第23話:文化祭といえばメイド喫茶

 アクビを噛みしめつつ、退屈な時間を過ごしている。

 今は教室内で、文化祭の出し物を決めている最中だ。けれどクラスの皆は気だるい雰囲気に包まれており、やる気を感じさせない。

 黒板の前には委員長が真面目そうに仕切っているが、殆どの連中は興味も無さそうにしている。中には隠れてスマホを弄っている人も見かける。

 それは俺も同じ気持ちで、さっさと出し物決めて早く帰りたいと思っている。どうせなんかの展示物をやることになるのだから。


 やはりというか、展示物が一番票を獲得しており、これで決まりかと思ったときだった。


「はい! おれはメイド喫茶を提案します!」


 手を上げて席を立ち、元気よく声を上げたのは千葉だ。

 というかメイド喫茶って……


 千葉の声に全員の注目を浴びたが、女子の反応は芳しくなかった。当たり前だ。誰がメイド喫茶なんてやりたいと思うのか。

 委員長も無視して進行しようとし――


「お前ら……晴子ちゃんのメイド姿を見たくないのか!?」


 千葉の一言でクラスの雰囲気が変わったみたいだ。


「いつも男の制服を着てて、あのオレっ娘の晴子ちゃんに、可愛らしい服を着させたいと思わないのか!? それもメイド姿が見られるチャンスだぞ!?」


 ……何いってんだこいつ。

 だが千葉の言葉に、ポツリポツリと支持する声が上がり始める。

 そして何故か俺の方向に顔を向ける千葉。


「というわけで頼んだぞ! 出久保!」

「なんで俺なんだよ……」

「だって晴子ちゃんを呼び出せるのは出久保しか居ないだろ!? だから協力してくれるように言ってくれよ!」

「いや……あいつはたぶん――」

「出久保は晴子ちゃんのメイド姿を見たくないのか!?」


 晴子のメイド姿ねぇ……


 …………


 見たい。すごく見たい。超見たい。絶対見たい。

 そもそも晴子は女物の服を着たことが無いはずだ。何故なら晴子の着ている服は、全て俺のだからだ。なので自然とボーイッシュな服装になってしまう。

 そんな晴子が可愛らしい服――しかもメイド服ともなれば絶対に似合うはずだ。是非とも一度お目にかかりたい。


 だがどうする?

 直接頼んでも断られるのがオチだ。俺が晴子の立場なら拒否するからな。

 何か良い方法はないのか?


 今の俺はかつてないほどに頭をフル回転させている。


 晴子にメイド服を着させる方法……

 考えろ。考えるんだ。


 …………


 ――閃いた!


 俺はある計画を思いつく。


「……喜べ千葉。晴子のメイド姿を拝ませてやるぞ」

「本当か!? さっすが出久保!」


 その後、圧倒的多数でメイド喫茶に票が集まり、めでたく文化祭の出し物が決まったのである。




 学校も終わり、美雪と一緒に俺の家へと入った。美雪も一緒なのは計画に必要だったからだ。

 そして部屋の扉を開けると、晴子が俺達に気付いたようだ。


「おかえり――ってなんで美雪……ちゃんも一緒なんだよ」

「晴子のボディサイズ測りたいと思ってな」

「……うん」

「オレのサイズ?」


 さすがに俺が測るのは躊躇うからな。美雪を連れてきたのはこの為である。


「正確にサイズ知っておきたいだろ? いい機会だから今測っておこうと思ってな」

「つーかサイズは大体知ってるし。別にいいよ」

「いやいや。人間ってのは常に成長する生き物だぜ? いざという時に違ってたら面倒だろ? だからこの機会に知っておきたいと思わないか?」

「う~ん……」

「それとも店員に測ってもらう気か? それでまた押し売りされてもお前断れるのかよ」

「うっ……」


 以前こいつは測ってもらった店員に勧められて、アホみたいに高い下着を買わされたことがあるからな。

 晴子にとっても苦い思い出のはずだ。


「わかったよ……やればいいんだろ」


 よしっ。


「んじゃ後は頼んだぞ美雪」

「……任せて」

「俺は1階にいるから、終わったら呼んでくれ」

「お、おう」


 そして部屋を出てから扉を閉めた。


 くっくっくっ……上手くいったぜ。これで晴子用のメイド服を用意することができる。

 晴子のメイド姿……楽しみだ。

 実に楽しみだ……

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