第16話:犬より猫派

「んでさ、晴子ちゃんがブチと一緒いる場面に遭遇したわけよ」

「千葉はどこに居たのさ?」

「おれは隠れて見てたよ」


 学校での休み時間。千葉と天王寺が晴子の話題で盛り上がっていた。

『ブチ』というのは学校周辺にうろついている野良猫のことだ。非常に人懐っこい性格をしていて皆から可愛がられている。毛色が白と黒だからブチと呼ばれている。


「その時によ、ブチに話しかけてる晴子ちゃんがマジ可愛くってさ」

「何て喋ってたの?」

「聞いてくれよ。『おーブチ、今日も生意気な顔してんな~。ほら、ニャ~って鳴いてみろよ』って言ってたんだぜ? 晴子ちゃんの猫の鳴き真似がすんげぇ可愛かったんだよな~!」

「い、いいなぁ……僕も聞きたかったなぁ……」


 千葉の鳴き真似はすごい気持ち悪かった。

 つーか晴子の奴なにやってんだよ……。言っとくが俺はそんなことやらないし、しようとも思ってないからな。


「猫と戯れているときも可愛かったけど、犬と遊んでる姿も似合うと思わねーか?」

「あ、わかるかも。犬と仲良くしてるところも見てみたいなぁ……」


 犬か……

 んー。これに関しては忠告したほうがよさそうだ。


「あーそれは無理だと思うぞ天王寺。晴子は犬苦手だからな」

「えっ!? そうなの? 意外だなぁ……」

「へー。犬苦手なんだ。覚えとこ」


 俺と同じで、晴子も犬にトラウマがあるはずだからな。

 ちなみにこの二人は、俺が犬苦手という事実は知らない。というか教えてない。


「……いや待てよ。犬に脅える晴子ちゃんってのも悪くないな……」

「な、なるほど……」


 …………まぁいいか。




 学校も終わり、そのまま家に帰らず某ファッションショップへと寄った。美雪とのデートに着ていく服を選ぶためだ。初のデートだからな、少しでもオシャレしていきたい。


 デートについては直接話し合うのは気恥ずかしかったので、メールでやりとりをすることにした。

 その結果、落ち着いてからのほうがいいとのことなので、文化祭後にすることが決まった。


 デート自体はまだ先だが、思い立ったが吉日。今からでも準備しようと思ったのだ。

 しかし、店内へと入り物色していると予想外の人物と遭遇したのだ。


「み、美雪!?」

「……はる君!」


 そう、店内で美雪とバッタリ出会ってしまったのだ。


「よ、よう。こんなところで会うなんて偶然だな……」

「う、うん……」

「…………」

「…………」


 き、気まずい。まさか美雪と鉢合わせてしまうとは思わなかった。というかなんでこんな場所に居るんだ。まさか……目的は俺と一緒なのか?

 沈黙が続く中、先に口を開いたのは美雪のほうだった。


「……えっと……さっきね……はるちゃんと会ったよ……」

「は、はるちゃん!? もしかして晴子のことか?」

「……うん」


『晴子』だから『晴ちゃん』ってわけか。つーかいつの間にそんなに仲良くなったんだ。


「…………ふふっ」

「どうした? いきなり笑うなんて」

「……はるちゃんから……はる君のこと聞いたから……」

「あいつが?」


 何故かいやーな予感がする……。


「……はる君が……小学生になっておねしょしたことあるって聞いたから……」


 晴子おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 あ、あいつなんてこと言いやがるんだ!!


「美雪! あの大馬鹿野郎はどこ行った!?」

「オオバカヤロウ?」

「晴子の馬鹿野郎のことだよ!!」

「……たしか家に帰るって――」

「急用思い出したから帰るよ。じゃあな」

「え――」


 地面を強く蹴り、猛スピードで家へと向かって駆け出す。今の俺は新幹線すら追い抜けそうな気分だ。

 くそっ。二人を引き合わせるのは危険だ。晴子は俺の個人情報を全て握っているからな。

 走りながらも晴子に対する復讐を考えつつ家へと急いだ。

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