やばい。予想以上に似合ってる。けっこう可愛いじゃないか。

 もっと子供っぽい印象になるかと思ったけど、晴子ぐらい美人だと見事にマッチしている。これはこれで有りだ。

 どうやら気に入ったらしく、嬉しそうに鏡で眺めている。


 と、そこへ玄関チャイムが鳴り響いた。


「ん? 誰だ?」

「俺が見てくるよ」


 すぐに玄関まで移動し、ドアを開けた。

 そこに居たのは――


「美雪じゃないか。どうしたんだ?」

「これ……作ってきたの……」


 手に持っていたのは、タッバがいくつか入った袋だった。どうやらおかずを持ってきてくれたらしい。


「ああそうか。いつもサンキューな」

「今日ね、はるちゃんに教わった煮付けを……試しに作ってみたの。だから……後で感想聞かせてほしいな……」

「分かった。食い終わったらメールするよ」

「うん……」

「お、美雪ちゃんだったか」


 いつの間にか晴子が後ろに居た。


「はるちゃんのそれ……どうしたの……?」

「それ? どれのこと?」


 美雪は晴子の頭らへんを指差している。

 もしかしてさっきあげたリボンのことか?


「ああ。これか。これはな……」


 途中でいきなり黙りだす晴子。どうやら考え事をしているらしい。

 が、すぐにニンマリと笑いを浮かべた。


「これはな、春日が『オレのために』わざわざプレゼントしてくれたんだよ。オレに似合うようなヘアアクセサリーを悩みに悩んで選んでくれたんだぜ。しかも高かったのに小遣いをつぎ込んで買ったらしいぞ。『オレのために』な!」


 なんだこいつ。変なところでやたら強調してやがる。こういうところは意味分からねーんだよな。

 つーか別にそこまで悩んで選んだわけじゃないし、全然高くないっての。


「……ずるい」

「み、美雪!? なに言ってんだ!?」


 ……なんだなんだ。いきなりどうしたんだこの二人は。


「ふふん」

「……!!」


 晴子はなぜか勝ち誇ったような表情をしているし、美雪は羨ましそうに睨んでいる。

 双方の間には火花が散っているようにも見えるのは気のせいか?


 このままだとヤバい気がする。ここはさっさと切り上げよう。

 やはりこの二人は合わせないほうがいいかもしれない。


「と、とにかく。今日はありがとな美雪! それじゃ!」

「あっ――」


 すぐにドアを閉め、それから晴子に振り向く。


「おい! どういうことだよ今のは!? 何でそんな髪留めごときで熱くなってるんだよ!?」

「…………」

「晴子?」


 なぜか呆れたような顔つきで俺を睨んでいる。


「『オレ』ってこういうやつだったんだな……」

「意味が分からんぞ。何が言いたいんだ?」

「はぁ……」

「おい! 答えろよ!」


 結局、何度聞いても答えてくれなかった。

 その後、鏡の前でやたら嬉しそうにしていた晴子だった。

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