ep2.霊鉱精の坑道2

■後神暦 1326年 / 春の月 / 地の日 pm02:40


――テンプルム山脈 謎の横穴


横穴の突き当りに設置されていた昇降機をティスと二人でまじまじと見る。



「ねぇ、バベルにも似たモノなかったかしら?」


「だね、柱の中にあったエレベーターと比べると旧式だけど…」


バベルの昇降機はマナを動力として動き、前世のエレベーターにも劣らない。

一方、目の前の昇降機はクランクが付いている、どうも人力で動かすみたいだ。



「…乗ってみる?」


「うーん…そうだね。戻ってまたあの熊に襲われても嫌だし…降りてみようか」


入口が剥き出しの昇降機に恐る恐る乗り込む。

上から吊るされているだけなので、かなり揺れる…怖いな…

不安定な足場でクランクを両手で掴み、力のいっぱい反時計回りに回す。



「ぃぃいよいっっしょぉおぉぉっ!!!!」


「……年寄くさいわ」


「じゃあティスもやってよ…結構重いんだよ…?」


「無理よ、あたしには大き過ぎるの分かってるでしょ?」


くだらない言い合いをしながらクランクを回し続ける。

ガタガタと複数の歯車が回る音を鳴らし、昇降機は横穴の底へ降りていく。

少しの間を置き、ガタンと床が地面につく感触が足に伝わった…終点だ。

ここは山脈の地下、と考えていいのだろうか。



「また一本道っぽいね、行こうか」


「待って、その前にあの子たち迎えに行った方が良いんじゃない?」


確かにティスの言う通りだ。

魔熊まゆうを逃げるとき、先に拠点へ逃がした子供たちは僕たちの安否を知らない。

きっと心配させてしまってるだろう、配慮の足りなさを反省しつつ、ポータルから拠点へ戻った。



「「ミー姉ちゃんっ!!」」

「ミーツェ~」


「おっと…」


扉を抜けてすぐに子供たちとスフェンが腰に抱き着いてきた。

ずっと待ってくれていたようだ。

三人の頭をわしわしと撫でてから、目線を合わせて横穴のことを説明する。



「あの後、僕たちも逃げたんだけどさ、山に洞窟みたいな横穴を見つけたんだ。

あっちこっちに光る石が埋まっててね、すっごい綺麗なんだー」


「みたいっ!」「ヴィーもっ!」


「ミーツェ~、それたぶん霊鉱精ドワーフの坑道なんだよぅ。

おじいちゃんも『見たことはないけど、坑道には光石ライトライトがいっぱいあったらしい』って言ってたんだよぅ」


「なにその変な名前の石…」


あの幻想的な鉱石の名前が残念なことは一旦置いておこう。

それよりも、坑道である可能性が高いってことは、このままクリスティアに抜けられるかもしれないってことだ。



「じゃあ、魔物からも逃げ切ったし、皆で坑道を探検しよっか!」


「「「おーっ!!」」」


避難させた三人を連れて坑道へ戻り奥へと進んだ。

オーリもヴィーも光石ライトライトに興味津々で、一つ一つ触りながら歩いている。

ここを抜ける前に少しだけ掘り出して持っていこう、そんなことを考えているうちに開けた場所へ出た。


いや、”開けた場所”は正確な表現ではない。

整備された道、等間隔に立てられた灯りに石造りの家、これは”街”だ…

巨大な空洞の中に街がすっぽりと入っている。



「ねぇ、もしかして、ここって霊鉱精ドワーフの…――」


――おいっ!!


僕が言い終える前に建物の影に隠れていた者たちが立ち塞がった。

背が低く尖った耳、霊鉱精ドワーフで間違いない。

いつの間にか後ろにも回り込まれている、完全に囲まれた…


霊鉱精ドワーフが坑道で生き残っていたことに驚いたが、それ以上に彼らが持っている武器に驚愕を隠せなかった。

蓮根レンコンのようなシリンダーに剥き出しの撃鉄……リボルバータイプの銃だ。



「お前ら、どうやってココにきたっ!?」


「いきなり何よ、普通に山に空いてた穴から入ったわよ」


ティスが堂々と答える。

しかし、相手は納得していない。



「嘘吐くな! 俺たちの魔導具で隠蔽してたはずだぞ!」


「残念ね、そんなもの妖精族あたしには意味ないわよ?」


「んだと…?」


攻撃的な物言いにティスも苛ついたのだろう。

挑発するように言葉を返したが、それがいけなかった。

リーダー格と思われる霊鉱精ドワーフの男がティスに銃口を向ける。

僕は彼女の壁になるように霊鉱精ドワーフの前に出た。



「銃を向けないでくれる? 僕たち嘘なんかついてないよ」


「なんでコレも知ってんだよ…!」


「僕も持ってるからだよ」


これ見よがしに肩にかけているPDW短機関銃は銃器と認識できていないようだったので、ホルスターからハンドガンを抜いて見せる。

僕らを取り囲んでいる霊鉱精ドワーフたちがザワつく。

気持ちは解る、僕も同じだ、銃は自分たちしか知り得ないとでも思っていたのだろう。


初めは目を白黒させていた銃を向けた霊鉱精ドワーフだったが、急に険しい表情になる。

視線を追ってみると僕の後ろにいたスフェンを見ているようだ。



「お前ら……もういい! こいつら連れてけっ!!」


そう霊鉱精ドワーフの男が発すると、取り囲んでいた者たちも一斉にこちらに銃口を向けた。

もしかすると、スフェンドワーフを攫ってこの街に案内させたと思われたのかもしれない。



マズいな……誤解だって言っても聞いてくれなさそうだし、抵抗しようか…?

……いや、ダメだ、子供たちを巻き込みたくない。

それに人質をとられる可能性だってあるんだ、一旦おとなしく捕まった方がいい。


こんなことろで足止めは喰らいたくない。

しかし、思い出されるのはオーレリアで人質を取られて事態を悪化させた苦い経験。

深呼吸をして自分を落ち着かせ、銃を手放し両手を上げた。



「抵抗しないよ、でも子供たちには絶対に手をださないでね。

もしこの子たちに暴力振るおうとしたら…僕は何するか分かんないからね…?」


睨みはせず、ただただ霊鉱精ドワーフの男から視線を逸らさずに告げた。

これは脅しではない……オーリにヴィー、もちろんティスやスフェンにも、僕の家族に危害を加えるつもりなら容赦はしない。


何を引き換えにしてでも必ず止める…これは絶対だ。




「……………」


霊鉱精ドワーフの男は何も言わなかった。

代わりに顎で他の者に僕たちを何処かに連れて行くように指示を出す。



何処に連れてかれるんだろうねalmA。

僕は浮かぶ多面体と子供たちを護るように霊鉱精ドワーフの街を歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る