第46話:意外な一面

 学校も終わり今は下校途中。

 今日は家に向かわず寄り道をしてから帰ろうかと思う。特に買いたい物があるわけじゃないけど、何となく寄り道をしたい気分だ。

 しばらく歩き続け、様々な店を眺めつつ風景を楽しんでいた。偶にはこういうのも悪くない。


 ……あれ?

 あの後姿は……


「晴子?」


 長いポニーテールをしていて俺の服を着ている。間違いない。あの後ろ姿は晴子だ。

 あいつも外出中だったのか。偶然にも出くわしたみたいた。

 どうせなら合流するか。そう思い、近づこうとしたが……思い留まる。


 そういや俺が居ない間はあいつは何してるんだろう。気になるな。

 もしかしてこれは晴子の行動を知るチャンスでは?

 ……面白そうだ。しばらく観察してみるか!

 さっそく晴子に近づき、少し離れた所から尾行することにした。


 そのまま後をつけていると、晴子はある店の前で止まった。俺もバレないように急いで物陰に隠れる。

 晴子が眺めていた店はどうやら花屋のようだ。店の前には様々な花が並んでいる。

 なんであんな所で止まったんだろう。花なんて興味ないはずなのにな。


 晴子はしばらく色々な花を眺め続けていた。何やら考え事をしているみたいだ。

 しかし、いい考えが思いつかなかったのか再び歩きだした。




 次に訪れたのは洋服店だ。けれどもその店は女性服を中心に扱っている婦人服店みたいだ。その証拠に店内には女性用の服ばかりが展示してある。

 ……まさかアレを買うつもりなのか?

 そういや前にもあんな感じの服を着ていたな。もしかしてここで買っているのだろうか。

 そもそもなんで女性用の服を着るようになったんだろうか。俺はあんなの絶対に着ない。着たいとも思わない。それは晴子も同じはずなんだけどな。

 う~ん……分からん……


 あっ。また歩き始めた。どうやら見るだけで買う気は無かったみたいだ。

 とりあえず後を追ってみよう。




 あれから様々の店の前で止まってジーっと眺めてはいたが、結局何も買わずに歩き続けている。

 あいつは何がしたいんだ。もしかして最初から買うつもりは無いのか?

 これはウィンドウショッピングというやつだろうか。晴子が何を考えているのかさっぱり分からん。


 次に止まったのはおもちゃ屋のようだ。また何もせずに立ち去るつもりか?

 ……と思ったけど今度は違ったらしく、店の中へと入っていった。俺も後に続いて店内へと入ることにした。


 えーっと、晴子はどこだ……?

 見つからないように探すのは案外しんどいな。どこ行ったんだあいつは。


 ……お。居た居た。

 晴子はぬいぐるみコーナーの前で立ち止まっていた。今度は何をするつもりだ……?

 しばらく様子を見ていると、中型サイズのクマのぬいぐるみを抱き上げた。そしてそれをギュっと抱きしめたのだ。


「ほふ……いいなぁこれ……」


 ……えっ? なに言ってんだあいつは? そんなにいいのか?


「ふかふかだし……買ってみようかな……?」


 幸せそうな笑顔だ。

 俺にはぬいぐるみを欲しがる趣味は無いはずなんだけどな。買いたいとも思わない。タダでも要らない。あんなサイズだと置く場所に困るだろうしな。

 最近の晴子は本当に分からんな。女になってから趣味も変わったんだろうか。


「……そうだ!」


 何か思いついたらしく、ぬいぐるみを置いてからすぐに移動し始めた。おっと見つからないようにしないとな。

 そのまま店から出ていってしまったので、急いで後を追うことにした。




 次に訪れたのはペットショップだ。ぬいぐるみじゃなくて実際に触れてみたいと思ったのかな?

 晴子はとあるショーケースの前で立ち止まった。そのショーケース中には猫がいるみたいだ。

 中にいる猫はおもちゃで戯れていて、見ているだけで癒されそうだ。なかなか可愛いじゃないか。


「……可愛いにゃ~」


 ……んん?

 今の声……まさか晴子が……?

 いや気のせいか……?


「今日も来てやったぞ~。オレのこと覚えてるかー? いつ見てもお前は可愛いなぁ~」


 …………いろいろとツッコミどころがあるが、まさか以前にもここを訪れたことがあるとはな。

 もしかして定期的に来てるんだろうか。


「おっとっと、そんなに動き回るとぶつかるぞぉ~?」


 猫相手に心配してやがる……


「はぁ~モフモフしてみたいにゃ~。一回抱きしめてもいいかにゃ? ダメかにゃ~?」


 な、何を言ってるんだあいつは……!?


「モフモフさせてほしいにゃ~。にゃにゃにゃ? にゃん! にゃん! にゃ~にゃ~? にゃにゃにゃんにゃん♪」


 …………


 …………やっぱりまだ男性恐怖症の後遺症があるかもしれない。無理にでも病院に連れてっていったほうがいいのかなぁ……

 さすがに心配になってきた。ここまでくると俺の手には負えんぞ。どうしようかな……

 う~ん、でも普段は何ともないみたいだし。やっぱり様子を見るしか――


「猫飼いたいなぁ……」


 ポツリと晴子の声が聞こえた。

 猫かぁ。俺も猫は好きだし、飼えるなら飼ってもいいと思う。

 けど駄目だ。なぜなら家に居る時間が少ないからな。学校行ってる間は誰も居ないし、そんな状況で飼うのは難しいだろう。

 ……いや待て。そうだ、今は晴子が居るじゃないか。俺が居ない時は晴子が世話すればいいんじゃないか?

 これなら何とかなるか……?


 少し考えたが……やっぱり駄目だ。ペットとか飼った経験もないし、世話の仕方も知らない。さすがに安易に飼うべきじゃないと思う。そこまで責任を負いきれない。

 それに親父がなんて言うか分からんからな。そう考えるといろいろと厳しい。

 現状だとペットを飼うのは無理だ。


「はぁ……」


 晴子も同じ結論に辿り着いたらしく、元気無さそうにため息をついている。


 もしかしてあいつは寂しいのか? 

 そういや俺が居ない間、晴子は1人っきりだもんな。だから猫飼いたいとか思ったのか?

 けどこればかりは仕方ない。俺は学校に行かなきゃならないしな。

 何とかしてやりたいとは思うけど……何も思いつかない。


「じゃあまたな……」


 そして晴子は店から出て行った。


 その後も尾行を続け、今度はどこへいくのかと思ったが次の目的地はスーパーだった。どうやらここで買物をしてから帰るみたいだ。

 ならば俺は先に帰ることにしよう。今出会ったら尾行してたのがバレるかもしれないからな。


 しかし今日はなんというか、晴子の意外な一面が見れたな。意外すぎる場面もあったけど……

 まさか1人で居る時は寂しい思いをしてたとはな。普段の態度からはそんな雰囲気は出てなかったし、さすがに気付かなかった。

 そういや最近は晴子の相手をしてなかった気がする。家のいる時は大体一緒だし、だから晴子のことはつい後回しにしちゃうんだよな。


 ふーむ…………

 よし、後で晴子が帰ってきたら構ってやるか。


 晴子がスーパーに入るのを確認した後、家に向かって歩き出した。

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