ep19.収穫祭のその後、そしてアルテスタ出発

■後神暦 1326年 / 春の月 / 星の日 pm01:00


――アルテスタ 『ラ・マガザン・ド・ブラン』


 収穫祭から数週間、暦も変わり春の月。

 この数週間は本当に慌ただしかった。


 アニマの作品の噂が領主の耳に入り、当初の狙い通り謁見まで漕ぎつけた。

 幾度も妨害をしてきたエラトは収穫祭の一件から目立った動きはない。

 領主にも期待されるアニマにはもう絡んでくることはないだろう。


 山脈への立ち入りが許され、アニマも世間に徐々に認められ、全ては順調。

 そう思っていたら、すぐに星喰い。


 花畑、ツーク村、リム=パステル、ヨウキョウ、バベル、訪れた全ての土地に星喰いの影響がないか確認して回ったけれど、幸いなことにアルテスタを含め、今回は何処も影響がないようだった。


 そんなバタバタした期間を乗り越えて、ようやく一息つくことができている。

 しかし、僕たちはそう長くゆったりとしていられない。



「そうか、じゃあ準備が出来たら出発するんだな」


「そうだね、なるべく早く助けになりたい人がいるんだ」


 店のカウンターに座りアニマへ今後のことを話す。

 入山の許可を得た僕は準備が整い次第、隣国クリスティアへ向かう。

 ファルナの力になる為だ。



「でもなんで山脈にいくんだ?」


「ごめん、それは言えない」


 バベルで聞いた霊鉱精ドワーフの坑道。

 今もそれが在るのかは分からないけれど、国が認知していない隣国に繋がるルートの存在はいくらアニマたちでも話すことはできない。

 下手をすれば彼らに迷惑がかかるかもしれないのだから。


 あまり掘り下げられたくないので僕は話題を変えた。



「それにしてもアニマは良かったの? 領主がパトロンになってくれるって話を蹴っちゃってさ。資金で困ることなくなるんだよ?」


「良いんだよ。オレはまだアルテスタを離れたくないんだ」


「……そっか」


 領主グライズリー伯爵はアニマの絵を『革新的』と評価した。

 領民からも”良い意味で芸術バカ”と言われているだけあって、先見の明と審美眼が備わってるのだろう。羨ましい限りだ。


 そんな伯爵の申し出をアニマは断った。

 何故なら、アルテスタから離れる必要が出てくるからだ。



 まぁ、ラメンタが街に居る限り、断ると思ってたよ。

 でもさ、それなら今のままってどうなんだろう……?


 そう思うと、自然とアニマに問いかけていた。



「ねぇアニマ……僕が言う事じゃないと思うけどさ、ラメンタにちゃんと気持ち伝えてあげた方が良いんじゃないの?」


「………………」


「ラメンタが収穫祭で演奏しなかった理由、分かってるでしょ? 

音楽が大好きなラメンタが演奏しなかったんだよ?」


「分かってる……でも怖いんだ……

どう転んでも今までの関係とは変わる、オレにはそれが怖い。

自分でも卑怯で臆病だと思う、でも、いざってときに言葉が詰まるんだ」


「……そっか……そうだね、怖いよね。

出過ぎたこと言ってごめん、ゆっくり考えて」


 アニマの言葉は意外だったけれど共感もできる。

 そう感じた僕はこれ以上話を続けることができなかった。


 変化を受け入れるのは勇気が要る、失敗への恐怖もあるかもしれない。

 でも彼は領主に認められて半分約束されたような画家人生より、アルテスタに残ることを選んだんだ。

 その選択は変化を恐れたワケではなく、ラメンタへの想いからだと僕は知っている。



 ――『大丈夫だよ、大切な人がもっと大切な人になるだけだよ』



 本当はそう言葉をかけたかった。

 でもそんなことはアニマも分かっているはず。

 彼ならいつか勇気を出せる、そう信じている。

 だから、これ以上の言葉はきっと蛇足なんだ。


 会話が途切れた僕たちは、その日はすぐに解散した。

 そして何事もなく数日が過ぎていく……



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1326年 / 春の月 / 天の日 am09:00


――アルテスタ 街門前


 山脈へと向かう準備も整いアルテスタを発つ日になった。



「いよいよ出発か……気をつけてな」


「うん、ありがとう。ところで髪切ったんだね、似合ってるよ」


 目が隠れるほど伸びた前髪を切ったアニマと別れの挨拶を交わす。

 自分の芸術への信念を固めた彼は、初めて会った時とはまるで別人。

 陰鬱な雰囲気など微塵もない爽やかな好青年といった感じだ。


 そんな彼の横でラメンタはぼろぼろと涙を流す。

 普段は日の光のような笑顔の彼女は今日は曇り……いや、雨模様だ。



「うぐっ……メルた~ん……さびしーよー……」


 印象が二人とも初対面のときと真逆だ、と内心クスりと笑ってしまった。

 思えばラメンタに出会えたことで隣国クリスティアへの越境の突破口ができた。

 彼女には感謝してもしきれない。



「大丈夫、また遊びにくるよ」


 僕はいつものラメンタのように精一杯の笑顔を二人に向ける。



「あぁ、いつでも来てくれ、待ってるからな」


「アタシちゃんも、アタシちゃんも待ってるからね……!」


「うん、きっとまた来るから。

それと、あの……ルベラさんのこと、どうかよろしくね」


「「もちろん(だよ)」」


 動力船にはルベラさんが残って維持をしてくれると言ってくれた。

 古代種エンシェントである彼女を一人残すことは心配だけれど、ポータルからバベルへ戻れるし、ラメンタやアニマもいるのできっと大丈夫だろう。



「じゃあ、行くね。

二人とも本当に楽しかったよ、ありがとう!」


 僕たちはalmAが牽くいつもの荷車に乗ってアルテスタを出発した。

 ゆっくりと小さくなっていく二人の姿が見えなくなるまで、子供たちと一緒に手を振り続ける。


 アニマとラメンタ、彼らの進展を見届けられなかったのは心残りだけれど、それはまたこの地に戻ったときの楽しみに取っておこう。

 それぞれ違った辛い過去を持つ二人の今後に幸多からんことを願うばかりだ。



 そして戦地にいるであろう友人の無事を祈ろう。



 山脈の坑道……残ってるといいねalmA。

 僕は荷車を牽く浮かぶ多面体越しにクリスティアの方角を見つめた。


【髪を切ったアニマート イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093076157039074


◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇

[chap.9 芸術の国イゼルランド]をお読み頂きありがとうございます!

今章はあまり武力を使うことはなく、サポートに回ることが多い章でした。

この後は幕間とあるキャラクターの別視点の話を挟み、次章に移ります。


ミーツェとティスから主人公とヒロインの座を奪ったアニマートとラメンタ。

二人のその後は幕間にて語らせて頂きます。

そして、今章では二つ名を神回避できたと確信しているミーツェですが果たして……


引き続きお付合い頂ければ幸いです。

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