第18話:男と女の違い
風邪をひいた日の夜。晴子が看病してくれたお陰か風邪はほぼ治りかけていた。これなら明日は学校に行けそうだ。
晴子には一応、感謝はしている。……余計な事してなけりゃ素直に感謝してたんだけどな。
けれどもちょっとした問題があった。
「……目が超冴えてる」
「だろうな」
寝れないのである。一日中寝てたから当たり前といえば当たり前だが……
しかしどうしたもんか。ゲームをする気分でもないし、かといってスマホ弄ってたら余計に寝れなくなりそうだ。
悩んでいると、うすら笑いを浮かべながら晴子が話しかけてきた。
「寝れないなら手でも繋いでてやろうか?」
「…………」
こいつは本当に変わらんな……
いやまてよ……。下手にうろたえたりするから調子に乗るんだ。ならいっそのこと提案に乗ってみるか。
そして手を刺し伸ばす。
「いいぜ。ほら」
「お? 本当にやるのか?」
「お前が言ったんだろうが」
「まーそうだけど」
晴子も手を伸ばし、握手する格好になる。
……ふむ。柔らかい手の感触が伝わる。白くて少し小さい手だ。俺と違ってスベスベしててきめ細かい肌をしている。
今更だけど……本当にこいつは女なんだよな。やはり男と違って色々と苦労してるんだろうか。
いい機会だ。普段聞けなかったアレとか聞いてみるか。
「……ちょっといいか」
「ん?」
「晴子はさ……女になってから変わったことあるか?」
「何だよ突然」
「いや、気になってな」
「変わったことねぇ……」
手を離し、腕を組んで考えだした。
「やっぱりあれだな。トイレが近くなったかな」
「あーそれは聞いたことあるな」
「まだこの体……というか女の体に慣れてないせいもあるかもしれんが、男の頃より頻度が増えた気がするわ」
「なるほどね」
予想はしていたが、やはり悩みの種みたいだな。
丁度いい。ずっと知りたかったあのことも聞いてみるか。
「トイレと言えば……女は
「…………」
凄まじいセクハラ発言だと自覚している。
こんなこと本物の女性に聞いたら怒りの鉄拳が飛んでくる上に、通報されることは間違いないだろう。
しかし目の前のこいつは別だ。晴子になら聞ける。
いや――この疑問は晴子にしか聞けない。
「……まぁ……その……やろうとしたことはあるけどさ……」
試そうとしたんかい。
「前にトイレでさ、寝ぼけてて立ったまましようとしたことがあったんだよ。危うく大惨事になるところだったぜ」
「おいおい……」
「だから座らずに出来ないかなーって色々考えた時期もあったんだけどさ、結局無理だと判明したよ」
「やっぱ駄目なのか」
「ああ」
女である本人が証言するんだから間違いないだろう。
これで一つ賢くなった。
「あとはそうだな……風呂が長くなったかな」
「どれくらい?」
「男の頃より倍……いや三倍は増えた」
「そんなにか?」
「まーな」
これは初耳だ。少し長くなる程度だと思っていたが、三倍は予想外だな。
「なんでそんな長いんだ?」
「……春日のせいだろうが」
「へ?」
全く身に覚えがない。なんかしたっけ?
すると晴子は髪を触り始めた。
「髪洗うのに時間掛かるんだよ。まだ慣れてないからな」
「ああ、なるほどね」
晴子の髪は長いからな。あれだけの量を洗うには一苦労しそうだ。
「だからオレは切りたかったんだよ。でもお前が切るなって言ったからこのままにしてるんだぞ」
「うっ……」
申し訳ない気分になってきた。やはり苦労してるんだな……
「そうだよ苦労してるんだよ」
さすがに顔に出てたか。
「ふーむ。そうだな……なら一緒に風呂入ってみるか? どれだけ大変か知るにはいいチャンスだろ」
「は? い、いや……俺は別にそこまでは――」
「くっくっくっ……」
……最近からかい方が上手くなった気がする。
「ま、そういうわけだから……ほれ」
晴子の手には櫛が握られていた。俺が買ったやつだ。
「……櫛?」
「お前が買ったんだろ。だからこれで髪とかしてくれよ」
「俺が? いいけどやり方知らんぞ」
「簡単だって。すぐ慣れるよ」
櫛を受け取る。
そして晴子は髪留めを外し、ポニーテールからロングストレートの髪型になった。背を向けたので真後ろまで移動してから座った。
「軽く手で
「あいよ」
髪を持ち、言われた通りにゆっくりと手を動かした。
「こんな感じか?」
「うむ。くるしゅうない」
「左様ですか」
とりあえず満足しているらしい。
髪をとかしつつ、夜は更けていった。
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