第12話:有効活用

「…………」

「…………」


 隣には美雪が居る。そして一緒に下校中である。

 先程からお互い一言も喋っていない。なんとなく気まずい雰囲気のままなのだ。

 困ったな。何か話題を出さないと……


「あー、そのー。ごめんな! 晴子の奴が騒がしくて」

「…………」


 ……沈黙が怖い。

 元々、美雪は静かであまり喋らない子だったが、ここまで何も言ってこないのはあまり経験が無い。


「……仲いいのね」

「え?」

「……その人と」

「晴子のこと?」


 美雪はうなずいた。

 仲が良さそうに見えたのか。まぁあいつは自分の分身みたいなもんだし、すごく親しみがあって接しやすいというのはあるかな。

 もはや双子以上の関係だし、仲が良いというのも間違ってはいないと思う。

 でもなんで美雪がそんなことを話すんだ?


「ま、まぁ親戚だし、そりゃ親しくもなるよ」

「…………」


 あ、あれ? また沈黙モードに……


「……私には……親戚居るってこと……教えてくれなかったのに」

「ぐっ……」


 やはり根に持っていたか。

 美雪とは小学校からの付き合いだ。だからお互いにある程度の事は知っているつもりだったのだ。

 咄嗟にでた嘘とはいえ、親戚はまずかったか……?


「わ、悪かったよ。別に隠してたわけじゃないだ」

「…………」

「だ、だから……その……」

「…………クスッ」

「――!?」


 笑った!?


「……冗談よ」


 なん……だと……。冗談を言った!?

 俺の知ってる美雪はこんな性格じゃなかったはずだ。どうしたんだ今日は。変な物でも食ったか?


「……明日……持っていくから」

「――え!? ああ、うん」


 今言った「持っていく」とはご飯のおかずのことだ。家が近く、俺の家庭事情を知っているので偶におかずを持ってきてくれるのだ。

 こいつの作ったおかずは非常に美味しく、親父にも好評で大変助かっている。

 前に味を真似しようと自分で作った経験があるが、殆ど再現することが出来ずに断念している。思ってた以上に手間が掛かってるようだ。


「いつもサンキューな」

「……うん」


 本当に感謝している。

 美雪が居なかったら恐らく今の俺は居なかっただろうから――


 その後は途中で別れ、そのまま帰宅した。


 家に帰り、自分の部屋に入ると、ベッドの上で寝そべって漫画を読んでいる晴子が居た。


「おい晴子。お前なんで学校来るんだよ。頼むから目立つ行動はしないでくれよ……」

「んー。おかえりー」

「聞いてんのか」

「んー」


 溜息をつく。

 こいつは何でこうもフリーダムなんだよ……色々言いたい事はあるはずなのに、今の態度を見ていると拍子抜けしてしまう。

 鞄を置き、とりあえず私服へと着替えた。晴子はずっと漫画に夢中になっているようだ。


 基本的に家事は晴子がやることになっている。今まで家事は全て俺がやっていたため大変だったが、晴子が代わりにやってくれるようになり負担が減ったのでそこは感謝している。

 だがそれはそれとして、学校に来るのはいかがなものか?

 現状、晴子は学校に通ってはいない。というより出来ないのだ。


『出久保 晴子』は今ここに居るが、それは俺らが勝手に付けた名前で戸籍登録しているわけではない。つまり何処の学校だろうが通うのが不可能なのだ。

 それはこいつも承知しているので、当然家に居る機会が増える。だから暇になるのは分かるが学校に来るのは勘弁してほしい。


 ………………そうだ。

 鞄を手繰り寄せ、中身を確認する。

 確か今日は――あったあった。ソレを確認して内心ほくそ笑む。


「晴子。お前は暇って言ってたよな?」

「まーな」

「そうかそうか」

「んー?」


 ならば文句は言えまい。


「じゃあ俺の代わりに宿題やれよ」

「――は?」


 持ってる漫画から視線を逸らし、こちらに向いた。


「今日な、宿題出たんだよ。だから代わりにお前がやれよ」

「な、なんでオレがやらなきゃいけないんだよ」

「学校に来るくらい暇なんだろー? だったら宿題ぐらいやれよ」

「ぐっ……」


 数秒間睨み合った後、何かを思いついたような表情をした。


「そ、そうだ! まだ家事が残ってるの思い出した! 今からやらないとなー! いやー宿題できなくて残念だなー!」

「嘘付いてんじゃねーよ」

「うぐっ……」


 こいつに嘘が通用しないということは、俺に対しても通じないということだ。


「…………あーもう分かったよ。やりゃいいんだろ!」


 ぶつくさ言いながら机に向かい、椅子に座る晴子。

 そして鞄から取り出した教科書とノートを机の上に置いた。


「んじゃこれな」

「げっ……よりにもよって苦手なやつじゃねーか……」

「俺は買物行ってくるから。後はがんばれよー」

「ちくしょー!」


 これはいいな。今度から宿題も晴子にやらせることにしよう。

 そうだ。夏休みの宿題とかも全部晴子に押し付けよう。我ながら名案だ。

 他人がやるのではなく『俺』がやるわけだから何も問題無いはずだ。うん。

 せっかくもう一人の自分が現れたんだ。有効活用しないとな!

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