第47話:考察

「どっぺるげんがー?」

「うん。昨日テレビでなかなか面白い特集があってさ、その中でドッペルゲンガーについて検証してたんだ」


 学校での休み時間中に三人で雑談していたら、天王寺が面白そうな話題をふってきた。


「ドッペルゲンガーって自分が二人存在する……っていうやつだっけか」

「そうそう。ドッペルゲンガーには様々な説があってね、それがまた興味深い内容だったんだよね」

「ふ~ん?」


 ドッペルゲンガーねぇ……


「一番可能性として高かったのは、幻覚という説だね。これが最も現実的だといわれている」

「そりゃそうだろ。あまりにも非科学的だもんな」

「それがそうでもないのさ」

「は? なんでだよ。どう考えても幻覚で決まりだろ」

「実際に遭遇した人からの報告例には、幻覚では説明つかない事例もあるってことさ」


 俺も正直信じてない……と言いたいところだけど、似たような現象を体験しているからな。しかも現在進行形で。


「例えば?」

「ドッペルゲンガーの存在を自分以外が目撃してる事例もあるんだよ」

「ほほう」

「だからが一概に幻覚だと言い切れないんだよ」


 これは当たってるかもな。晴子は間違いなく俺以外でも認識できてるし。

 まぁ晴子がドッペルゲンガーだと決まったわけじゃないんだけどな。


「他には未来の自分という説もあるね」

「仮にそうだとしても、どうやって過去に来たんだよ?」

「やっぱりタイムマシンとか?」

「おれがタイムマシンを手に入れたら真っ先に宝くじ買いに行くけどな!」


 なんというか千葉らしいというか……


「あっ! そうだよ! ドッペルゲンガーは未来人だとしたら宝くじ買いに来たんじゃねーの!? そこを偶然目撃した……ってのはどうだ?」

「そんなアホなことしに過去に戻るかっての」

「やっぱだめか」


 でもちょっぴり気持ちは分かる。気軽に過去に戻れるならそういうことしてみたい。


「んで話は戻るけど、あとは幽霊説ってのもあるね。これは幽体離脱した自分の姿というのが元になってるみたい」

「んー、幽霊はまずありえないと思うぞ」

「ほう。出久保はやけに自信たっぷりじゃないか」

「だって他人にも姿を認識できてるし、触れられるわけだけだしな」

「いやいや、なんだよその実際に体験したみたいな言い方は……」

「あっ……その……まぁ……か、仮に実在したらの話だよ!」


 やばいやばい。

 ついうっかり俺の中で『晴子=ドッペルゲンガー』と決め付けてしまった。


「そうだ。この話題で思い出したんだけどよ、ドッペルゲンガーを見た人は死ぬってあるじゃん? あれはどうなんだよ」

「それも色々な憶測があるんだよ。何らかの病気のせいで幻覚を見たとか、魂を二つに分けたから寿命が縮まった……とかね」

「なるほどなぁ」


 魂を二つに分けた……?

 それは思いつかなかったな。なかなか面白いこと言うじゃないか。つまり晴子は俺の魂が分離して現れた……ということか?

 でもこれが本当だとすると、寿命まで分離して半分持ってかれたということになる。


 …………やめやめ。これは無し。考えたくない。というか信じたくない。

 そもそも魂の定義がなんなのかすら曖昧あいまいだ。まともに考えるだけ無駄だな。


「あと漫画とかだとさ、もう1人の自分を殺して存在を乗っ取る……っていう話もあったな」

「中にはそういう展開の物語もあるね。あの小説家で有名な『芥川龍之介』が最後に書いた小説の題材も『もう1人の自分』だったらしいよ。内容もドッペルゲンガーに悩むストーリーだったみたい。でもそれは実体験を元にしたという噂も……」

「へぇ~」


 もう1人の自分を殺して乗っ取るねぇ……

 晴子の場合はありえないな。姿が違うから俺の代わりにはなれないし、そもそも性別からして違う。だからオリジナルを名乗ることは不可能だ。というかそんなことするメリットがないし、俺ならまずやらない。


「でもさ、もし自分と全く同じやつが現れたら面白そうじゃね?」

「う~ん……そうかなぁ? ややこしいことになりそうな気がするけど」

「だってよ、そいつに宿題とか面倒事を押し付けちゃうことも出来るんだぜ? 色々便利じゃねーか」


 …………あれ?

 俺ってもしかして千葉と同レベルのことしてた?


「ん? 出久保どうした? いきなり頭抱えたりして」

「い、いや。気にするな……」

「変なやつ」


 晴子が現れてから家事や宿題を全部やってもらってるんだよな。確かに便利だし、お陰で大助かりだ。

 ふーむ……そうだ。帰りに晴子用に甘いものでも買っていくか。ちょっとした感謝の気持ちだ。

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