第26話:文化祭③
せっかく注文したんだ。このオムライスを頂くとしよう。
……うん。けっこう美味しい。
料理に関しては、美雪が監修しているのでかなり出来がいい。メイド抜きでも普通にやっていけそうなぐらいだ。
食事を続けながらも晴子の接客様子を眺めていた。意外と真面目にやっているみたいだ。
晴子が『オレ』と言いそうになる度に『私』と言い直す姿はなかなか愉快だった。
そんな晴子に対して、大半の男達は心奪われたような視線を送っていた。何故か一部の女子達も似たような目をしていたが……たぶん気のせいだろう。
昼になり、晴子は休憩時間となったので食事を取った後、一緒に移動することにした。
「な、なぁ……せめて上着だけでも――」
「駄目だ」
「うぅ……」
隣に居る晴子はずっと恥ずかしそうにしている。何故なら一緒に歩いていると、すれ違った人がほぼ全員が振り返るからだ。
もちろん見られているのはメイド姿の晴子だ。まぁ無理もない。美人のメイドが歩いていたら誰だって振り向く。俺だってそうする。
本人もそれを自覚しているらしく、顔を赤くしながら歩いている。
「校庭に出てみようぜ。いろいろやってるはずだしな」
「ま、待ってくれよ……。オレはこの姿のまま外に出るのか!?」
「別にいいだろ。歩き回ってたほうがいい宣伝にもなるしな」
「まだ客増やす気なのかよ……」
メイド喫茶も満席になりつつあり繁盛しているが、まだ足りないと思っている。
晴子+美雪監修の料理ならばもっといけるはずだ。
「せっかくクラスの皆がやる気になったんだ。思う存分やってみようぜ」
「……オレも含まれてるのか」
「当たり前だろ」
もはや晴子もクラスメイトと言っていいほど馴染んでるからな。
最後まで付き合ってもらうぜ。
校庭へと移動し、晴子と一緒に様々な模擬店を見てまわることにした。
晴子は少し慣れてきたのか、人目を気にする事なく歩けるようになっていた。
ふむ…………
フランクフルトを購入し、二人で食べ歩いているときだった。人が密集していて、中規模のステージが設置されている場所を発見した。ステージ上には、一人が派手に踊ったりしている。
気になってしばらく眺めてみることにした。
どうやらここでは一般人でも飛び入り参加可能な、一芸大会というものをやっているらしい。ステージの上に立ち、持ちネタを披露して、反応がよければ粗品がプレゼントされるというものだ。
中にはモヒカンで肩パッド姿だったり、どこかで見たようなネズミっぽい着ぐるみをした人も居て、もはや仮装大賞と化していた。ウケれば何でもいいのだろう。
……これはチャンスかもな。
「晴子。お前アレに出てみろ」
「はぁ!? 何でオレが出なきゃならないんだよ!?」
「これだけ人が集まっているんだ。いい宣伝になるだろ」
周りと見るとざっと50人近くが居そうなほど集まっている。ここなら宣伝効果バツグンなはずだ。
「い、嫌だからな! 絶対出ないからな!」
「じゃあ一生その格好のままでいるか?」
「ぐっ……ひ、卑怯だぞ!」
うーん。困ったな。
「なら観衆の反応次第では服返してやるよ」
「ほ、本当だろうな……?」
「ああ」
晴子は少し悩んだような顔をした後、睨みつけてきた。
「……わかったよやりゃいいんだろ!」
「頼んだぞ」
そして順番待ちするべく、離れていった。
いよいよ晴子の番がやってきた。
ステージに登った晴子は、長い髪を揺らしながら、ぎこちない動きで中央へと歩いていった。そんな姿に多くの人が注目していることだろう。
中央まで進み、立ち止まって向きを変えた。
「……あっ……あの……」
明らかに緊張してやがるなあいつ。うわずった声だしているし。
「その……えと……」
恐らく頭の中は真っ白になっているはずだ。俺ならそうなる。
慣れてもないのに大勢の視線を浴びているんだ。そうなるのも無理もない。
「…………あう」
つーか大丈夫か……
さすがに無謀だったか。
「…………うちのクラスではメイド喫茶やってるんでよろしくお願いします!」
そう叫んだ瞬間、すぐに向きを変えて走ろうとしたが――
「――はうっ」
あ。ころんだ。
慣れない服を着た状態で急に向きを変えたせいだろう。
「~~~~ッ!」
素早く立ち上がり、ステージから降り、そして俺の元へと駆け寄ってきた。
「周りの反応は割とよかったぞ。やるじゃないか」
「春日ぁ……そろそろ許してくれよぉ……もぉやだぁ……」
……思いがけずドキッとしてしまった。涙目で上目遣いの晴子がこんなにも破壊力があるとはな。
そんな晴子に励ましの言葉送る事にしよう。
「そろそろ休憩も終わるし。午後も頑張ろうな! 晴子!」
「鬼! 悪魔! ひとでなし!」
うむ。やる気があって大変よろしい。
そしてメイド喫茶まで晴子を連行することにした。到着するまでの間にいろいろ叫んでいたが、全て無視した。
文化祭も無事終了し、今は自室でゆっくりしている。
晴子はベッドの上でうつ伏せになっており、さっきからピクリとも動かない。余程疲れたのだろう。
「すごいぞ。メイド喫茶は予想を遥かに超える売上げだとさ」
「…………」
「なんでもリピーターが多かったのが売上げに繋がったらしい。すごい行列だったもんな」
「…………」
「皆もやる気十分あったし、来年もメイド喫茶をやる計画をしているらしいぞ」
「…………」
へんじがない。
「だから来年も頑張ろうな! 晴子!」
「もうカンベンしてくれぇ……」
お。やっと反応した。
まぁ今回は晴子のお陰で盛り上がったしな。本来ならば地味な展示物をやる予定だったし。皆も感謝してると思うぜ。
それにしても大忙しだった。宣伝の効果があったのか、あのあと常に満席状態で、長い列を作るほどだった。
俺も裏方を手伝ったり買出しに行ったりで、休む暇が無かった。
晴子もずっと動き回っていたし。本当に良く頑張ったと思う。
「ま。お疲れさん」
寝息が聞こえるし。どうやら寝たみたいだな。
あとで甘いものでも買ってきてやるか。
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