第10話:ポニテの魅力

 学校が終わった後、急いで帰宅した。

 玄関を開け、靴を脱ぎ捨て、2階へと走り、部屋のドアを乱暴に開ける。


「晴子おおお! なんであんな格好で学校来たんだよ!? お前のせいで酷い目に遭ったんだぞ!」

「おう、おかえりー」


 晴子は胡坐をかいて座っており、こちらに見向きもせずに答えた。


「つーか、呼び出すのが面倒ならメールすりゃ良かったじゃねーか!」

「いやーだってさー暇だったんだもん」


 こいつ――! ………ってあれ?


「てか何してるんだ」

「んー? 見りゃわかるだろ」


 テレビ画面を見ると、そこにはゲームの映像が映っている。どうやら某大作RPG物をやっているらしい。コントローラーを握っていて、画面を凝視している。


「……それ、まだクリアしてないんだけど」

「知ってる」

「なんで勝手に進めてるんだよ!」

「安心しろよ。セーブデータは分けてあるから」

「そ、そうか」


 本当にこいつはもう……。怒るだけ無駄な気がしてきた。

 鞄を置き、ベッドの上に腰掛けて、後ろからテレビ画面を見る。こちらの事を気にもせずに夢中になっているみたいだ。

 ふむ……。


 …………


 少し経ってから立ち上がり、晴子の真後ろに座る。それでもこいつは動じなかった。

 目の前にはロングストレートの綺麗な髪があった。それを両手で触る。俺のゴワゴワとした髪と違って、こいつの髪は柔らかく、触り心地が良い。

 しばらくの間、髪の感触を楽しんだ。


 そうだ。ある事を思いつき、実行する事にした。

 晴子の頭に髪を集めて両方の手でもつ。頭の右側と左側に分けて、それぞれ指で髪の根元を束ねた。いわゆるツインテールである。……ふむ。なかなか似合っている。

 片方の手を放す。すると今度はサイドテールになった。これも悪くないな。


 今度は頭の後ろの少し高めに髪を持ってきて、根元で束ねた。ポニーテールである。

 やはりポニテはいい。シンプルだが不思議と魅了される。シンプルだからこそ奥が深い。そこらチラリと見せるうなじも魔力を秘めている。この髪型には無限の可能性コスモを感じさせる。それ程までに人を惹きつけてやまない。

 だからこそいい。

 だからこそ美しい。


 三つ編みにでもしようかと思ったが、やり方が分からず断念。

 両手を離し、いつものロングストレートへと戻った。


「……満足したか?」

「え――あ……うん」

「そうか」

「…………」


 なんとなく、こいつに仕返し的なことをしようと思ったのだが……全く動じないな……。こちらに振り向きもしない。

 ふーむ……。


 …………


 ならばこれはどうだ。

 そーっと、こいつの脇下から両手を前に出し――胸を鷲掴みした。


 モミモミ。


「――ッ!?」


 おお……柔らかい……

 ブラ越しだが、2つの柔らかい感触が手に伝わる。

 おっ、やっとこっち向いたので両手を離す。


「なにすんだよ」

「い、いや……サイズはどのくらいなのかなーって」

「サイズ? そんなことかよ」


 以前、ブラを購入する時にサイズを測ってもらったはずだ。


「一応、Dカップのブラ付けてるよ」

「Dかぁ……」


 大きすぎず小さすぎない丁度いいサイズ……さすがだ!

 いい機会だ。あのことを聞いてみるか。


「そういやさ……自分で揉んだりしないのか?」

「は?」

「ほら、せっかく女になったんだからさ」

「……あーなるほど。なんというかさ……そんな気分になれないんだわ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんさ」

「ふーん?」


 このあたりの思考がよく分からんな。俺が女になったら、胸の感触を楽しむと思うんだけどなぁ……

 体以外にも、こういった感情も変化してるのか……?


「つーか邪魔すんなよ。今いいところなんだよ」

「わ、悪かったよ」


 前を向き、再び画面を凝視し始めた。ま、このへんにしとくか。


 それにしても長い髪だ。んー…………アレを買ってやるか。

 立ち上がり、私服へと着替えた。


「買物行ってくるわ」

「あ、マヨネーズもついでに買ってきてくれ。そろそろ切れそうなんだ」

「わかった」


 部屋から出て、階段を下り、台所にある冷蔵庫の中を確認する。確かにマヨネーズの残りは少なかった。他にも欲しい物を頭に思い浮かべ、それらを買うことにした。


 スーパーに行く前に寄り道をし、アレを購入。買物を済ませ家に帰宅後、買った物を晴子にプレゼントした。

 寄り道して探し当てた物それは――『くし』だ。

 家にある櫛は安物の小さい物しかなく、あの長い髪をとかすのに苦労しそうだったので、晴子用に大きめの櫛を買うことにしたのだ。

 買ってきた現物を見て、あまり嬉しそうにしていなかったが、俺の気持ちを汲み取ったのか、受け取ってくれたのだった。

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