第11話: 謎の男装美少女

 授業も一旦終わり、昼休みになった。今日は弁当をちゃんと持ってきている。

 教室内で弁当を全て平らげた後、自分の席で雑誌を広げていた。


「たっけーなこれ」

「うーん。僕は買い換える予定はないかな」

「でもそろそろ2年になるし、どうせなら新しいのに買い換えたいよな」


 そして二人の男子生徒が席を囲い、一緒になって雑誌を読んでいる。

 雑誌には様々なスマホの機種が載っていて、今はその話題で盛り上がっているのだ。


「つーか余計機能多すぎだよな。なんだよPiP機能って……」


 この茶髪で威勢が良さそうな男は千葉 勝ちば まさるという。


「確かに使わない機能多いよね。僕は半分も使い切れてないと思う」


 こちらの優しそうで眼鏡をかけた男は天王寺 虎太郎てんのうじ こたろうだ。

 二人は中学の時から一緒で、高校も一緒、更にはクラスまでもが同じだったのだ。なので自然とつるむことが多くなっていた。


「んーと。PiP機能とは動画を見つつ他の作業ができる機能のことで――」

「おれはそんな機能使わねーと思うな」


 俺も千葉の意見に同感だ。

 最近のスマホはやたら機能が多くて殆ど使っていないと思う。


「もっとシンプルなの無いかな? 僕でも使い易いやつがいいな」

「ならこの一番安いやつはどうだ? 2万切ってるぜ」

「う、うーん。さすがにスペックがきついかな……」


 我がままな奴め。でも気持ちはわからんでもない。


「じゃあこれはどうだ。ギリギリ2万円台で去年出たモデルらしいぞ」

「……へー、この値段で中々のスペックだな。よく見つけたな晴子・・

「つーかオレも欲しいんだよな。今は春日の分しかないしさ」

「じゃあ今度買いに行くか?」

「マジで!? 買ってくれるの?」

「親父に頼んでみるよ。上手い言い訳でも考えてみるさ」

「おお! サンキューな!」

「…………」

「…………」


 ………………


 …………………………


 ………………………………あれ?


「……なんでお前がここに居るんだよ」

「よっ!」


 いつの間にか隣に晴子が居たのである。勿論、先程まで存在していなかった。

 よっ! じゃねーよ。しかもまた俺の制服着ているし……。


「あれ……その髪型はどうしたんだ?」

「これか? 似合ってるっしょ」


 今のこいつはいつものロングストレートではなく、ポニーテールだった。


「あ、ああ。似合ってるけど……じゃなくて! なんでまた学校に来てるんだよ!!」

「だーかーらー。暇なんだよー」


 ああもうこいつは……

 そりゃあ学校に通ってないから暇だろうけれど、だからといって学校に来なくてもいいのに……

 突然の出来事で、二人も唖然としている。


「お、千葉と天王寺じゃん。なんか久しぶりな気がするなー」

「ええっ!? おれのこと知ってるの!?」

「ぼ、僕の名前も知ってるの!?」

「おい! バカ!」

「――あ。やべっ」


 このバカタレが!

 二人は俺のことをよく知ってるが、晴子はほぼ初対面なんだぞ!


「え、えーっと、ハルコさん?だったよね? なんでおれの名前知ってるの?」

「僕も気になるな」

「あー……えーと……そのだなー…………そ、そうだ! 春日に聞いたんだよ! なあ春日!」

「そ、そうだったような気がしなくもないような……」

「出久保が? なんでまた?」

「頼む。聞かないでくれ」

「……まぁいいけど」


 ……頭痛くなってきた。

 騒いだせいで、クラスの中から注目され始めてるし……。


 その後も、しれっと俺達の話に参加し始めたのだった。

 千葉と天王寺も、会話してるときのテンションは高かった。まぁその気持ちはわかる。男装してるとはいえ、晴子は間違いなく美少女に部類に入ると思う。そんな子と間近で会話できるのだ。興奮するのも無理ない。

 この二人以外の男子生徒も徐々に加わり、いつの間にか晴子中心で盛り上がり始めたのである。傍から見たら逆ハーレム状態だ。

 元男だけあって、男グループにすんなり溶け込めたのだ。


 晴子の人気は凄かった。

 それもそのはず。気さくに話しかけられ、男の話題についてこれる上に、美少女ときたもんだ。これで人気が出ないわけがない。


「すごいモテモテだねー」

「とても出久保の親戚とは思えねーほど綺麗だもんな。無理もないさ」


 まぁ確かに、あいつは理想的な女性像だからな。これで中身が俺じゃなけりゃ完璧なのになぁ……

 とりえあず千葉は後で〆る。


 晴子が帰った後も学校内で姿を見られたためか、少しずつ噂が広まっていったのである。

『謎の男装美少女』。これが晴子に対する印象のようだ。クラスの連中以外には、親戚だと言っても何故か信じてもらえなかった。解せぬ。

 その為、いくら学校中を探しても正体が掴めず、様々な説が飛び交うようになった。

 他所の学校生徒が遊びに来ている説、誰かが変装している説、幽霊説……等々。

 実は本当に男で、胸の膨らみは只のパッドだという説まであったのだ。そのせいで一部の女子生徒にも人気があるようだ。


 ……家に帰ったら説教してやる!

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