chap.10 古代種と不死の蛇

ep1.霊鉱精の坑道1

■後神暦 1326年 / 春の月 / 地の日 am10:30


――グライズリー領 テンプルム山脈付近


隣国クリスティアへの抜け道を探す為、芸術の街アルテスタから出発して10日。

ようやく目的の山脈近くのまで辿り着いた。

岩肌が剥き出しの山の麓には鬱蒼とした森、手つかずの原生林といった感じだ。


ここから先は荷車は使えない。

それ以前に遠目からでも分かっていたが、目的地のコレって山と言うより…



「壁じゃん…どうやって登るのさ…?」


「探すのは坑道なんだから登る必要ないんじゃない?」


そりゃそうだ。

坑道を作る側も、こんな断崖絶壁の中腹になんて入口なんて作れないか。

もっともなティスの意見に頷きつつ、荷車から必要なものだけを降ろす。



「ここからは歩きだから荷車は拠点に戻すよ~」


「「「はーい!!」」」


ひょこひょこと荷台から飛び降りて荷物を選ぶ子供たちとスフェン。

子供たちと並んでも違和感がない彼に苦笑いが浮かぶ。

スフェンの実年齢は僕より上だ。

それでも無邪気に行動できるのは心が純粋なのだろう、羨ましい限りだ。



「念の為に武器も持ってね、スフェンはコレ」


「むぅ…ボクもミーツェと一緒のがいいんだよぅ…」


「スフェンが撃ったらひっくり返っちゃうと思うからコレで我慢して、ね?」


スフェンに渡しモノは収穫祭でも使ったダーツガン。

僕のPDW短機関銃は彼には反動が強すぎる。

その点、ダーツガンは空気圧で射出するので反動も軽微だ。


初めは渋々と受け取っていたが、暫くするとハンドガンを持つ子供たちと一緒に銃を構えて遊んでいる、玩具じゃないんだけどね…



「さて…行こうか」


膝までの高さがある草や、長く伸びた枝を鉈で斬り払いながら森を進む。

たまに見かける大きな虫に鳥肌がたつけれど、子供たちの手前、怖がるワケにはいかない。



「ミーツェ、無理しなくてもいいのよ?」


「むむむ無理なんかしてないよ、僕に任せて!」


「almAに先頭に立ってもらえばいいじゃない」


そうか!

その手があったね!


「almA! 先行して道を作って!!」


掌くるっくるで相棒へバトンタッチし、殿しんがりへ移動する。

虫…キライ…虫…コワイ…


普段はふわふわと浮いているalmAが地面を擦るように進み、後には草の避けられた獣道が作られる。

僕の相棒は本当に何でもできるのだ、と自分の手柄でもないことに鼻高々だ。

目印としている山が高いお陰で森の中でも方向を見失うことはない。

暫く進むと不思議なことに原生林然とした森は様相を変えた。



「この辺、人の手が入った感じしない?」


「ツーク村の森みたい!」「うんうん!」


「やっぱりそう思うよね…」


山に近づくほどに森が整理されてるなんておかしい、普通逆じゃない?

森の中に集落がある可能性もあるけれど、もしかしたら近くに坑道があってまだ霊鉱精ドワーフが生活してるのかも…!


そんな希望が見えた矢先、落雷と聞き間違えるような獣の咆哮が響く。

驚いて音の方向に銃を向けたが唖然とした。

熊だ、それも恐らく魔獣……なにせサイズが軍用車並み。

かなり距離があるはずなのに二足で立ってこちらを睨んでいる。


完全にロックオンされた、こんな森のクマさん聞いてない…



「逃げてっ!!」


反射的にポータルを出して子供たちとスフェンを避難させる。

本当なら僕も逃げてしまいたいが、ポータルから戻るときは同じ場所からしか戻れない。

万が一、出待ちなんてされたら、それこそ詰みだ。



「ここで倒すよ!!」


バカでかい熊に短機関銃を向けて乱射する。

跳ねる銃口を力で無理やり抑えてトリガーを引き続けた。

P90をモデルにした思われるこの銃は装弾数・連射力が非常に高い。


グリップより後方に備わった排莢口からパラパラと薬莢が排出され、50発の銃弾をあっと言う間に撃ち切った。



「ティス! リロードお願い!!」


弾は当たってる、当たっているのに魔熊はまだ倒れない。

距離は目算で100m弱、間違いなく有効射程のはず。

それなのに怯むどころか血も出てないように見える。

こうなったらやれることは一つだ。



「逃げるよ!!」


すぐに前言を撤回する。


「倒すんじゃないの!?」


ティスがツッコむがそれどころじゃない。


「今の装備じゃムリ! だってピンピンしてるよ!? 相手が本気で追ってくる前に逃げる!!」


リロードしてもらった銃弾をばら撒きながら魔熊を迂回するように走った。

こちらが撃っている間は相手も顔を護るように足を止めるので逃げ切れる。

そう思っていたが、魔熊が体制を低くしたことで状況が変わった。



「ちょっとミーツェ!! 突っ込んできたわよ!?」


守りを無視して魔熊が突進してくる。


「嘘でしょ!? almAぁぁぁ!!

――”戦術技能タクティカルスキル ウォールバッシュ”!!」


多面体のボティを正方形に変えたalmAが魔熊の進路を阻む。

しかし、突進を防ぐことはできずに僕たちの方向に弾き返された。

almAがここまで力負けするなんて初めて見る。



「ヤバいって、バケモノじゃん…!」


「ミーツェミーツェ!! あそこっ! あの横穴に逃げて!!」


「横穴ってどこ!?」


閃光手榴弾フラッシュバンを投げながら逃げているとティスが叫んだ。

僕は急いで辺りを見回すも横穴なんてない、見えるのはほぼ垂直の山肌だけ。



「右に曲がって!! あとは真っ直ぐよ!!」


「え? え!?」


「良いから走って!!」


もうどうにでもなれっ!!


自分でも正気じゃないと思うけれど、ティスに従って絶壁に体当たりするように飛び込んだ。

壁にびたーん、とぶつかることを想像し、ぎゅっと目を瞑ったが、ぶつかったのは壁ではなく地面だった。

飛び込んだ勢いで受け身を取れずにごろごろと転がり、慌てて周りを見回す。



「は? どう言う事…?」


「壁に見えてたのは幻ね」


「いや、言ってよ……僕、壁に飛び込むのかなり怖かったんだからね」


ティスには幻覚が類いが効かない、彼女には横穴が見えていたのだ。

説明するヒマがなかったことは分かっているけれど、逃げ切った安堵から少しだけ悪態を吐く。

ティスも分かっているのか、飛び込む直前の僕のマネをしてからかってきた。

almAも追いついき、お互い軽口を叩き合ったところで彼女に言う。



「取り合えず、進もうか…」


「そうね」


横穴はポータルが出せる程度には広いが、入口は狭く魔熊は追って来れないだろう。

そしてもう一つ、不思議なことに穴の中は光源が要らないほどに明るい。

壁に埋まった鉱石が光っているのだ。



「光る石ってなんか幻想的だね」


「そう? 魔石だって光るし、花畑でも光る花があったじゃない」


「僕はすごいなって思うんだもん…もういいよ…」


ロマンが分かってもらえずに少しだけ拗ねて、どこに続いているか分からない横穴を進んだ。

そして突き当りで前世の歴史の教科書で見たことのあるモノが目に飛び込んできた。


天板がロープに吊るされ、滑車を通して下へと続いている。



「これって…昇降機?」



もしかして此処が坑道なのかなalmA。

僕は浮かぶ多面体を跨って昇降機が続く穴を覗き込んだ。


【横穴に飛び込むメルミーツェ イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093077550301802

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