第36話:口は災いの元

 朝いつも通りに登校し、教室のドアを開ける。やはりというか美雪は既に登校していて席に座っていた。

 そして俺も自分の席に座った。


「……おはよ」

「おう。おはよう」


 隣から美雪に話しかけられちょっぴりテンションが上がる。

 なんとなく美雪の鞄を見てみると、小さなペンギンのキーホルダーが付けられていた。あれは俺がプレゼントしたやつだ。

 そっか。さっそく付けてくれていたのか。嬉しいな。


 デート以降、美雪とは距離が縮まった気がする。

 告白こそ逃したがまだチャンスはある。慌てる必要は無いだろう。ゆっくりと機会を待つんだ。そして次こそは成功させてみせる。

 そんなことを考えてるとチャイムが鳴り教師が入ってきた。

 今日は良い一日になりそうだ。




 休み時間になり千葉、天王寺と一緒にいつものようにバカ話で盛り上がっていた。


「そういやさ晴子ちゃんのサイズってどれぐらいあると思う?」


 千葉が唐突にアホなことを聞いてきた。まぁ気持ちは分かるけどさ……


「う~ん。僕はCカップぐらいだと思うな」

「いや、おれはDだと思うぜ。何度か確認したからな」


 意外に鋭いなこいつ。


「そうかな? もう少し小さい気がするけどなぁ」

「制服の上からだと分かりづらいかもしれないけど、あの膨らみ方はDで間違いない!」

「自信たっぷりだね……」

「そりゃそうさ! いつも間近で見ていたからな!」


 そういや千葉はやたら晴子の胸元ばかり見ていた気がする。


「出久保は晴子ちゃんのサイズは知らねーの?」

「知ってるよ。千葉の言う通りDで合ってるよ」

「それみろ! 聞いたか天王寺! 予想通りDだっただろ? やっぱりおれの目測は――えっ?」

「へー。すごいじゃん本当に合ってた――ってええ!?」

「ん?」


 なんだこいつら。ビックリした表情で俺のこと見つめてきてどうしたんだ?


「お、おい出久保。なんで知ってるんだ……?」

「なんでって……本人に聞いたからに決まってるだろ」

「ほ、本人から聞いたぁー!?」

「えええー!?」


 驚きすぎだろ。いくらなんでもリアクションが過剰すぎる。大げさだな。


「………………お」

「お?」

「お前はいつから晴子ちゃんとそんな仲になったんだよぉぉぉー!?」

「は?」


 意味分からん。いきなり叫ぶことないだろうに。


「くそぉ! そうだよなー! お前は晴子ちゃんと一緒に暮らしてるもんな!」

「確かにそうだけど……だからなんだよ……」

「一つ屋根の下で一緒に居たら、ブラのサイズぐらい教えるほど親密になっちゃうよなぁ!?」

「………………」


 あれ。俺もしかして変なこと言っちゃったかな……?


 …………


 冷静に考えてみたらすっげーやばいこと口走った気がする。

 晴子の正体を知ってるのは俺だけだもんな。他人から見たら普通の女の子だしな。さっきの発言はさすがにやばかった。

 いかんな。晴子とは男友達のように接してるせいかどうも感覚が麻痺してるな。今後は気をつけよう。


「おい! 聞いてるのか出久保!? 晴子ちゃんとはどこまでいったんだよ!?」

「そうだよ! 詳しく聞かせてよ!」

「落ち着けお前ら! 晴子とはそんな仲じゃ――」

「も、もしかして裸姿も見たことあるのか!?」

「な、なんだってー!?」


 初めて晴子と遭遇した時に少しだけ見たことはある。だけど今正直に話したら余計ややこしくなるから黙っておこう。


「べ、別に見たことねーよ……」

「…………嘘つけぇ! 白状しやがれ!」

「目を見て話してよ!」


 なぜバレた!?




 結局あの後も休み時間になる度に質問攻めに遭い、精神的に疲れてしまった。

 そしてようやく開放されて今は美雪と一緒に下校中である。


「ったくあいつら……しつこいっての」

「…………」

「違うって言ってるのに信じてくれないし。明日も同じこと聞いてきたらぶん殴ってやる」

「…………」

「おっと。愚痴っちゃって悪いな美雪」

「…………別に」


 ん? なんか美雪の様子がおかしい……?


「み、美雪? どうしたんだ?」

「………………」


 あれ。もしかして怒ってる?


「あ、あのー……」

「本当に……はるちゃんと仲がいいのね……」

「えっ? あ、ああ。そりゃそうさ。なんたって親戚だもんな!」

「…………」


 なぜか美雪が怖い。

 冷や汗が止まらない。俺の中の何か・・が警告を鳴らしている。非常にやばい。


「はるちゃんの裸も……見れちゃうぐらい仲良しなのね……」

「なっ……!?」


 しまった……そういやあの時はけっこう騒いでたもんな。やはり美雪にも話の内容が聞こえていたんだろう。


「ご、誤解だ! 晴子とはそんな関係じゃないって! だから――」

「…………」

「あれはそうじゃなくて……なんというか、そのー、デマカセというかなんというか――」

「……私こっちだから。それじゃ……」

「み、美雪! だから話を――」

「バカっ……」


 そのまま振り向きもせずにスタスタと足早に去って行ってしまった。


 ああ……やってしまった……

 絶対勘違いされたな……

 本当に今度から気をつけないとな。口は災いの元だ……

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