ep3.霊鉱精の坑道3

■後神暦 1326年 / 春の月 / 地の日 pm06:00


――霊鉱精ドワーフの街 独房


「またかぁ……」


 転生3年目にして牢に2回も入れられるなんてある?

 しかも今回は独房にグレードアップ……僕が何したってんだ……


 頑丈そうな鉄扉に石造りのこれまた頑丈そうな壁。

 魔導ランプは設置されているけれど、僕には使えないので室内は薄暗い。

 なにより霊鉱精ドワーフサイズで天井が低いっ!!


 そこまで背が高くない僕が立ち上がって頭上すれすれ……

 扉は屈まないと額をぶつけてしまうくらいだ。



「これだと高さが足りなくてポータル出せないじゃん……どうしよっか……」


 武器の類いは独房ここに入れられる前にられた。

 almAも魔導具と思わたみたいで武器と一緒に持っていかれた。

 とは言え、手持ちの道具を全て失ったワケじゃない。

 何故ならボディチェックを躱してフォールディングナイフや部隊編成端末UMTは没収されていないからだ。



 まぁ……咄嗟に『エッチー!!』と騒いだのは黒歴史確定だけどね……

 ともかく、相手がピュアな連中で助かったよ。


 さて、これから取れる行動は多くない。

 対話か脱獄のどちらかだ。


 スフェンを見た後の反応から霊鉱精ドワーフは何か誤解をしているかもしれない。

 話す機会さえあれば、それを解く自信はある。

 交渉力に全振りした編成すればピュアな彼らを納得させることは簡単だろう。


 ただ、この坑道の霊鉱精ドワーフたちが排他的な考えだった場合は別だ。

 真正面からぶつかる気はないので、その場合は逃げる一択。



「できるだけ状況を把握しなきゃ」


 鉄扉に今となっては違和感もなくなった猫耳をぴったりとつける。

 ひんやりと冷たい扉の外から二人の話し声、他に人がいる気配はない。

 部屋にいる時は何を話してるか分からなかったけれど、扉伝いならギリギリ内容が聴きとれる。



『なぁ、今独房に入れてる奴って帝国人じゃないんだよな?』

『たぶんな、それに軍人じゃないだろ、あんな服装みたことないぞ』


 帝国ってなんだ?

 でも敵対関係にあるってことは解る。

 それに僕が無関係だって向こうも分かってるみたい、だったら解放してよ。


『だったら牢に入れる意味なくないか?』


 そうそれっ!


『いや、生贄の身代わりにするんじゃないか?』

『え? それマズくないか? どんな魔法使えるか分かんないだろ』


 ちょっと待って、すっごい不穏なワード出たけど?

 銃火器使ってるクセに考え方が旧時代過ぎるって。



「……ダメだ、これは脱獄一択だ」


 扉から耳を話して呟く。

 先ずはここの看守以外に悟られずに独房を出て皆を探す。

 次にポータルで拠点に戻って、アルテスタからもう一度リスタートしよう。

 時間をロスしてでも安全を優先するべきだ。



 脱獄の算段はある程度つけてある。

 部隊編成端末UMTを操作して編成を切り替えて……


 ――……Ready



「助けてくださいっ!!」


 ……意味の分からないことを喚いて鉄扉を何度も叩く。


 覗き窓から看守が覗くだろうけど見えるはずがない。

 隠密ステルスのスキルを使っているし、念の為に死角に潜り込んでる。

 そうすれば……



「おいっ! 何処にいる!?」


 看守は焦るはずだ。

 姿を見せずに「ここです……助けて……」と弱々しく訴える……そうすれば。


 ――ガチャりと鉄扉から開錠音がする。


 やっぱり開けるよね。

 さぁ、一人で入って来るかな、それとも二人?



「いないぞ!?」

「ランプをつけろ!」


 入って来たのは二人、ツイてる。

 一人で入って来たら、外に残った奴を気絶させる必要があったけれど、それが省けた。



 ――”欺瞞技能トリックスキル ワイヤースティール”……!



 名前の通り、盗みスティールのスキル。

 ワイヤーを生き物みたいに操って獲物を音もなく搔っ攫う。

 ティスへの悪戯で何度も使っているので、スキルを使いこなせている自負はある。


 ワイヤーは自分の髪をナイフで切って細い三つ編みを作って繋げた。

 僕の髪は看守からするりと鍵を盗み取る。

 後にやることは簡単だ。



「おい! 扉が閉まったぞ!?」


 入れ違いで外に出て施錠して閉じ込めればいい。

 鉄扉は耳をつけないと外の会話が聴こえないくらいには防音がされいる。

 そこそこ時間を稼げるはずだ。



「うんうん、我ながら鮮やかだったんじゃない?」


 得意気に腕を組んで誰も見ていないのにドヤ顔を披露した。

 しかしすぐに切り替える、今は実質子供たちを人質に取られてる状況だ。

 霊鉱精ドワーフの二人を閉じ込めたことに気づかれるまでがタイムリミット、急ごう。



 連れてこられるまでに通った建物の造りは覚えてる。

 隠密ステルススキルがあるので見張りを気にせずに通路を駆け抜ける。

 建物自体がそこまで大きくないこともあって、ティスたちの閉じ込められている場所はすぐに見つけることができた。



「ミーツェ!!」


 隠密ステルスを看破できるティスが僕に気づく。

 見張りが居ないようなので構わないけれど、大声はマズい。

 唇に人差し指を立てて声を抑えるよう『しーっ』と手振し、彼女の元に向かう。

 一般的なイメージの格子牢、どうして僕だけ鉄扉の独房だったんだ……



「大丈夫? 何もされてない?」


「えぇ、でもスフェンがあたしたちとは別のところに連れてかれたわ」


「それはちょっとマズいね……」


 予定ではオーリとヴィーの魔法で姿と音を消し、全員で建物から出るつもりだった。

 スフェンを探してから逃げるか、一旦子供たちだけ逃がすか、逡巡しているうちに辺りが騒がしくなる。


 どうも僕が逃げたのがバレたみたいだけど、早すぎないか?



「はぁ……ドラマやマンガみたいに上手くはいかないんだねぇ……」


「何言ってるか分からないけど、大丈夫なの!?」


 大丈夫じゃないよ、でもこうなったらやるしかないじゃない?

 それにオーリとヴィーを見て思ったんだ。

 よくも、うちの子たちを怖がらせてくれたね、怖くて尻尾丸まってんじゃん。


 状況は悪いけれど、まずは安心してもらえるようにティスに笑顔で応える。



「大丈夫、ティスは二人と一緒になかに居て、そっちの方が安全そうだから」


 今の言葉に嘘はない。

 人質が取られない状況なら勝ち筋はある。

 挌闘戦ができるように編成だって変えている。

 それに何より……僕には切り札があるじゃないか。



「almAぁぁぁぁぁ!!!!」


 大きく息を吸って声を張り上げた。

 almAは絶対にこの建物のどこかにいる。

 だったら間違いなく応えてくれるはずだ。



「さぁ……こいよ。子供たちが後ろにいるなら僕は絶対に退かない」



 でもなるべく早く来てねalmA。

 強気なのか弱気なのか、僕は浮かぶ多面体の到着をそわそわと待った。

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