第38話:柔らかい感触

 今日も無事に学校も終わり、気分よく帰宅した。

 そして部屋でのんびりしようとした時、晴子が話しかけてきた。


「やけに嬉しそうだな。なんかあったのか?」

「まぁな。ちょっといいことがあってな」

「ふ~ん?」


 美雪が明日も弁当を持ってきてくれるんだ。これで浮かれない人はいないだろう。

 なんでそこまでやる気になったのかは不明だけど……まぁいい。とにかく明日も美味しい弁当が食えることには変わりないんだ。


 さてどうしようかな。明日の弁当は作る必要が無くなったから準備しなくていいし、家事は晴子が全部やってくれただろうし。ふーむ。

 とりあえずゲームでも進めるか。そう思い、座ってからスイッチを入れた。

 しばらくしてから晴子がすぐ隣に座り始めた。けれども特に気にせずに画面に集中する。


「なぁなぁ。何があったんだよ。教えろよ」

「ん? なんでもねーよ」

「ケチくせぇこと言うなよ。教えてくれよ」

「だからなんでもないっての」


 弁当の件は秘密にしたいわけじゃないけど、何となく言いたくなかった。知ったらこいつはネタにしてくるだろうしな。

 そして再び画面に集中しようとした時だった、晴子が耳元まで顔を近づけて――


「……フゥ~」

「うひゃあ!」

「あっはっは! 何だよその声は!」

「お前がいきなり息を吹きかけるからだろうが!!」


 なんだよこいつは。突然ガキみたいなことしやがって……


「さっさと白状しろって。何があったんだよ?」


 決めた。絶対喋るもんか。

 そっちがそんな態度がくるならこっちも維持でも教えてやらん。


「教えねーよ」

「んだよ。秘密にすることはないだろ」

「別にいいだろ。大したことじゃないんだし」

「だったらいいじゃねーか」

「やだ」


 ふはは。精々悔しがるといい。いつも調子に乗ってる罰だ。


「そこまで秘密にされると余計に気になるじゃねーか」

「だったら忘れろ」

「頼むよ~。ヒントだけでもいいからさ~」

「ダメ」


 しかしまぁこいつもしつこいな。そこまで知りたがることはないだろうに。

 とりあえず無視してゲーム進めよう。


「ほれほれ。さっさと喋っちまいなよ」

「…………」

「お~い?」

「…………」


 こうして無視してれば諦めるだろう。俺ならそうする。

 しかし、晴子は突然立ち上がり、どこへ行くのかと思ったら俺の真後ろに座ったようだ。

 無視無視……


「…………こちょこちょ」

「あっひゃひゃひゃ! ってなにすんだ!」

「お前が無視するからだろー」


 この野郎……本当にガキみたいなことしやがって……!


「いい加減教えろよー。気になるじゃねーか」

「何回聞かれても言わねーよ」

「ガンコだなー春日は。オレってこんな性格だったか?」


 それはこっちのセリフだ。


「ほらほら。諦めて話せって」

「だぁぁぁ! しつこい! つーか引っ付こうとすんな!」

「いいじゃんかよーほれほれー」

「この野郎、いい加減に――」


 むにゅん


「お?」

「あ」


 体を密着させてきたので引き剥がそうとした瞬間、偶然おっぱいを触ってしまったのだ。

 一瞬手のひらに柔らかい感触が伝わり、気付いてすぐ離した。


「その……わ、悪い」

「……ふ~ん?」


 そしてニヤニヤする晴子。

 嫌な予感……


「なんだよ、晴子が悪いんだぞ」

「そっかそっかぁ……」

「……?」


 なんだよこいつ。ニヤニヤしながら一人で納得したような表情しやがって。


「もっと触りたいか?」

「……は?」

「オレの胸だよ」

「!?」


 いきなりなに言ってるんだこいつ……


「な、なにを突然――」

「そうだよなぁ。男なら触ってみたいもんなぁ?」

「べ、別にそんなことは――」

「嘘付け。できるならもっと揉んでみたいと思ってるくせに」


 くそっ。やはり全部お見通しか。さすが元男なだけある。


「か、仮にそうだとしても晴子はいいのかよ!? 相手は男……というか俺なんだぞ!?」

「別にかまわねーよ。減るもんでもないし」

「なっ……」


 そんな馬鹿な……

 もし俺が女になったとしたら、男に胸を触れるのは嫌がると思うはずだ。それなのになんで受け入れられるんだこいつは。


「なーに動揺してるんだよ。前に揉んだ事あるくせに」

「い、いやあの時は……」

「それで。どうする?」


 こいつの言う通り、確かにあのサイズのおっぱいは思いっきり揉んでみたいとは思う。これは男なら誰もが思うはずだ。


 もしかして今はチャンスなのか?

 本当に触ってもいいのか?

 この機会を逃したら――


「というかオレ以外で女の胸を触る機会なんて一生無いだろ。お前モテないもんな」

「やかましい!」


 ちくしょう。薄々思っていたことを……


「それにこんなこと美雪にだって出来ないしな」

「た、確かに……」


 美雪のおっぱいはどう見ても掴めるほど無いしな。こんなこと本人には口が裂けても言えないけど。


「ほら。どうするよ。今なら両手で触ってもいいんだぜ?」


 すごく魅力的なことを言いやがる。俺がやってみたいことは全て把握しているだけある。

 だからこそ……俺だからこそ、そんな大胆なことが許されるのかもしれない。

 だけど――


「いや。止めとく」

「……へぇ?」


 あえて断ることにした。

 つーか本当に触ったりしたら、後でなに言われるか分からんからな。絶対そのネタで弄ってくるに違いない。

 それにずっとニヤニヤしているこいつの表情が気に入らない。


「いいのか? オレは別にかまわないんだぜ?」

「だからしないっての」

「ふ~ん?」


 俺が本気で断ったのを察したのか、つまらなそうな表情になった。

 ふふん。いつまでも思惑おもわく通りにいくと思うなよ!


 その後は諦めたらしく、話題にすることは無かった。


 …………


 ちょっともったいないことしたかな……?

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