第19話:手作り料理

 次の朝。アラームの音と共に目が覚める。寝るのが遅かったせいで眠いが、風邪は治りきっていた。

 アラーム音のせいで晴子も起きたようで、目を擦りながら上半身を起こしている。


「……体の調子はどうだ?」

「バッチリ!」

「……そうか」


 言い終わると同時に欠伸をした晴子は、再び横になって布団を被った。二度寝する気だろう。

 そんなときだ、スマホの振動音がしたので手に取って確認する。どうやらメールがきたらしい。すぐさまメールを開いて確認する。

 送り主は……美雪からだ。


 何故こんな朝早くメールをしたのだろうかと思ったが、内容を見て納得する。俺のことを心配してくれたようだ。

 内容を簡潔に述べると、今日も学校に来れないようなら見舞いに来てくれるとのことだ。

 しかし既に完治しており、今日は学校に行く予定なので、すぐにその旨をメールで伝えた。

 メール送信後、着替えてから部屋を出ようとし――再びスマホが震えた。手に取り確認するがやはり美雪からのメールだった。

 内容を見て思わず声が出る。


「マジか……」

「……どうした?」

「あ、悪い。起こしたか?」

「別にいいよ。それよりなんだよ」

「いやな。今日は美雪が弁当作ってきてくれるらしいんだ。美雪の料理はすげー美味いしな」

「…………」

「やっべ。めっちゃ楽しみだ。今日は良い一日になりそうだぜ」


 弁当作る手間も省けるし、美味しいメシに有り付ける。良いこと尽くしで眠気も一気に吹き飛んだ。


「んじゃ、さっさと朝食を――」

「……うるせーぞ」

「……え?」


 あからさまに不機嫌そうな晴子の声。

 いつの間にか上半身を起こしていて俺を睨んでいた。


「は、晴子……?」

「いいからさっさと学校いっちまえ。遅刻すんぞ」

「お、おう……」


 なんとなく晴子が怖かったので急いで部屋を出る。

 どうしたんだあいつは。いきなり不機嫌になりやがって。もしかして夜遅くまで付き合わせたのがまずかったか?

 それなら俺に非があるし、あとで謝ろう……




 期待通りというか、美雪の弁当は非常に美味しかった。店で売れるレベルの出来栄えで毎日食べたいぐらいだ。

 風邪が治ったばかりということで、それに合わせて栄養のあるおかず中心に選んでくれたらしい。


「弁当サンキューな。すげー美味しかったよ」

「よかった……」


 学校も終わり、美雪と一緒に帰ることになったので何度目かの感謝をした。それぐらい嬉しかったのだ。


「本当に……体調は大丈夫なの……?」

「平気だって。ただの風邪なんだし。心配しすぎだよ」

「ならいいけど……」


 美雪はやけに心配性だ。風邪ひいた俺が悪いんだけどさ……


「まぁとにかく。今のところ何とも無いし、美味いメシ食ったからもう大丈夫だよ」

「…………」


 少し頬を染める美雪。

 やはり可愛い。このまま抱きしめたかったがグッと我慢。

 しばらく互いに無言状態が続いたが、美雪から話しかけてきた。


「……もしよかったら……毎日……作ってあげようか?」

「へ?」

「……お弁当」

「マジで?」


 あの美味しい弁当を毎日食えるだと……!?

 これは非常に魅力的な提案だ。願っても無いチャンス。すぐにお願いしたいところだが――


「……い、いやさすがに遠慮しとくよ。美雪にそこまで迷惑かけたくないし」

「…………」


 本当は毎日でも美雪の料理を食べたい。けどさすがにそこまで甘えるわけにはいかない。

 ただでさえ定期的におかずを作って貰っているんだ。これ以上負担をかけたくない。だからこそ断った。


「はる君は………」

「ん?」

「最近のはる君は……明るくなったよね……」

「俺が?」

「……うん」


 また唐突だな……


「……少し前までのはる君は……元気なかったから……」

「そうか?」


 肯く美雪。

 まぁ……確かに、以前の俺は無気力に過ごしていたかもしれない。

 あの日から――母さんが死んだ日から、ずっとそんな生活を続けていたからな。親父も別人のように変わってしまったし、その影響かもしれない。

 長い付き合いである美雪が告げるぐらいだ。以前の俺はさぞかし暗い雰囲気だったんだろうな。


 そんな俺が明るくなれたとすれば――たぶん晴子のお陰だろうな。

 前までは家で一人になることが多かったからな。しかし今は晴子がいる。家に帰ると晴子が迎えてくれる。「ただいま」と言える相手が居る。

 晴子が現れてから暇になることは殆ど無くなったし、一人になる時間が少なくなった。

 あいつと居ると楽しいんだと思う。……時々からかわれるけど。


「たぶん……俺が変わったとすれば、あいつのお陰かもな」


 もし晴子が現れなかったら……変わることなく、ずっと暗い雰囲気のまま過ごしていたかもしれない。美雪とデートするなんて言い出せなかったかもしれない。

 そう思うと、あいつには感謝し足りないかもな。


「だからさ、あいつには――晴子には感謝してるんだよ」

「…………」

「ま、そういうわけでさ。晴子とは仲良くしてやってくれないか」

「……うん」


 言わなくても既に仲良しみたいだったし、余計なこと言ったかかな。


「……はる君はさ」

「うん?」

「……はる君は……はるちゃんのこと――」


 美雪が言い終わる前に俺のスマホが震え、すぐ取り出して確認する。


「すまん美雪。ちょっと寄り道してくるわ」

「……?」

「晴子からのメールがきてさ、買物頼まれたんだよ」

「そ、そうなんだ」

「というわけだから俺はここで。またな!」

「……またね」


 美雪と別れ、頼まれた物を買うべくスーパーへと急いだ。

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