第37話:おいしい弁当

 次の日。少し緊張しながら登校した。

 昨日の美雪はやけに不機嫌だったからな。もしかしたら今日も不機嫌なままなのかもしれない。


 昔のことだが、口を滑らせて貧乳だと言ってしまったことがある。その時は三日くらい口を聞いてくれなかった。美雪は小学生と間違われるほど小さいためか、胸も小学生並なのだ。

 なので今回もその時と同じように、数日間ダンマリになる可能性があった。


 教室のドアを開けて中へと入る。やはり美雪は先に来ていて、既に席に座っている。

 ゆっくりと近づいて俺も自分の席に座る。

 そして隣にいる美雪に向けてあいさつをした。


「お、おはよう!」

「……おはよ」


 おお。返事してくれた。昔みたいに無視されるということは無さそうだ。

 とりあえずそこまで怒っていないようだし、まずは一安心かな。




 昼休みになり鞄から弁当を取り出そうとした時、美雪から話しかけてきた。


「はる君」

「ん? どうした美雪」

「あのね、一緒に……お弁当食べない?」

「別にいいけど、どうしたの?」

「その……はる君に……お弁当作ってきたから……」


 なん……だと……


「マジ?」

「だから、一緒に食べようと思って……ダメ?」

「そんなわけない! ちょうど一緒に食べたいと思ってたところなんだよ!」


 即決である。

 だって美雪が作ってくれた弁当を食えるんだぞ。こんなの断る理由が無いじゃないか。


「よかった……」

「んじゃこっちくるか?」

「うん」


 そして俺の机で一緒に弁当を広げた。


「はい、これ」

「ほほう! 美味そうじゃんか!」


 俺のために持ってきた弁当は、実に食欲をそそるラインナップだった。食べきれるように量も控え目なんだろう。

 さすが美雪。俺の好みをよくわかってる。本当にありがたい。

 しかしここで疑問が湧く。


「だけどなんで俺のために持ってきたんだ?」


 以前にも美雪は、俺の分も弁当を作ろうかと提案してきたことがあるが、その時は断ったはずだ。なぜならあまり負担をかけたくなかったからだ。

 だからこそ、どうして突然こんなことしてきたのか分からなかった。


「…………」

「美雪?」

「昨日……変なこと言っちゃったから……」


 ああ。昨日のアレか。

 でもそれと弁当がどう関係あるんだろう?


「その……ごめんね……」

「へ? な、なんで美雪が謝るんだよ?」

「だから……はる君を怒らせちゃったと思って……それで……」


 ……なんとなく分かった。そういうことか。

 昨日はあの後、恐らく一人で自己嫌悪を感じたんだろう。それでお詫びも兼ねて弁当を作ってきた……というわけか。

 本当に美雪は優しいな。そこまでする必要ないのに。


「いやいや! 別に美雪は謝る必要ないって! 俺も気にしてないから!」

「でも……」

「ほら。さっさと食おうぜ! 早くしないと冷めちゃうだろ! ってもう冷めてるか。あっはっは!」

「…………」

「あはは……」


 気まずい……

 そんな時だ。グゥ~っと可愛い音が聞こえてきた。音の発信源は美雪のお腹あたりからだ。

 まだお互い一口も食べてないしな。そんな状態で目の前に食事が出されたんだ。腹が鳴るのも無理ない。


「…………」

「な? 早く食おうぜ」

「う、うん……」


 美雪は顔を赤くしながら箸を動かし始めた。まるで今のをごまかすかのように素早く箸を動かしている。そんな姿に和みつつ俺も弁当を頂くことにした。


 そして完食し、一息ついた。


「あー美味かった。サンキューな美雪」

「うん……」


 やはりいつ食べても美雪の作った料理は美味しい。毎日でも食べたいぐらいだ。

 しばらくのんびりしているとスマホが震えた。確認するとメールが来たようだ。


「なんだ。晴子からか」

「はるちゃんから?」

「うん。帰りに買物してこいってさ」

「ふ~ん……」


 メールには食材がいくつか書いてあった。これらを買ってきてほしいとのことだ。どうやら今日は晴子が夕飯を作ってくれるのだろう。


「ん~。なに作るつもりなんだろうな……」

「……どうしたの?」

「いやさ。晴子がどんな夕飯を作るのか気になってさ」

「……はるちゃんも作れるの?」

「ああ。言ってなかったっけ? あいつの料理もすげー美味いんだぜ」

「…………」


 美雪の料理も美味しいが、晴子の作る料理もかなり美味しいのだ。どちらも甲乙つけがたい。

 例えるならば、美雪は一流のシェフで、晴子はお袋の味といったところか。


「はるちゃんのは……そんなに美味しいの?」

「まぁな。どこで覚えたかは知らんけど、正直毎日でも食べたいぐらい美味しいぜ」

「…………」

「美雪も今度食べてみるか? マジで美味しいぞ。きっと気に入ると思う」

「…………」

「美雪?」


 なぜかこっちを睨むように見つめてくる。ちょっと怖い……


「おーい、急に黙ってどうし――」

「明日も弁当作ってくるね」

「えっ? 別にいいよ。さすがに負担になると思うし――」

「作ってくるね」

「いや、だからそこまでしなくても――」

「作る」

「あのー。み、美雪さん?」

「作る」

「……はい、お願いします……」


 どうしたんだよ美雪のやつ。急にやる気なんか出しちゃって。今までそんなこと無かったのに。

 まぁいいや。なんか断りづらいし。本人がそう言うのなら明日も作ってきてもらおう。美味しい弁当が食べれることには変わりないしな。


 その日の美雪は何かを決意したかのような表情をしていた。

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