第9話:お届け物
セットした時計の目覚まし音が鳴り響き、それを止めると同時に起きる。意外とよく寝れた。
素早く着替え、部屋から出て台所のある1階へと下りた。ちなみに晴子も同時に起きたが、現状を思い出したのか、そのまま二度寝してしまった。
簡単に料理し、食事と弁当を作る。これがいつもの日常だった。晴子の分は作っていないが、自分で作るだろう。
身だしなみを整え、準備が終わったら玄関へ向かい家を出た。
さーてどうするかな……
今、目の前には教室の扉がある。俺のクラスだ。このドアを開ければ教室に入れるのだが――入り難い……
ある人物のせいで入るのを躊躇ってしまうのだ。もちろん幼馴染である美雪の事だ。あれから何も事情を説明していない為、非常に会い辛いのだ。
かといって、このまま廊下で立ち往生している訳にもいかない。……入るしかないか。
ドアの取っ手に手をかけ、息を呑む。そして、ゆっくりとドアを開いた。
案の定、既に美雪は先に登校しており、自分の席に座っていた。その姿を見て、心臓の鼓動が早くなる。
教室内に入り、美雪の隣である自分の席に座る――
「…………」
「…………」
き、気まずい……。何故何も言ってこない……!?
無言なのが逆に怖い……。
ガサッ
「……ッ!」
突然、美雪が鞄の中に手を入れたのだ。一体何が来るんだ!?
鞄の中から取り出した物。それは――本だった。小さな本で小説のようだ。それをパラパラとめくり、静かに読み始めた。
その後も互いに一言も喋る事無く、教師が入ってきてHRが始まった。
無事授業が終わり、昼休みへと突入した。
自分の鞄を漁り、弁当を取り出そうとする。が――
「……あれ?」
鞄の中を開けて弁当を探す。
「…………どうしたの?」
本日初めて美雪が発した言葉である。
「いや……もしかして……まさか……!」
ひたすら鞄の中を探すが、弁当が見つからないのだ。
「弁当忘れたっぽい……」
「…………」
呆れたような顔をしてこちらを睨んでくる。
「くっそ……やっちまった」
どうやら台所に置きっぱなしにしてしまった様だ。
「……私の……分けようか?」
「いやいいよ。売店で何か買ってくるから」
只でさえ、美雪は小食で弁当も小さいのだ。これ以上量を減らす訳にはいかない。
売店に向かう為に席を立とうとした時だった。
「お、居た居た」
教室のドアから見知った顔がこちらを覗いたのだ。
「は、晴子!?」
そいつは晴子だった。教室内に入ってきて、目の前で止まった。
「ど、どうしてここに!?」
「お前さー弁当忘れたろ? ほら」
俺の両手の上に弁当が乗せられる。紛れも無く今朝作った弁当だった。届けにきてくれたのか。
ありがたいが……それよりも重大な問題がある。
「な、なんでそんな格好してるんだよ!?」
「いや、だって私服だと目立つだろ?」
「そうじゃねーよ!」
今の晴子は学校の制服を着ている。
そして俺の家には勿論、女子用の制服など持ってはいない。
つまり今のこいつの格好は――
男性用の制服を着ているのだ。
晴子の姿は、パッっと見、美男子に見えなくもない。
だがしかし、その顔つきとサラサラとした長い髪、そして何より胸元が膨らんでいる為、女としての印象のが強いのだ。
今の姿を見て、100人中、99人は女だと答えるだろう。
「なんで俺の制服着てるんだよ!!」
「他に無かったんだって。仕方ないだろ」
「なら校門の所で待ってればよかっただろ!」
「だって呼び出すの面倒だもん」
「だからって……」
「ま、とりあえず渡したからな。んじゃがんばれよ」
背を向け、片手を振りながら、教室から出て行った。
少しずつざわめく教室内。
『今の子誰だ』
『なんで男の制服着てるんだ?』
『もしかしてあの見た目で男なのか?』
『いや、胸あったし。女だろ』
『じゃあなんで男装してるんだよ』
『今の子綺麗だったねー』
『あんな子、うちの学校に居たっけ?』
『見たことないよね』
次第にざわめきが大きくなっていく。
そして一人の男子生徒が近くまで寄ってくる。
「おい出久保。今の子誰だよ」
「し、親戚の子だよ」
「なんで男の制服着てたんだ?」
「さ、さぁな」
「…………もしかしてお前の趣味?」
「ちげーよ!!!」
次々と寄ってきて俺の席を囲み始める。そして始まる質問攻め。
だ、誰か助けてくれ!
そうだ。美雪なら……!
「み、美雪! 助けてくれよ!」
隣の席に居る美雪に助けを求めるが――そっぽを向かれてしまった。
天は我を見放した――
その後も質問の嵐は止む事は無く、教師が入ってくるまで続いたのであった。
畜生、弁当食い損ねた……
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