第34話: デート本番
今日はいよいよ美雪とのデートの日だ。この日をどれだけ心待ちしていたことか……
再び風邪でもひいたら台無しになってしまう。だから前日から体調は万全にしてある。
「おっし。準備できた」
「随分と気合入ってるな」
「そりゃそうだろ! 本来ならばもっと早くするはずだったんだからな」
この日のために服も新調したし、色々と準備をしてきたからな。
「ま。がんばれよ」
「おう!」
部屋から出る直前、晴子が少し寂しそうな表情をしていた気がするが……まぁいい、今はそれより待ち合わせの場所まで急がなくては。
美雪とは駅前で待ち合わせることになっている。さてどこかな……
お。居た居た。
「……あ」
「先に来てたのか。悪い、待たせたか?」
「ううん……今来たとこだから……」
まだ約束の時間まで10分以上あったが、どうやらそれより前に到着してたみたいだ。
うーむ、しかしあれだ。いつ見ても美雪は背が低いな。クラス内でも――いや、学校内でも一番小さいと思う。下手すりゃ子供料金でも通用するんじゃないか?
「……どうしたの?」
「い、いや。その服可愛いと思ってさ!」
「……ッ! そう……かな?」
美雪は落ち着いた色合いのブラウスの上にカーディガンを羽織っていて、スカートもいつもより短い気がする。
見たこと無い服装なので思わず見入ってしまう。
「……はる君も、似合ってるよ」
「マ、マジ?」
よかった。苦労して選んだ甲斐があったもんだ。
「と、とりあえず行こうか!」
「う、うん」
なんとなく気恥ずかしい雰囲気になったのですぐに出発した。そして駅構内に入って電車に乗り、二人で席に座った。
電車に揺られ少し経ってから、対面に座っているお年寄りがこっちを向いていることに気付く。その人は、ほほえましそうな目で俺達を見ていた。
たぶんだけど、あの人は俺達のことを『カップル』ではなく『仲のいい兄妹』としか思ってない気がする。他人から見たらそんな風に見えるんだろうなぁ……
そんなこと思っていると、目的の駅に到着したので二人で席を立った。
駅から歩いて数分が経ち、目的地に到着した。
「水族館って……久しぶり」
「お、俺もだよ!」
そう。色々悩んだが、デート場所は結局水族館に行くことにしたのだ。以前晴子と来た所とは違う水族館を選んだ。どうせなら俺自身も楽しみたかったしな。
美雪にはちょっとした嘘をついたが……まぁこのくらいならいいだろう。
入り口で入場料を払い二人一緒に中へと入った。
「うーん。ちょっと混んでるな」
「……うん」
予想通りというか、休日だけあって人が多かった。やはり人気のスポットなんだろうか。
しかしこれじゃあ美雪とはぐれてしまいそうだ。小さい美雪ならなおさらだ。さてどうしよう。
…………いや待てよ。ひょっとしたら……いけるか?
仮にもし拒否されたら……いやいや、弱気になるな。いけるはずだ……!
そして
「み、美雪!」
「……?」
「ほ、ほら」
そして手を差し伸ばした。
そう。二人で手を繋げば迷子にならずに済むと思ったのだ。
「……!」
美雪も俺が何がしたいのかすぐ理解してくれたようだ。
少し経ってから美雪の方も手を伸ばし、俺の手を握ってくれた。
「そ、それじゃあまずあそこから行こうぜ!」
「……そ、そうね」
や、やったぜ。まさか本当にしてくれるとは……
しかしこれは相当勇気がいる行動だった。美雪と手を繋ぐなんて小学生以来だからな。
美雪の小さな手の感触を
「おお。でっけぇ水槽だなー」
そして迫力のある大水槽まで到着し、二人で眺めることにした。
「……いっぱいいるね」
「だな。前から思ってたんだけど、こういうのって小さい魚は食われたりしないのかな?」
「エサを十分与えてるから……たぶん、大丈夫……なんだと思う……」
「あーなるほどなー」
そういや自然界の生き物は無駄な殺生はしないとか聞いたことあるな。例外はあるだろうけど。
さすが水族館。そのあたりは上手く調整してるんだろうなぁ。
しかしあれだ。魚を見ていると――
「おっ。あの魚美味しそうじゃね?」
「…………」
……やっぱこの話題はまずかったみたいだ。隣からすごく残念な人を見るような目で俺を睨んでくる。
「あ……わ、悪い! 好物だからつい……」
「…………もう」
くそっ。やはり晴子とのデートは参考にならないじゃないか!
とりあえず気を取り直して次のエリアに進もう。
「へぇ。こっちはクラゲコーナーか」
「……ふしぎ」
「変な生き物だよなー」
次に訪れたのはクラゲが何種類かいるエリアだった。前に来た時とは違い、クラゲも水槽もサイズが大きくなかなか見ごたえがある。
ふーむ。確かクラゲと言えば……
「そうだ。クラゲって意外と美味しいんだぜ。今度食ってみるか?」
「…………」
うん。やめようこれ。明らかに不機嫌になってる。
さっきよりも呆れたような表情をしている。
「その、ごめん」
「…………」
俺のことをジーっと見つめてきて何故か怖い……
「…………ふふっ」
「……!?」
と思ったら突然笑い出した。
あ、あれ?
「えーっと……美雪? どうしたんだ?」
「だって……はる君らしいと思って……」
「はい?」
どういうことだ?
「……ほら。次いこっ……」
「あ、うん」
そのまま引っ張られ次のエリアへと移動した。
やってきたのはペンギンが見れるコーナーのようだ。これは前の水族館には無かったな。
少し先にはペンギンがよちよちと歩いていた。なかなか愛嬌があって見てて面白い。
「かわいい……」
美雪のほうが可愛いよ――なーんてセリフが言える度胸があったらなぁ。
生でペンギンを見るのは初めてだったので、しばらくここで観賞することにした。
その後も色々と見て回り水族館を堪能した。
美雪も意外と楽しめたらしく、驚きや笑顔など表情を見せるようになっていた。そんな美雪を見れただけでもここに来た甲斐があったもんだ。
そして最後におみやげコーナーへとやってきた。
「はる君は……何か買う?」
「んーどうすっかな」
商品をあちこち眺めてみるが、めぼしい物が見つからない。どれも購入意欲をそそられないのだ。ぬいぐるみなんて邪魔だし、Tシャツはデザインがイマイチだ。
「せっかく来たんだし、何か買いたいんだけどなー」
「それなら、しばらく……別々に見て回る? 私も……ゆっくり選びたいから……」
「そうするか」
美雪の提案で二手に分かれておみやげを選ぶことにした。
何分か歩き回って悩んだが結局お菓子を選んだ。それは魚の形をしたクッキーで無難だと思ったからだ。
水族館から出てから軽く食事取り、今は腹ごなしに散歩中である。
「たまには水族館も悪くなかったな」
「私も……久しぶりだったけど……楽しかった」
よかった。楽しんでもらえてなによりだ。まぁ実際俺自身も楽しかったしな。
おっとそうだ。美雪に渡す物があったんだ。
「美雪。はいこれ」
「……?」
小さな袋を手渡した。
「プレゼントだよ。開けてみな」
肯いた美雪は袋を開けて中身を取り出した。
その中に入っていたのは――
「……ペンギン?」
「美雪に似合うと思ってさっき買ったんだよ。どうかな?」
それは小さなペンギンが付いたキーホルダーだ。おみやげコーナーで見つけてプレゼントしようと思ったのだ。
しかし、それを見つめたままなぜか美雪は動かなくなった。
「…………」
「美雪?」
あれ。まさか気に入らなかったのか?
俺なりに厳選したつもりなんだけどな。
「……はる君」
「ん?」
そしてそのまま俺に振り向き――
「ありがとう……! これ、大切にするねっ」
「……おう」
見たことの無い笑顔で一瞬ドキッっとしてしまった。
やはりプレゼントしてよかった。本当によかった。
もしかして今って割といい雰囲気なんじゃないか?
これなら……今なら告白するチャンスなんじゃないか?
――いや、ここしかない!
「なぁちょっといいか?」
「……?」
決意したあと正面を向いてまっすぐ見つめる。
ここで長年の想いを告げるんだ!
「美雪。よく聞いてほしい」
「えっ……?」
緊張のあまり手が震えるが、それをグッっとこらえる。
「俺は……俺は美雪のことが――」
……
…………
………………?
「……どうしたの?」
「…………」
「はる君?」
「あ、いや、ごめん。なんでもない……」
何だ今のは……
「そ、それよりもう帰ろうか。送ってくよ」
「……う、うん」
そして美雪を家まで送り、俺も家に向かって歩き出した。
…………
あの時、告白しようとしたあの瞬間……
俺は何で……何で――
晴子の姿が頭に浮かんだんだ……?
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