第32話:晴子の変化
晴子の様子がおかしい。
ある日のことだった。
漫画でも読もうかと思い本棚を眺めていると、見慣れないタイトルを発見したのだ。それを手に取って確認すると、やはり買った覚えない本だった。どうやら少女漫画のようだ。
少女漫画というのは嫌いではないが好きでもない。つまり買ってまで読もうとは思わないのだ。それがなぜここにあるんだ?
答えは一つしかない。晴子が買ってきたんだろう。しかしなんでまた少女漫画なんて買ったんだろう。
とりあえず本人に聞いてみることにした。
「なあ。なんでこんな物買ったんだ?」
「……別にいいだろ。オレがなに買ってもさ」
「少女漫画とか興味なかったじゃねーか」
「うるさいな。それともそういうの読んじゃ駄目なのか?」
「い、いや……そうじゃないけど……」
「だったらいいだろ」
うーん。少なくとも俺は読みたいとは思わないんだけどな。本当に謎だ。
まぁいいや。暇だったから試しに買ってみたんだろう。そう思うことにした。
……晴子の様子がおかしい。
最近の晴子はなんというか、仕草が変わったのだ。
髪をかきあげたりとか、飯を食べる時、歩き方だったり……等々。それらの仕草がなんというか、
その瞬間の晴子を見ると、思わずドキッっとしてしまうことが多くなった。元男だってことを忘れそうになる。
何より一番分かりやすく変わったのは座り方だ。床やベッドの上などに座るときは、基本的にはあぐらをかいて座っていた。だけど気付いたら晴子は『女の子座り』をするようになっていたのだ。
気になってそのことを聞こうとしたことがあるが、なんとなく言いづらくて聞けずにいる。
…………晴子の様子がおかしい。
ある日のことだった。
学校から帰った後、部屋に入ったが晴子は居なかった。どうやら出掛けてるようだった。
部屋でのんびりしていると突然ドアが開き、晴子が入ってきた。そしてなぜか俺が脱いだ制服を凝視していた。
「おい春日。こんなところに脱ぎっぱなしにすんなよ」
「あー悪い、後で片付けようと思ってな……」
「今やれよ。あと散らかすなよ」
なんというか最近の晴子は小言が増えた気がする。
「ったく……これじゃシワになるだろうが……」
晴子は俺の脱いだ制服を持ち、キレイに折りたたみ始めた。
「んー……やっぱアイロンかけとくか」
「ア、アイロン!? お前そんなことまでしてるのか!?」
「まぁな。そうでもしないとキレイにならないからな」
そう言ってそのまま部屋から出て行った。
いやいや待て待て。俺はアイロンなんてやったことが無いぞ。というかやろうとも思わない。いつの間にアイロンなんて覚えたんだ……?
あいつ最近ますます主婦染みてきたな……
………………晴子の様子がおかしい。
俺達は普通の兄弟とかでありそうな、いわゆる『チャンネル争い』というのが存在しなかった。見たい番組が常に一緒なのだから当然とも言える。だからいつも一緒に同じ番組を見ていた。
しかしある日、晴子は別の番組が見たいと言い出したのだ。それを聞いて心底驚いた。
「お、おい……なんで別の番組が見たいんだよ?」
「別にいいだろ。オレだって違うのが見たいんだよ」
そんな馬鹿な……晴子は元俺だったんだから見たいテレビも必ず同じはずだ。どういう心境の変化だ?
「なら晴子が一階行けよ」
「オレはここで見たいんだよ」
部屋にはテレビがあるが一台しかなく、別の番組を見るためには一階の居間にあるテレビまで移動する必要があるのだ。
しかし、俺は自分の部屋でくつろぎながら見たい派だ。それは晴子も同じだろう。
「ならじゃんけんで決めようぜ!」
「おう、いいぞ!」
「「じゃーんけーん――」」
『自分』とじゃんけんしても決着はつかない。その事実に気付くのに二分近くかかった。
「くそっ……あいこばかりで決着つかないな……」
「…………よし。だったら――」
晴子は目の前で屈んで上目遣いで見つめ始めた。
そして両手を合わせて――
「お兄ちゃん、私どうしてもここで見たいの……だからお願い……」
グハッ……
さ、さすが晴子。俺の
猫なで声でそれは卑怯だ……!
「……ったくしょうがないな。俺が移動するよ」
「うーん。我ながらチョロい」
「なんか言ったか?」
「いや?」
結局俺が別の場所で見ることになった。
部屋から出て行く前に晴子がどんな番組が見たかったのか気になり、テレビを確認した。どうやら恋愛物のドラマのようだった。
……なんであんなもの見たいんだ? 少なくとも俺はあんなの見たいとは思わない。だから晴子も同じはずなんだけどな。
不思議に思いながらも特に思い当たる節もなく、部屋から出ることにした。
晴子の様子がおかしい!!!!!!
ある日のことだった。
帰宅していつのものように部屋のドアを開けた。
するとそこには――
「ただい――って晴子? なんだよその格好は……」
「なっ……あ、いやその……こ、ここここここここれは違うんだ!!」
そこには、淡い水色のワンピースを着た可愛らしい姿の晴子が居たのだ。スカートも程よい長さで実に似合っている。
「えーとだな、あのだな、そのぅ……」
顔を赤くしてすごく慌てている。なんか必死に言い訳を考えていないか?
「……そ、そうだ! いつまでも春日の服を借りるわけにはいかないだろ!? だから仕方なく新しい服を買ったんだよ!!」
「だ、だからって何もその服にすることはないだろうに」
「…………なんだよ。オレがこういうの着ちゃいけないのかよ!? メイド服着せたくせに!!」
「い、いや……ダメとは言ってないだろ」
「だったらいいだろ……」
うーん……変だな。晴子はこういう女の子らしい服は避けると思ってたんだがな。少なくとも俺が晴子の立場なら着ようと思わないだろう。
だったらなぜあんな可愛らしい服を選んだんだ?
「……それで、どうなんだよ」
「どうって……なにがだ?」
「その……この服だよ」
「?」
言ってる意味がよく分からない。
「だから……変だったりしないか?」
「そんなことないよ。似合ってるじゃないか」
これは本心だ。見た目は美人だからな。そんな晴子があんな可愛らしい服を着たんだ。似合わないわけがない。
「!! そ、そうか! そうだよな…………………………へへっ」
実に嬉しそうだ。とてもじゃないがなんで女の子用の服を選んだのか。その理由を聞くような雰囲気ではなかった。
やはり最近の晴子は何かおかしい――
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