第17話:晴子の看病
「……けほっ」
「38度か……こりゃ風邪だな」
体温計を見ながら晴子が呟く。
俺はベッドの上で布団被って横たわっている。朝起きたら風邪をひいてしまったのだ。
最初は平気だと思ったけれども急に体が重くなり、とてもじゃないが学校に行ける状態ではなかったので休むことになった。
「つーかなんでこんな時期に風邪ひくかねぇ……」
「……うっせーよ」
「オレってこんな貧弱だったか?」
「…………」
本当になんでだろうな……
「ま、とりあえず寝とけ。薬買ってきてやるから」
「……悪いな」
「そう思うならさっさと治せ」
「ああ……」
だが思った以上にしんどくてなかなか寝付けない。そんな俺の状態を察したのか晴子が近づき、ニヤけた顔つきで話しかけてきた。
「寝れないなら……オレが添い寝してやろうか?」
「けほっ! こほっ! げほっ!」
「くっくっくっ……お前本当に弱ってるんだな」
この野郎……。分かってて反応を楽しんでやがるな……
「それはそうとして、他に欲しいものあるか?」
「……リンゴ食いたい」
「あいよ。んじゃ行ってくるわ」
そう言って晴子は部屋を出た。
……静かだな。よく考えたら部屋の中で一人になるのは久しぶりかもしれない。いつもは部屋に晴子が居るからな。寝るとき以外でここまで静かになるのはあまり記憶にない。
まぁいいや。さっさと寝よう――
「ん? 起きたか」
目が覚めると部屋には晴子が居た。
「今何時だ……」
「まだ昼過ぎだよ」
「そうか……」
上半身を起こそうとするが、額が少しヒンヤリしていることに気付く。手で触ってみると柔らかい感触があった。どうやら冷え○タが貼られているらしい。
これは晴子が貼ってくれたのか。
「調子はどうだ?」
「……ダルい」
「そっか……。ちょっと待ってろ、お粥でも作ってきてやるから」
そして晴子は部屋から出ていき、15分位経ってから戻ってきた。手にはトレーを持っていて、その上に大きめの皿が乗っていた。
上半身を起こし確認すると、どうやらお粥を持ってきてくれたみたいだ。
「ほれ。口開けろ」
「……え?」
「まだダルいんだろ? 食わせてやるから。ほらよ」
「あ、ああ……」
皿からレンゲでお粥をすくい、俺の口元まで寄せてきた。そしてそのまま一口。
……うんおいしい。どうやら晴子が作ったのはたまご粥のようだ。
「どうよ?」
「美味しい……」
「だろ? いけるっしょ」
いつの間にお粥の作り方なんて覚えたんだ。俺は作ったこと無いんだけどな。
「まだ食うか?」
「……ああ」
その後も食べ続け、あっという間に完食。食欲は無かったが思いの外おいしくてそのまま平らげてしまった。
「…………んー」
「なんだよ」
何故か俺をジーっと見つめている。
「ちょっと思い出したんだけどさ、風邪って他人に移せばすぐ治るって聞いたことあるじゃん?」
「聞いたことはあるが……だからなんだよ」
「いい機会だし。試してみないか?」
そう言い放ち、近くまで詰め寄ってくる。
「は、晴子? 一体何を――」
「だからさ、口移しで風邪が治るかどうかやってみようぜ」
「は? い、いやいや! そんなアホみたいな迷信を本気に――」
徐々に晴子の顔が接近し、お互い見つめあう状態になる。
「お、おい……晴子……」
「…………」
目の前には、整った顔立ちで魅力的な晴子の顔があった。
まてまてまて……口移しだと?
何いってんだこいつは。それってつまり……キスってことだろ?
そんな頭悪い迷信を信じるほど俺は馬鹿じゃねーぞ。
そして更に近づく。
今日の晴子はおかしいぞ……いやおかしいのはいつものことか。それでもここまで大胆な行動に出た事はなかった。
晴子にしてみればキスする相手は『俺』なんだから当然嫌がるはずだ。だからこそ理解できない。
何故こいつはここまで――
心臓が高鳴り、呼吸が乱れる。
もはや鼻が触れてしまう距離まで接近し――
……………………
「ぷっ……あっはっはっは! なにマジになってるんだよ。本当にするわけねーだろ!」
「……てめぇ」
畜生が!
俺が弱ってるのをいいことに好き放題しやがって……風邪が治ったら覚えてろよ!
「そんな睨むなよ。リンゴ剥いてきてやるからよ」
「本当だろうな?」
「おいおい。信用しろよ」
どの口が言うか。
「少し待ってろ。薬も一緒に持ってくるからよ」
そう言って部屋から去っていった。
……もしかして風邪が移ったのか?
それなら変なテンションになっていたも肯ける。顔も少し赤かった気がするしな。
ま、看病してくれたのは有り難かったし。もしあいつが風邪引いたのなら、今度は俺が看病してやるか。
数分後。持ってきてくれたリンゴは美味だった。何故か晴子も一緒に食べていたが。
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